第17話 敵強すぎ問題

 必要なのはアイデアだ。実際に戦うのはタマルだが、俺も必死にならないといけない。決して金の為じゃない。これはタマルを救う為でもある。ついでに金がもらえるならそれに越した事は無いだけだ。金が欲しくて言ってるんじゃない。信じてくれ。頼む。


 まずは状況の整理だ。前戦、相手が使ってきた戦術は、『フリーズ』+『雹弾』+『限定強化』という浅見先輩が推す「最強」の組み合わせだった。具体的にこの何が強いのか、1つ1つ分析していく。


 まず攻撃の軸ともなる『雹弾』。命中後に割れて破片が飛び散るという性質を持っている為、実質防御が不可能。その分、直撃しても一撃で致命傷になる訳ではないが、ダメージは避けられない。

 では回避を試みてはどうかというと、『フリーズ』が控えている。こちらの防御を解除したり、カウンターを防ぐ目的で使用される。まずこの2つにより、一方的な攻撃を可能としている。

 そして『限定強化』。これ以外の能力が封印状態にある時のみ効果を発揮する能力で、これがあるからこそ相手は接近戦を挑む事が出来る。あるいは『雹弾』を確実に命中させる為に、近づく事が出来る。


 例えば、こちらがバリバリの近接系だとする。近づいて戦った場合、まず『雹弾』+『フリーズ』コンボによりダメージを受ける。その状態で『限定強化』でバフされた相手と戦わないといけなくなる。負けだ。

 では遠距離攻撃で距離を取って戦った場合はどうなるか。最初は打ち合いになる。『雹弾』で相殺されて、こちらの決定打を『フリーズ』で封じられる。そしてインターバルに入れば、相手は『限定強化』された肉体を使って一気に距離を詰める。負けだ。


 つまり、この戦術の強い所は、能力が相互にシナジーを生み、しかも相手の出方を待ってからの後出しで勝負を決められる事。召喚した生物は『雹弾』でいなされる。こちらが決めに行けば『フリーズ』で避けられる。こっちには『限定強化』と張り合えるC-B系が無い。


 俺は自分が今持っている能力のリストを眺める。


 H-14-V『フリ-ズ』残り:1回

 H-21-W『ワールドエンド』残り:3回

 H-04-V『眼制疲労』残り:5回


 A-10-R『チャージショット』 残り:2回

 A-11-I『バリア』 残り:5回

 A-12-I『インフィナイフ』残り:2回


 C-14-G『猛獣使い』残り:5回

 C-08-G『番犬』残り:3回

 C-12-G『劣化分身』残り:1回

 C-16-G『用心棒』残り:5回


 そして呟く。

「無理だな、こりゃ」

 仰向けに倒れて、天を仰ぐ。


 手持ちで1番応用力がある『劣化分身』+『インフィナイフ』があの様だったので、『劣化分身』+『ワールドエンド』も絶対無理だ。1分なんて途方もなくて間に合う気がしない。あと考えていたのは、『眼制疲労』+『バリア』で耐久戦をしかける事だが、『バリア』には耐久度があるし、相手の『限定強化』された肉体による攻撃を耐え切れるはずがない。100歩譲って耐えられて、『眼制疲労』で相手を疲れさせたとして、行動不能まで追いやっても相手は『雹弾』自体を発動出来る。


 俺にとって伝家の宝刀である『チャージショット』をどうにか溜めるアイデアも探している。『猛獣使い』か最近引いた『用心棒』は戦闘能力という点で良いは良いが、『猛獣使い』はきちんとした意思疎通が出来ないので『雹弾』と『フリーズ』への対応がいまいちだ。『用心棒』は用心棒自体を攻撃されればタマルが死ぬ。


 考えれば考えるほど迷路に嵌って行く。

 というかな、あんまりこう文句ばっかり言うのもアレだけど、C-G系しかないから取れる作戦が限られるんだ。C-B系もしくはC-M系があれば色々と考えられたさ。俺だって。


 やはりここは温存の為の棄権が賢いか。確かに金は欲しい。100万失ったのもあって、目の前にぶら下げられた1000万は黄金のにんじんだ。でも無理をしてドツボに嵌まり、無駄に能力を失ったらどうなる? 俺はメンターとしての権利を失くす。いや、そんな事よりも大事なのは、タマルの命だ。


 タマルはあんな雰囲気だから、きっといざ自分が殺される事になっても平然と死を受け入れるだろう。それが不憫で不憫で仕方ない。勝つ事は、相手を負かす事だ。そして相手もタマルもクローンだから、そこに差なんて本当はないのかもしれない。だけど俺の感情が、タマルだけは守ると言っている。これに従わないのなら、俺は俺でいる意味がない。


 ……待てよ。俺はちょっと閃く。相手のメンターも同じ気持ちだったらどうだろう。負ける訳にはいかない。だが、能力はあくまでランダム。俺のような不運にいつ見舞われるかも分からない。となると、「強い組み合わせ」は出来る限り取っておきたい。いやもっと言えば、「強い組み合わせ」の時は、「もっと勝っておきたい」


 俺は頭の中に閃いたアイデアを手繰り寄せるように身体を起こす。

 か細く、今にも切れそうな糸だったが、可能性に繋がっていた。やってみる価値はある。


 23時50分。

 タマルが転送されてきた。今日俺が用意したおやつはプリッツ。パキっと大きく音を立てて食べるのがお気に召したようだ。


「で、今日の作戦なんだけど……」

 俺はついさっき思いついた戦術を説明する。自信は無いが非常にシンプルなのでたった数秒で伝わった。

「……本気ですか?」

 怪訝そうな眼差しを向けられる俺。タマルにまでそう言われるとますますやめた方が良いような気もしてきた。

「えっと……やめとく?」

「いえ、メンターに従います」


 タマルは勝負の行方などまるで興味ないように、ぽりぽりとプリッツを食べ続けた。

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