第10話 仲間
わざわざ個室でハンバーガーを食う店って何だよ。
という思いは、その店の持つ圧倒的オシャレポテンシャルによって数分後には吹き飛ばされていた。オールディーズをイメージした内装に、知る人ぞ知るんだろうが俺は知らない洋楽、そして肉汁溢れるバーガーを、ナイフとフォークで頂く。酒もあるが、頼まない。というか、わざわざこの店を選んだのは、酒を頼まなくても店員が嫌な顔をしないからのようだ。
成人男性が酒を入れずにする話。そう、能力バトルだ。
「で、持ってる能力は?」
橋本は席につくと同時、開口一番そう尋ねてきた。
「いやその前に、PVDOって一体何なんだ?」
PVDOのリーダーボードで橋本の名前を発見した俺は、同姓同名の可能性も疑いつつ、「明日仕事帰りにちょっと会えないか?」とメールで聞いてみた。会って、普通に話をしながらちょっとずつPVDOを知っているか確かめて行こうという作戦だったが、返信はストレートだった。
「ボード見たよ。お前しかいないよな」
そりゃそうか。こっちがリーダーボードで確認してるって事は、ランクが上の相手からも見られるって事だ。そして俺の名前は橋本より遥かに珍しく、このタイミングで誘いのメールが来れば確定という訳だ。
橋本は中学高校が一緒で、中学は同じ卓球部、高校は同じ化学部だった。化学部って言っても実質帰宅部みたいなもんで、やる気のない奴が集まり、青春の輝きが一切届かない地底にあるような部活だった。
淀んだ時間を同じく過ごしていたにも関わらず、橋本は大学進学後すぐに彼女を作り、あろう事かテニスサークルの主催までやっていた。なので地底歴は俺の方が4年長い。俺のブラックキャンパスライフについてはここでは秘匿する。
「正体は分からん。でも目的は知っている」
「目的?」
組織がある以上、なくてはならない要素だが、PVDOについてはどうだろう。
「ああ。聞いた話だけどな」
「何なんだ?」
「いやその前に聞きたい。続けてく気はあるのか?」
問われてみると、即座に肯定は返せなかった。PVDOが行なっている事は贔屓目に見ても犯罪行為だ。しかし法律はせいぜい平均から頭1つか2つ抜けた奴らくらいにしか適用されない。頭10は軽く抜けてるPVDO相手に、違法行為を糾弾しても無駄に思える。
かといって、じゃあPVDO側につくかと言えばそこまでの信用はない。だから今は、目の前の物を信じるしかない。
「あの女の子、俺はタマルと名づけたんだが、俺の持っている能力が無くなると処分されるらしい」
「ああ、そうだな。そうなりゃゲームオーバーだ。メンターとしての権利も剥奪される。噂によっちゃ記憶も消されるらしい」
どうやら俺が今いる地点より、橋本はかなり先を行っているらしい。
「助けたい、と思う」
偽らざる俺の本音だった。
「よし、これで話が出来るな。まずは何だったっけ?」
「PVDOの目的だ」
「あくまでも人伝いに聞いた話だ。PVDOが俺達をメンターに選んで、あの少女を送り続けてるのは、新しい能力をマイニングする為だと言われている」
マイニング。なんか聞いた事あるような単語だが、意味は分からない。
「ようは採掘だ。あの少女の中には、まだPVDOも把握していない能力が眠っている。そしてそれは、俺達メンターと接点を持ち、能力を組み合わせて戦う事で発掘されていく。だから戦闘が終わった後の23時間はPVDOの本部でデータを取られている」
「本当なのか?」
「いや? 聞いた話だって言っただろ」
真偽は不明か。しかしそうなると気になるのはソースだ。
「誰から? 誰からそんな話聞いたんだ。管理人か?」
「いや、あいつらは曖昧な事しか言わない。サロンがある」
「サロン?」
「ランク3に上がるとな、誘いを受ける事が出来るようになる。まあネトゲでのクランとかギルドとかそんな感じの事だ。と言っても協力して戦う訳じゃなく、ただ単に情報交換の場だ。何せ現在発見されている能力はHEAD、ARMS、COREそれぞれ30種ずつ。組み合わせのパターンは2万7000種類。これが2人で戦うといくつになるか分かるか?」
俺は頭の中で計算してみたが、2秒で諦めた。
「7億2900万通りだ。もちろん、その中でも戦闘で有効な組み合わせは限られるし、それら全てを1つずつ試せって話じゃない。ただ……」
「ただ、なんだ?」
「いや、ここから先はお前がランク3になってから話すよ」
橋本は意味なく焦らすような奴じゃない。この個室のハンバーガー屋ですら口にするのが危険な話なんだろう。
それから運ばれてきたハンバーガーに舌鼓を打ち、能力のあれやこれやについて語った。語ったと言っても、俺が持っている能力を教えて、一方的に橋本からアドバイスを受けただけだったが、唯一『ワールドエンド』+『劣化分身』の相性の良さについては初耳のようだった。橋本自身はどちらの能力も持っていないが、手に入れたら試してみると言っていた。サロンに入ればこういう会話が別のメンターと出来る訳だ。
「じゃあ、健闘を祈る。ランク3に上がり次第、俺が所属しているサロンから誘うよ」
「ああ、すまん。ありがとう」
そうして別れた。必ず帰らなければいけない時間は俺も橋本も同じだ。23時50分。
「おかえり」
俺はコンビニで買ってきたアイスを持って、タマルを出迎えた。
「何ですか? これ」
「あー、なんか食べるかなと思って。好み知らないから、チョコとバニラとあずき。どれがいい? それとも戦闘前に何か食べるのはまずいかな?」
「……いえ。大丈夫です」
「大丈夫ってのは食べても大丈夫って事? それともいらないって……」
「食べておきますので、メンターは能力の確認を」
そうしてタマルは俺からバニラのカップアイスを取ると、代わりにケースを渡した。俺は緊張しつつゆっくりとそれを開ける。
A-12-I『インフィナイフ』
ナイフを召喚する。
これで現在俺が持っている能力は以下の通りになった。
H-14-V『フリ-ズ』残り:3回
H-21-W『ワールドエンド』残り:4回
A-10-R『チャージショット』 残り:2回
A-11-I『バリア』 残り:5回
A-12-I『インフィナイフ』残り:5回
C-14-G『猛獣使い』残り:5回
C-08-G『番犬』残り:3回
C-12-G『劣化分身』残り:4回
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