第14話 サロン

「お前の最強は?」

 着席して早々、お世辞もなく挨拶もなく、俺は最強という謎の概念を問われていた。


 明かりは間接照明のみで薄暗く、席数はソファー席が大体8人分とカウンターが6人分。カウンターの向こう側の壁には色とりどりの酒瓶が並び、テーブルは顔が映るくらいにピカピカだ。

 広くはないが、その分落ち着ける雰囲気のバー。まだ一杯も呑んでないのに、常連になりたいと思わせる。うちのクローゼットの中で無ければ。


「えっと、何ですか?」

「最強は何だって聞いてんの。2回も言わせるなよ」


 最初に目があったつり目の男が、俺を睨みながらグラスを空にした。全く質問の意図が分からない俺をよそに酒を注ぐ。歳は20代後半くらいだろうか。ツーブロックで、軽く顎髭なんて生やしちゃって、アウトロー気取っている。ふん、ちょっと怖い人だなと俺は思ってるぜ……?


「浅見先輩、まだ田はランク3の初心者なんでそれじゃ分からないと思いますよ」

 助け舟を出してくれたのは橋本。ソファーを1人で占領しているこの浅見という男とは違い、カウンターに腰掛けている。手元にはノートパソコン。さっきまで俺が見ていたのと同じ画面を開いている。


「初心者だろうがメンターなら最強と聞けばピンと来るだろうが」

 そしてまた一杯。凄いペースで呑むなこの人。二重の意味で驚いている俺に、橋本が補足してくれた。

「浅見先輩の言う最強ってのは、考え得る限り1番強い能力の組み合わせの事だよ。絶対に勝てるとまで言えなくても、まずほとんど負けないような能力の構築。それを聞いてる」

「絶対勝てるってやつでもいいがな。俺のはそうだ」

 注いだ先から口に運ぶ。句読点の代わりに呑むな。


「それはあの、自分の手持ちでって事ですか? それとも、」

「『フリーズ』+『雹弾』 +『限定強化』これに勝てる組み合わせはねえ」


 この人が俺の話に興味ないのは分かった。多分最初にいきなり質問をかましてきたのも、これを言いたかったからだと俺の霊感が言ってる。もちろん口には出さない。殴られたくない。


「正直、まだ分からないです。というかまず、なんで僕の家のクローゼットの中がこんな事になってるのかを説明して欲しいというか何というか……」


「ごちゃごちゃうるせえ奴だな」

 すいません。

「え? 説明聞かなかったのか?」

 橋本の問いに、俺は先輩のご機嫌を損ねないよう簡潔に、やや小声で答える。

「聞こうとしたら教えてくれなかったんだよ」

「そりゃ相当気にいられてるな」

 スパイシーな皮肉にしょんぼりしてる俺に、橋本が教えてくれた。


 サロンに入ると、自宅の部屋で1番使ってない扉がサロンの集会場に繋がる事。必然、その扉の中にあった物は消えて無くなる為、サロンからの招待を受ける前にあらかじめ外に出しておくように「普通は」説明される事。あらかじめ言っておけば良かったな、悪い、と気を使ってくれた橋本はやはり良い奴だ。


 まあ、特に大切な物は入ってなかったし、被害は明日会社に着て行く服が無くなった事くらいだ。


「あれ? 新しい人?」

 振り返ると、女の子が立っていた。俺が入ってきた扉から入ってきたようだが、見覚えがないので少なくとも俺の部屋から来たわけではなさそうだ。どうやらあの扉1つがサロンの各メンバーの部屋と繋がっているらしい。


「やあやあ、私の名前は雨宮キク。ハッシーの友達なんでしょ? よろしくね〜」


 歳は20代の前半くらいだろうか。制服を着てたら学生と言われても違和感はないが、髪の一部を赤く染めて、ジェラートピケのもこもこ部屋着で入ってきたあたり、高卒マイルドヤンキー感が凄い。目が丸く、兎みたいな口が馬鹿っぽい。口調がそれに拍車をかけてる。


「あれえ? エイジン機嫌悪いじゃん。負けた? 負けちゃったぁ?」

 ハッシー、橋本。エイジン、浅見鋭二先輩。という訳か。開幕煽られた浅見先輩は「けっ」と言いながらまた呑んでいた。図星らしい。それにしてもあだ名の付け方って性格出るなと思いつつ、俺も名乗る。


「新しく入った田です。よろしくお願いします」

「よろしくー。変な苗字だね。じゃあチャンデンで良い?」


 韓流スターみたいだな、とは思いつつも、強く否定してもノリ悪いと思われそうで、「あ、いや、ははは」みたいな陰キャ反応をしている内に俺のあだ名は雨宮閣議を通ったらしい。


「で、チャンデンの最強は何?」

 またその質問か。流行ってんのか? それとも俺が遅れてるのか?

「まだ決まってねえってよ」

 俺の代わりに答えたのはエイジンこと浅見先輩。俺もノリに合わせてあだ名で呼んだらやはり殴られそうだ。

「ふーん、そうなんだ。考えておいた方がいいよ。ちなみにあたしは『空中浮遊』+『火炎放射』+『エアアーツ』。さいっきょ」

「どうだかな。地上に降りた瞬間を狙われるぞ」

「そのための『火炎放射』じゃん」

「じゃあ空中いる時距離取られて遠距離喰らったらどう対応すんだよ」

「全然焼けるって。『火炎放射』の回転率半端ないって」

 やはりというか当然、2人は俺よりも相当慣れてるらしい。能力名を聞いてもすぐには出てこない俺を置いて口で戦ってる。

「実際やってみりゃすぐ分かるんだけどな……」


「サロンのメンバー同士はマッチングしないっていうルールがあるんだよ」

 橋本の補足説明ありがたい。となると、サロンメンバー同士は純粋に能力の考察や議論がかわせる訳だ。これは助かる。となれば、聞いてみたい。


「あの、今持ってる僕の能力がこれなんですけど、次何をリクエストしたら良いと思います?」



 現在の所持能力。


 H-14-V『フリ-ズ』残り:2回

 H-21-W『ワールドエンド』残り:3回

 H-04-V『眼制疲労』残り:5回


 A-10-R『チャージショット』 残り:2回

 A-11-I『バリア』 残り:5回

 A-12-I『インフィナイフ』残り:3回


 C-14-G『猛獣使い』残り:5回

 C-08-G『番犬』残り:3回

 C-12-G『劣化分身』残り:2回

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