第33話 頭部ぶん投げ少女
7回戦第1試合。ここの所絶好調の俺だが、『番犬』を使い切ってしまったので例の『斥界』+『バリア』戦略を使えない。時間経過で有利になるCORE系と組み合わせなければ有効ではないからだ。なので今回は、久々となるあの戦略を投入した。
タマルの発動。
Hー21ーW『ワールドエンド』
全ての生物の寿命を残り1分に設定する。目を瞑っている間はカウントが止まる。
タマルが来た時最初に持っていた能力。ここ数週間で色々な能力や組み合わせを見て来たが、この能力ほど大雑把で範囲の広い能力はない。自身、対戦相手はもちろんの事、あの恐ろしいドラゴンや大量のネズミさえ1つの能力で皆殺しに出来る能力は他にない。
発動と同時に目を瞑り、自ら視界を断つ。これと組み合わせるのは当然、
タマルの発動。
C-12-G『劣化分身』
能力を持たない自身の分身を召喚する。
目の見えないタマルの代わりに状況を見て伝え、更には時間を稼ぐ役割をこなしてくれる。『用心棒』の方が戦闘能力は高いが、あいつは喋れないし、時間稼ぎの最中に死なれるとタマルも死ぬ。だから今回は分身の方が適任という訳だ。
タマルの発動。
A-10-R『チャージショット』
手の中でエネルギー弾を溜め、放出する。
これも最初の能力の1つだ。これまでの戦いでも、どこか使い所がないかと探ってはいたのだが、残り回数が少ない事もあって使用を躊躇していた。
まずは『劣化分身』を捨てゴマにして時間を稼ぎ、『チャージショット』で相手を倒せる1撃分の時間を稼ぐ。そして『劣化分身』がいなくなれば目を開き、今度は『チャージショット』と『ワールドエンド』の時間的挟み撃ち。試合全体の流れをコントロール出来る良い組み合わだと思う。
だが、今回は運が悪かった。
相手の発動
C-09-B『アミニット』
1分間、身体能力を強化する。効果が切れると同時に死亡する。
身体能力を強化する代わりに寿命が1分になる。1分の寿命。そう、『ワールドエンド』とモロ被りの能力を相手は偶然使って来た。
これでもう、ほぼ実質こちらの『ワールドエンド』は無駄な能力という事になる。何せ相手は最初から1分以内に決着するつもりなのだから、「1分後に殺す」という脅しには全く意味がない。
……だ、だがまだ、『チャージショット』を溜める勝ち筋は残ってる。相手が近接格闘系なら近づいて来た所に当てるチャンスがある。
そう思っていた矢先、相手の首が取れた。
繰り返す。首が取れたのだ。文字通り、ポロン、と胴体から頭が離れてそれを胴体がキャッチした。
「首が取れました。頭を持ちました」
分身もタマル本体にそう伝えるしかない。
相手の発動
H-25-F『デュラハン』
頭部を破壊不能状態にし、胴体から分離する。
相手の頭が身体から離れた所で勝ったとは限らない。それがPVDOだ。
自分の生首を片手で持ち、担ぐように構えて振りかぶった。まるでドッチボールのように真っ直ぐ、タマル目がけて頭部を投げて来たのだ。
しかも相手は『アミニット』によって身体能力が強化されている。その勢い、威力は申し分なく、本来なら弱点の塊である頭部は『デュラハン』の能力によって無敵化している。
かろうじて、分身がタマルを庇ってくれた。しかし大リーガーがボーリングの玉を投げて来たのと同じような威力なのだから、当然庇うのに使った左腕はばっきばきにへし折れた。
間髪入れず、首のない少女が分身に襲いかかる。
約10秒。腕が折れていた割にはよく持った方だと思う。分身は守りに徹したが、肉体の強化された相手はそれを遥かに上回る戦闘能力を有していた。
分身にトドメを刺した相手が、地面に転がった自分の首を拾い、手に持ってタマルを見た。タマルも目を開き、異形と化した対戦相手と対峙する。ここまでで戦闘開始から約20秒。『アミニット』『ワールドエンド』の制限時間まではまだまだ遠く、『チャージショット』も一撃必殺と呼ぶ程には溜まっていない。
しかし相手は待ってくれない。再び大きく振りかぶると、守る者のいなくなったタマルに向けて生首をぶん投げた。
仕方ない。これを受ければ勝ち筋はなくなる。一撃という訳にはいかないが、ダメージを与えるしかない。『チャージショット』、放出。クロスカウンターのようにエネルギー弾と生首が交差する。当たれ! 俺は心の中でそう祈ったが、結果は無慈悲だった。
相手の発動。
A-02-O『ドロー』
手元まで対象の物体を引き寄せる。
投げた生首が相手の手元に戻っていく。そしてタマルの放った渾身の一撃は、生首で受け止められた。『デュラハン』によって無敵化した生首は、最強の武器でもあり最強の盾でもある。
絶望。
相手の3球目。生首ストレート。投げる前からデッドボールなのは分かっている。
決着。
タマルの敗北。
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