第29話 3

 今回の作戦会議もといおやつタイムにおいて、俺は初めてタマルに自分自身から近づいて攻めるように指示をした。今までは相手の出方を見つつ時間を稼いだり、分身やマッチョなど召喚した生物を先に行かせる戦略が主だったが、別にこれは俺が小心者な性格だからという訳ではない。まあそう断言するのは危険だがとにかく、今までは防御よりの能力がたまたま多かったのだ。時間を稼げば稼ぐ程有利になるなら、稼げる限り稼ぐしかない。


 しかし今回は違う。俺はついに、C-G系能力の呪いから解き放たれ、タマル自らの肉体で果敢に攻めに行ける能力を手に入れた。そういう意味で普段とはまた違った緊張感の中、戦闘が始まる。


 タマルの発動。

 Aー12ーI『インフィナイフ』

 ナイフを召喚する。


 なんだ大きな事を言っておいていつもと同じじゃないか、どうせそれを『劣化分身』に持たせるんだろ? 侮るなかれ、もう1つの能力が今回の主役だ。


 タマルの発動。

 C-04-B『代償強化』

 能力を1つ封印し、身体能力を強化する。


 現在発動可能な能力を封印し、肉体を強化する能力。以前、浅見先輩も最強候補に入れていた『限定強化』に似ている能力ではあるが、『代償強化』は能動的に自身の能力を犠牲にし、『限定強化』は不利な状態をカバーする。前者はアクティブ、後者はパッシブと考えると分かりやすく、その使用感に大きな違いがある。封印した能力は再発動が不可能なのもあって、『代償強化』の方が肉体の強化具合は大きい。

 『インフィナイフ』がこの能力と相性が良いのは、1度召喚したナイフは封印されても消えない事。そして『インフィナイフ』の再発動条件が1秒というアホみたいな短さなので、召喚後すぐに封印が可能になる点。


 『代償強化』された肉体で持つ『インフィナイフ』。鬼に金棒に取って代わる新しいことわざになるだろう。さあ、これで攻める準備は整った。


 相手の発動。

 A-18-I『斬波刀』

 斬撃を飛ばす事の出来る刀を召喚する。


 うおおお来た! 俺の好きな能力。めっちゃ欲しい。羨ましすぎる。

 妖艶な刃文ゆらめく日本刀を持った可憐な少女は実に絵になる。しかし普段は無意識に刀を持っている方を応援してしまう俺でも、今回ばかりはタマルに勝ってもらわなくては困る。しかし相手も武器を持ったという事は、それと相性の良い能力があるという事だ。


 相手の発動。

 C-27-B『エアアーツ』

 足の裏が地面から離れている間、身体能力を強化する。


 奇しくもA-I系+C-B系の達人コンボ対決となってしまったようだ。


 相手は片脚をあげて中国拳法のような構えになると、『斬波刀』を片手で持ち肩に担ぎ、もう片方の手でタマルに狙いをつけた。一方でタマルは体勢を低くし、脚に力を溜めている。今、決闘が始まる。


 僅かな間の後、互いに離れた状態から相手は一気に『斬波刀』を振り下ろした。


 それが開始の合図となり、タマルはナイフを前に持った状態で一気に床を蹴り突撃する。衝撃波が刃から放たれる。タマルはあえてそれをかわさずに最低限致命傷だけは避けて正面から受ける。腕や脚に無数の切り傷が入り血が飛び散る。かわいそうだが、これは俺の指示だ。武器がナイフで肉体が強いのだから、とにかく最優先は相手に近づく事。その為に多少のダメージは仕方ない。そしてタマルは、俺の指示を忠実に守ってくれる。


 『斬波刀』は遠距離近距離両方で攻撃が可能な代わりに、刀の射程より内側に入られるときつい。ましてや『エアアーツ』を発動させるには少なくとも片方の足を宙に上げておく必要がある。


 タマルが懐に入った。刀を振り下ろすよりも先に、ナイフが相手の身体に突き刺さる方が先だ! そう思った瞬間、


 相手の発動。

 H-03-S『鉄人』

 最大1分間、全身が鉄の塊になる。


 相手が鉄になった。お互いに違う武器と肉体強化で良い感じに対峙していたのに、茶々を入れられたような気分になったが、それはお互い様。相手の身体に突き刺さったはずのナイフは鉄の堅さによって弾かれ、床に落ちた。すぐ近くまで寄っていた事もあり、相手の刀を持った手は抑えた。しかし『鉄人』を発動したのはほんの一瞬。すぐに相手は生身の身体に戻り、再度距離を取るためにタマルを片足で突き飛ばした。


 その攻撃自体は何とかガードしたが。これで再び距離があいてしまった。しかもその距離は、再度『斬波刀』を振り下ろすのにちょうど良い距離。次に直撃すれば流石に手足のどれかは胴体から切り離される。そうなれば、勝ちの「目」はない。

 だがこちらにはもっと良い「目」がある。


 タマルの発動。

 H-14-V『フリ-ズ』

 視界にいる対象の生物1体の動きを2秒間停止する。


 刀を大きく上げた状態で相手が固まる。2秒間。それはタマルがナイフを拾い、相手の胸に突き刺すのに十分な時間だった。最後は振り下ろした『斬波刀』がタマルの左腕を切断したが、先に致命傷を与えたのはこちら。


 まさに紙一重の勝負だった。

 決着。

 タマルの勝利。

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