第37話 頭部乗っかり格闘少女
試合開始。
相手の発動。
H-25-F『デュラハン』
頭部を破壊不能状態にし、胴体から分離する。
1戦目でも使ってきた能力。相手はこれによって盾にも投擲武器にもなる無敵の頭部を手に入れる。一応系統はH-F系だが性質的にはむしろA-I系に近い。
タマルも一応この時点で発動できる能力を持っているが、ここではまだ発動させずに様子を見る。すると相手は、自分の生首を床に置き、それに片足で乗った。
『デュラハン』自体が見た目のインパクトの大きな能力ではあるが、今回は更に拍車がかかっている。自分の生首の上で片足立ちする首なし少女。パワーワードだ。
相手の発動。
C-27-B『エアアーツ』
足の裏が地面から離れている間、身体能力を強化する。
『エアアーツ』が効果を発揮する条件は「足の裏が地面から離れている事」。つまり、例えそれが自分の頭部であれ乗っかっている限りは身体能力が強化されている、この形だと両足が離れている事になるので強化具合は普通に使う時の倍。昨日タマルがやった代償強化の重ねがけ戦術を、相手は全然別の形でやってきた訳だ。
しかも頭は頭として動くので、自分の足先を口で噛んで咥えている。これによってほとんど制限なく、『エアアーツ』で強化された肉体を扱えるという訳だ。確かに相性は良い。そして相手はこの試合を一撃で決めたがっているようだ。
相手の発動。
A-04-O『マグネット』
対象の物体を別の対象にぶつける。
相手が対象に指定したのは、タマルと自身の首。本来『マグネット』は自身を対象に発動出来ない能力だが、頭部が別なら可能なようだ。高速で滑走し近づいてくる首なし少女。ますますシュールな光景になった。
おそらく、PVDOの事や個別の能力の効果を知らない人から見れば、信じられない光景だと思う。だが本当に信じられないのは、俺がこの特異な戦況をあらかじめ予測してたって事だろう。
タマルの発動
H-30-W『斥界』
全ての物が反発し合う。
相手が近づき、射程距離に入ったタイミングで発動させた。頭部と胴体は別個体、であるならば当然反発する力が働く。
とはいえ頭部は無敵化しており、能力による影響も受けないので、完全に離すには至らなかったようだ。しかしバランスを崩すのには成功したようで、それは相手の一撃必殺をかわす事に繋がる。
一瞬の隙が命取り。
タマルの発動。
C-16-G『用心棒』
身体能力の強化された人間を召喚する。その人間が死亡した場合、発動者も死亡する。
「足を地面に押さえつけて!」
指示を出すが、このままの状態では難しいだろう。攻撃をかわしたとはいえ、今相手の肉体は『用心棒』よりも強い。そこでこの能力だ。
タマルの発動。
A-27-T『シェアスタン』
触れた生物と自身を3秒間気絶させる。
毎度お世話になっています。前回はドラゴン、前々回は相手の本体だったが、今回は首なしの胴体を対象に発動する。『デュラハン』は頭部を無敵化するが、胴体はこの限りではなく、いくら肉体が強かろうと3秒間の強制気絶に抗える訳ではない。
倒れた相手をマッチョが背中から拘束する。地面に対して足の裏が接するように関節系の技で自由を奪った。
そして相手が気絶から戻った時には勝負は決していた。転がった首の近くで、筋肉質の男が幼い女の子の身体のみを押さえつけている。字面だけで犯罪臭が凄い。だが、警察が嗅ぎつけてこない限り相手はこの状態から脱出する手段を持たない。マッチョの拘束から逃れるには無効化された『エアアーツ』を再度有効にせねばならず、それには足の裏を地面から離す必要があるが、それをマッチョが許さないという状態。現状フリーなのはタマル本体と相手の生首だけ。どちらが強いかは分かりきっていた。
決着。
タマルの勝利。
今回の勝因ははっきりしている。俺が事前に『デュラハン』+『エアアーツ』の組み合わせを予想し、『斥界』を採用していた事だ。
『デュラハン』は尖った能力であるが故に何かとの組み合わせで使う事が多く、その相方になる能力もそう多くはない。1戦目で活躍し、2戦目で別の能力を使って負けていたので、ランクアップがかかっているこの3戦目、ここぞという所で再投入してくる可能性は高いと踏んでいた。
そして『エアアーツ』は、既に過去2回ほど使われていたので印象に残っていた。だから2つの組み合わせが有効な事にもすぐに気づいた。流石は俺。能力バトルの申し子。PVDOで成り上がる為に生まれてきた男。
なんて調子に乗りつつ、本当の事を言うと、このコンボは事前に橋本に教えてもらっていたのだ。
橋本が前の戦いで戦った相手も、1戦目で『デュラハン』+『ドロー』+『アミニット』で、2戦目は全然変えてきたらしい。橋本は残念ながらその後負けてしまったが、最終戦が『デュラハン』+『エアアーツ』だった。
対戦相手の情報は戦う前でも後でも不明なので同一人物とは限らないが、能力が余っているなら同じ戦略で来る可能性が高い。だから一瞬の隙を作るために『斥界』から必殺の『シェアスタン』+『用心棒』に繋げた。
事前情報をサロンから得つつ、奥の手を3戦目まで隠しておいた俺と、強い組み合わせに頼り過ぎた相手。その差が出た試合だったと言えるだろう。
そして俺はいよいよランク6に到達する。喉から手が出る程欲しかった報酬。それが手に入ったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます