第40話 8回戦

 8回戦第1試合。


 こちらの戦略は『シェアスタン』+『猛獣使い』で攻めに行き、『後退却下』で退路を断つという物。この必殺コンボは残り回数が少ないので温存しようかとも思ったが、手に入った能力の関係上、1戦目であえて見せた方が有効だと判断した。


 対して相手はなんと『インフィナイフ』+『代償強化』という俺が以前に採用した戦略で来た。俺の所持能力も増えているし、有効な組み合わせである以上こういう事もあるだろう。もう1つは『電体』という触れた相手を感電させる能力だった。


 展開は、まずお互いに近づいていき、近接格闘に入る。こちらは『猛獣使い』であらかじめ虎を召喚していたので、相手は虎をまず処理しようとしたようだが、その隙を突いてタマルが『シェアスタン』を発動させた。敵意むき出しの虎の前で3秒も気絶したら結果は見えてる。


 『シェアスタン』が発動するに際して相手の『電体』も同時に発動したのだが、感電したとて3秒の気絶時間が増える訳ではないらしく、相性はこちらが有利だった。致命傷を負わせた後も相手は虎を感電させたりして足掻いていたが、1人と1匹を相手にするのはやや辛かったようで、決着。タマルの勝利。


 8回戦第2試合。


 前日に入手していた能力『スライド』の初投入。この能力は被った『チャージショット』と相性が良く、溜めながらの高速移動が可能になった。そして溜めた必殺の一撃を確実に当てられるように、『眼制疲労』も採用。チャージアンドアウェイ戦法とでも名付けようか。


 相手も前日と丸っきり能力を変えてきて、『空中浮遊』+『雹弾』でという組み合わせだった。空を飛びながら一方的に『雹弾』を投げられるというのは確かに厄介なんだが、インターバルの関係で1回撃ったら降りなくちゃならないのがいまいち噛み合ってない感じだった。もう1つの能力は我が青春の『番犬』だったのだが、攻める命令をすると『雹弾』に巻き込まれる可能性があって、しかもこちらが『スライド』で逃げまくるので扱いきれていなかった。

 最後は疲労が溜まった所で着地を狙い、番犬もろともの一撃必殺。かめはめ波のポーズのまま床を滑って移動するタマルがゲームでバグった人みたいで印象的な1戦だった。


 そんなこんなであっさりと2連勝。今回は能力の引きの良さと、相手がこちらに相性の悪い選択をしてくれたおかげもあって、楽といえば楽だった。まあ実力というよりは運が良かっただけだと思う。思っとこう。


 サロンのメンバーはというと、偶然にも全員が2日目で決着がついた。雨宮先輩は負けてランク7に戻り、橋本も負けてランク5。浅見先輩が久々の勝ちでランク8。2日目の試合前に、「もしお前なんかにランク越されたら自殺したくなるぜ」とか言われたので、勝てて一安心といった所だろう。だが次回までには遺書は書いておいて頂きたい。


 さて、という訳で目下の問題はランク7報酬の「指定した能力がもらえる」だ。今とにかく必要な物を貰うか、将来的に必要な物を貰うか。


 候補はいくつかある。

 1つは、何回も出て来ている『斬波刀』。本当に好きだなと我ながら思うが、本当に好きだ。何か特定の作品に影響されてという訳ではないんだが、タマルみたいなキリっとした女の子が日本刀持ってると何かこう、心の中のおちんちんがムズムズするというか、いや決して変な意味じゃないんだが、何かこう、ぐわあああ、みたいな。な?


 かといって趣味にだけ走るのは良くないので実用性を考えてみよう。一応、今回手に入れた『スライド』とは相性が良いっちゃ良い。衝撃波をバンバン放ちながら移動出来る。ただ、『スライド』はおそらく『チャージショット』と組み合わせて消費するだろう。

 『用心棒』に『斬波刀』を持たせるというのもアリだが、『用心棒』は逆に残り回数があと1回と少なすぎる。てな訳で『斬波刀』を選ぶのはいくら何でも悪手なんだが、ぐぬぬ……。


 もう1つの候補は、『フリーズ』。元々持っていた能力だから使い勝手を理解してるし、橋本が言うように攻守に渡って便利だ。『チャージショット』をぶち当てるのにも使えるし、言う事ない。ただ、刺さらない相手にはとことん刺さらなかったりもする。


 こんな時にこそタマル本人と相談したいのだが、1日10分しか与えられない時間では作戦の確認をするのに精一杯だし、次の自由時間まではあと5日もある。それに出来れば自由時間くらいはPVDOを忘れて欲しいとすら思っていて、純粋に楽しい日常を送らせてあげたい。


 だからここは俺が決めなきゃならない。タマルのメンターとして。


 けどちょっとサロンの人間に相談くらいはしておこう。そう思い、クローゼットの扉をくぐると、浅見先輩しかまだ来ていなかった。ちっ、と心の中で舌打ちしつつ、向かい側に座る。


「本部どうでした?」

「どうもこうもねえよ。前に言った通りだ」

 能力少女会の最後の方で突然現れてなんか言ってたなと思い出す。


「とんでもない組織なのは元から知ってますよ」

 浅見先輩は酒を一杯呑んで、「やっぱ分かってねえな」と呟いた。


「口止めされてるから詳しくは言えねえが、お前は今とんでもねえ事に知らずに関わってる。真嶋が調子に乗り出した理由も分かったよ。世界を救ってるって思えばああもなるわな」


 世界を救う?

 何を言ってるんだこいつは。頭がおかしくなったんじゃないか。

 という目線で見ていたのがバレたが、殴られはしなかった。ただ、小馬鹿にしたように鼻で嗤われた。


 なんかムカつくな。ランク10だっけ? あっという間になってやらあ!

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