第30話 4

 6回戦第2試合。ランク5への昇格がかかった試合が始まる。


 相手の発動。

 C-28-G『ドラゴンエッグ』

 1分間で孵化するドラゴンの卵を召喚する。


 ドラゴンではなくあくまでその卵を召喚する能力。卵の段階ではただの小荷物だが、孵化さえすればC-G系最強の生物になる。しかも誕生させるのに必要な時間はたったの1分。ブタメンより早く生まれる伝説のドラゴンって一体何なんだって感じの能力だが、PVDOにおける1分は日常生活で測る1分より遥かに長い。生まれる前に潰す事が出来ればほとんど無力化出来る能力だが、相手は当然その問題を解決する能力を持っている。


 相手の発動。

 H-03-S『鉄人』

 最大1分間、全身が鉄の塊になる。


 1試合目でも使われたこの能力。鉄になる姿勢は能力側から指定されていないので、相手は召喚した竜の卵を抱え込む形で丸まってから発動した。鉄人が効果切れになる時間もちょうど1分。


 これでタマルはドラゴンが卵から孵るのを指を加えて見ていなくちゃならなくなった。このサイズの鉄を壊せる能力は残念ながら今日は持たせていない。が、ただ見ているだけで効果があるのがこの能力。


 タマルの発動。

 H-04-V『眼制疲労』

 視界にいる生物に疲労を与える。


 相手は鉄になったとはいえ同時に人でもある。よって疲労は蓄積されるし、相手が鉄であり続ける限りこの能力に抗う術はない。『鉄人』を解除する権利は当然相手にあるが、そうはしないようだ。疲労の蓄積より安全な孵化を優先させるらしい。


 60秒間の奇妙な時間が流れる。相手はうずくまって卵を守る鉄塊になり、タマルはその様子をじっと見つめる。前日のハイテンポでスリリングなバトルとは打って変わったまったりタイム。ホットココアでも入れてリラックスしながら眺めていたい所だが、一応は真剣勝負。相手が不意を突く可能性もあり、気を抜くわけにはいかない。


 だが結局、相手は『鉄人』の最大発動時間を丸々使い切った。相手の『鉄人』の解除と同時、懐から巨大なドラゴンが姿を現した。全長5mは優に超えている。虎より鋭い爪と鮫より尖った牙と鷹より力強い翼を持った空想上の生物。それがタマルに対峙している。


 相手の発動。

 A-18-I『斬波刀』

 斬撃を飛ばす事の出来る刀を召喚する。


 更に相手は前日に引き続き俺の憧れ、伝説の武器まで持って来たようだ。衝撃波を放つ妖刀を携え、凄まじい迫力のドラゴンまで従える美しい少女。まさに厨設定な能力の組み合わせ。くぅぅ……かっこよすぎる……。というかこれ完全に相手が主人公だろ。タマルと俺が可哀想すぎる。


 相手の攻撃命令。ドラゴンが鉤爪を振りかぶり、タマルに向けて振り下ろした。となれば、負ける訳にはいかないとなれば、頼れるのはこの人しかいない!


 タマルの発動

 C-16-G『用心棒』

 身体能力の強化された人間を召喚する。その人間が死亡した場合、発動者も死亡する。


 顔なしスキンヘッドの筋肉もりもり変態マッチョマンが、ドラゴンの初撃をクロスした両腕で受けた。何かの神話か? かなりのダメージがあったようで、心なしかマッチョも苦しそうだ。


 続けてドラゴンの第二撃。喉を鳴らして口の中に炎を溜めている。やはりドラゴンと言えば高熱のファイアーブレスか。これをまともに喰らえば、マッチョといえどひとたまりもない。おそらくはタマルごと丸焼きにされてしまうだろう。だが、そうはさせない。


 タマルの発動。

 A-27-T『シェアスタン』

 触れた生物と自身を3秒間気絶させる。


 ドラゴンよ、大きな図体が仇になったようだな。触れられる部位はいくらでもあるし、触れてさえしまえばネズミだろうがドラゴンだろうが関係ない。強制的な3秒間の意識喪失。そしてその間にすべき事を、タマルは既に『用心棒』に指示している。


 ゆっくりと倒れる巨体を駆け登ったマッチョが、ドラゴンの大きな2つの瞳を潰した。伝説とはいえ所詮は生き物。目さえやってしまえばこっちの物だ。


 タマルの意識が戻ると同時に、ドラゴンの意識も戻った。視界を失った事に気付いたドラゴンが咆哮をあげ、暴れ始める。もちろんそれに合わせてタマルと用心棒は距離を取った。


 部屋の中心で暴れるドラゴンを挟み、相手はなす術が無くなった。何故なら、試合の開始時から貯まり続けて来た『眼制疲労』によって、刀を握る力すらあと少ししか無くなっているからだ。

 まずはドラゴンに落ち着くように命令し、なけなしの力を振り絞って『斬波刀』を振り下ろす。当然、威力も勢いもないそれを、タマルもマッチョも綺麗に避ける。更に相手の疲労は蓄積していく。怪我1つしていないが、立っているのもやっとの状態。ドラゴンはすっかり大人しくなって隅っこでハチ公のように座っていた。


 決着。

 タマルの勝利。

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