第34話 理

 連勝は4でストップ。

 やはり人生そう上手くは行かないもんだ。上手く行かない中で最善を尽くすしかない。


 身体能力を強化した状態で自分の生首を全力投球。見た目のインパクトも戦略も凄まじい相手だったが、考えれば考える程理に適っている事に気付く。


 こちらが『ワールドエンド』を発動したのに対して相手が『アミニット』を発動した事について、俺は最初完全にこちらの運が悪いと思った。1戦目だし、お互いに相手が持っている能力を知らない。言わば1発勝負のじゃんけんで負けたように感じた。また例の出たよ。CーG系被りからやっと解放されたと思ったらこれだよ。やってらんねえなあ、おい! くらいに思ってた。だがじっくり考えてみると、相手が採用していたのは全て、「特定の状況に強い能力」だという事に気づく。


 『アミニット』は制限時間がある代わりにその間なら無制限に身体能力が強化される。短期決戦向けの相手には最低でも互角に張り合えるし、守りに徹されても突破する助力になる。


 『デュラハン』は自分の首を切り離すとんでもない能力だが、投げれば飛び道具になり持てば盾のようにもなる。しかも生首は無敵なので、強化された肉体でも耐えられないような高火力の攻撃も受けられる。


 『ドロー』は自分の首回収用能力として使っていたが、これはA-I系に対して物凄い威力を持っている。俺が渇望して止まない『斬波刀』もこの能力にかかればほぼ無力化される。


 つまりこの3つの能力の組み合わせは、その3つに相互作用があるのはもちろんの事、相手が短期長期に構えても対応し、近づけなくても高火力を持ってても問題なく、もし武器を使ってくれば一気に有利を築けるという構成をしているのだ。


 もしかして、これが「最強」なんじゃねえか?


 PVDOを始めたばかりの俺ならばそう思っていただろう。だが、今は少しばかりの経験と知識がある。たらればの話になって申し訳ないが、そもそも俺に『番犬』が残っていれば、昨日の1戦はこちらに分があった。

 

 相手の組み合わせには、『斥界』+『バリア』は非常に有効だ。近づけもさせず、飛び道具にも強い盾。1分間では犬は2匹しか出せないが、それでもバリアが消えた後の時間稼ぎにはなる。そうすれば相手は勝手に死ぬ。あえて断言しよう。逃げ切れたんだ。


 ただ、昨日の俺にも今日の俺にも『番犬』はいない。そこが問題だ。


 要するに俺が言いたいのは、能力の管理はこれまで以上に気を使うべきだという事だ。せっかく有効な組み合わせを手に入れても、それを1回しか使えないのと5回使えるのとでは天と地ほどの差がある。有効ではない物はどうにか役割を与えて活用するか、相方が来るまで温存する。きちんと管理していかなければ、噛み合わない能力ばかりを抱えた状態での連敗がいずれ俺を飲み込む事になる。


 現在の所持能力。

 H-21-W『ワールドエンド』残り:2回

 H-04-V『眼制疲労』残り:3回

 H-30-W『斥界』残り:2回

 H-06-V『後退却下』残り:5回

 


 A-10-R『チャージショット』 残り:1回

 A-11-I『バリア』 残り:2回

 A-12-I『インフィナイフ』残り:1回

 A-26-O『暴発』残り:4回

 A-27-T『シェアスタン』残り:3回



 C-14-G『猛獣使い』残り:4回

 C-16-G『用心棒』残り:2回

 C-04-B『代償強化』残り:4回


 昨日、新しく手に入れた能力はH-06-V『後退却下』。COREはCOREで被りまくったが、HEADはHEADでH-WとH-Vしか引いてない。確率の偏りというのは恐ろしい。その分ARMSはバランス良く引いているが、それで帳尻合ってるとされるのはやや不服だ。


 『後退却下』は相手を逃がさないようにする能力で、こちらから攻めに行くのに向いている。だが、はっきり言ってその効果は地味と言わざるを得ない。何せ相手も攻めて来るタイプだったら全く何の意味もないし、逃がさないといっても『フリーズ』や『時間停止』のように強制的な拘束ではなく、後ろに下がらせないという制限程度の物だ。その代わり相手を見続けている限り効果は続くのだが、それでもやはり地味だ。


 はずれ。流石に今回はそう言い切ってしまっても良いんじゃないだろうか。


 では今回は相手が悪かったという事で棄権するか? あるいは相手の油断という一縷の望みを賭けて半棄権か? どうだろう。1戦目の采配を見る限り、抜かりの無い相手だ。


 何故そう言えるのかというと、相手は生首を投げた後、『ドロー』でいつでも首を手元に戻せた。さながらヨーヨーのように戻して投げてをひたすら繰り返す事も出来る。でも相手はそれをしなかった。『ドロー』をあえて最後まで見せずに、こちらが『チャージショット』を吐き出すのを待って確実にガードしたのだ。


 これが恐ろしい。相手は入念に作戦を立て、少なくとも『ドロー』の使い方に関しては様々なシミュレーションを行なっているという事だ。作戦の質、能力の選択、あと引き運。色々な部分で相手が上だ。とはいえランク6報酬の事を思うと、ここで降参するのは実に口惜しい。


「やめろやめろ。辛気くせえ顔して策なんか練るな。酒がまずくなる」


 カウンターに座って能力リストと睨みあう俺に浅見先輩がそう言ってきた。


 酒がまずくなってるのは俺のせいじゃなくて連敗のせいでは? と返してさし上げたかったが、そんな嫌味を言っていつかブーメランとなり自分の所に戻ってきたら怖いのでやめておいた。単純に怖いし。


「ハマる時はハマる。ハマらない時はハマらない。考えたって無駄だ」

 自暴自棄になってらっしゃる。急性アルコール中毒になるのが先かメンターの権利を失うのが先か。なんて事を考えつつ、ふと浅見先輩が言った言葉が引っかかった。考えたって無駄。


 無駄……そうか……。


 確実という訳ではないが、ちょっとやってみる価値はある。

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