第39話 能力少女会
能力少女会こと3人はソファーに座ってもらい、我々怒腐劣麺侘亜互助会の3人はカウンターに座ってその様子を眺めている。普段1対1で殺しあってる少女達がテーブルで並んで紅茶を飲んでいるのを見ると、違和感と安心感が同時に湧いてきて混乱する。
気にしないフリをしつつ3人の会話に聞き耳を立ててみると、基本サキちゃんが見ているアニメの話をして、タマルはそれを真面目に聞いている。ルカちゃんは浮いた格好のせいかどこか居心地悪そうにモジモジしている。
いいですねえ。
3人で会わせてみようと提案したのは俺だが、その試みは成功しているようだった。どんな形であれ視野は広げるべきだ。タマルには健やかに育って欲しいので、俺としか喋れない環境は好ましくない。かと言ってタマルを俺の両親や友達に紹介したら別の方向で困った事になる。
なので、少女同士で関わりを持つのが1番良いと思ったのだ。同世代だし、同遺伝子だし。気が合わない事はないだろうと予想したが、観察してみると意外に個性があって普通に同級生のように見えた。
「甘やかすのも良いけど、勝たないとまずい事になる。俺から言えた事じゃないが」
3人のやりとりを微笑ましく眺めている俺に釘を刺したのは橋本。
実は昨日の試合、橋本は負けてしまってランクが下がった。俺は逆に上がったのでランクで言えば同じ6だが、なったのと落ちたのとでは意味合いが違う。
「能力が無くなれば処分。それ自体はランクいくつ上がっても変わらないからねぇ~」
スマホでルカちゃんの写真を撮りながら雨宮先輩が言った。着せ替え人形みたいにして遊んでいるらしい。
だが確かに2人が言う通り、いくら出来るだけ楽しい時間を提供しようが良質な教育を提供しようが、負ければその瞬間に終わり。メンターとしての記憶は消され、少女達も処分される。それだけは避けなくちゃならない。
現状、サロン「テセウスの船」メンバーのランクは、雨宮先輩が8。浅見先輩が7。俺と橋本が6でほぼ横並び。リーダーの真嶋は29に落ちててざまあみろって感じだが、依然としてその差は大きい。勝率も良いらしいので、おそらく所持能力も選びたい放題って感じだろう。
同じサロン同士でのマッチングがされないというのは非常にありがたい事だが、その分ランクの離れた格上と当たる可能性も出てくる。そこで勝てるかどうかがこれから先重要になってくるだろう。
「でもさでもさ、実際勝率凄いじゃん。ここまでで負け越し1回だけなんしょ? このままランク10もぬるっと行けちゃうんじゃない?」
雨宮先輩の無責任な発言で、またうっかり調子に乗りそうになったが、それが命取りなのは重々承知だ。1歩ずつ堅実に。PVDOに近道はない。
「ちなみになんですけど、橋本と雨宮先輩はランク7報酬何選びました?」
試合に関しては大体コツも掴んできたが、盤外での戦略についてはまだ俺も浅い。そして目下の悩みは、次のランク7報酬だった。
「俺は『フリーズ』にした。どの能力と組み合わせても便利だし、選んだ後にもし被ってもダメージ無いからね」
「あたしは『海帰』ね。相性の良い能力がちょうど余ってたんだよね。それに火対策にも便利な訳」
なるほど、橋本は攻守で使い勝手の良い能力を選び、雨宮先輩は自分の手持ちを前提に選んだのか。
ランク7報酬。それは「自分が選んだ能力を1本もらえる」というシンプルな物だ。
シンプルなだけに悩ましい。ここで有効な選択が出来るかどうかが今後の試合に大きな影響を与えるといっても過言ではないだろう。あ、ちなみにランク6と7を行ったり来たりしても毎回能力がもらえる訳じゃない。あくまで昇格1回目だけのようだ。
とはいえ、ランク7に上がるにはこれから2回勝たなくてはならず、それが達成出来た頃には手持ち能力も変わっている。だから今悩んでも全然状況が変わっている可能性はあるが、候補くらいは挙げておきたい。
現在の所持能力。
H-21-W『ワールドエンド』残り:2回
H-04-V『眼制疲労』残り:3回
H-30-W『斥界』残り:1回
H-06-V『後退却下』残り:4回
A-10-R『チャージショット』 残り:6回
A-11-I『バリア』 残り:1回
A-12-I『インフィナイフ』残り:1回
A-26-O『暴発』残り:4回
A-27-T『シェアスタン』残り:2回
C-14-G『猛獣使い』残り:4回
C-16-G『用心棒』残り:1回
C-04-B『代償強化』残り:3回
これにあと昨日の勝った分、今日の夜にもう1本CORE系能力が追加される。そしてお気づきだろうか、ついに能力の完全な被りが出てしまった事に。
その能力は『チャージショット』。最初こそ大活躍したものの、ここの所勝ちを拾えていない。『シェアスタン』のおかげで一気に価値が上がったC-G系のように、何らかの相方が必要だ。ちなみに、被った瞬間一瞬だけ「能力の固定化」の件が頭に浮かんだが、すぐに無理だと思い直した。むしろそんなの狙ってたら負ける。まるっきりの嘘情報という可能性まである。
ふと、3人のテーブルを見るとタマルと一瞬だけ目が合い、すぐに会話に戻った。
真剣に組み合わせを考える。今日は8回戦の初戦。取りに行きたい。
その時、サロンに浅見先輩が現れた。少女は連れていない。その表情は、勝った時の物でも負けた時の物でもなく、ただただ困惑しているようだった。そして一言、
「PVDO。とんでもねえ組織だぞ」
と今更な宣言だけして帰っていった。
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