第9話 リーダーボード

 勝った。


 モニターの前でしばしの放心状態になった。もちろん勝つ事を目的に試行錯誤したし、タマルの為にも負ける訳にはいかなかったのは分かっていたが、この2回目の勝利は最初の勝利とは意味がやや違った。


 最初は、訳も分からぬままとりあえず有効っぽい組み合わせで能力を選び、作戦もそれに合わせて使う能力の順番を指示しただけだった。しかし2回目は、相手が取ってくる作戦を考慮に入れた上で策を練り、状況に応じて取る行動を細かく指示した。敗北が機になった。


 例えば、相手がこちらの『ワールドエンド』に対応して目を閉じた場合は、そのまま慎重に分身と連携し、背後を取りつつ削っていく。相手が『方向転換』ではなく別のARMSを採用してくるようであれば、『チャージショット』を最大まで溜める事にはこだわらず、分身が生きている間に確実にダメージを与える。相手がそもそも全く別の作戦で来るようであれば、『ワールドエンド』と『チャージショット』の時間的挟み撃ち。これらの作戦のデメリットとメリットをきちんと説明した。時間は少なかったが、昨日の対戦を見る限りタマルは理解してくれていたようだ。


 もう少し調子に乗ろうか。まあ勝因を挙げるとするならば、とにかく『眼制疲労』に対する『ワールドエンド』の相性の良さ。そして『ワールドエンド』の小回りの効かなさを補佐する『劣化分身』。そしてそして決定力という意味では申し分なく、抑止力としても働く『チャージショット』の性能の良さだろうか。


 勝利の美酒に酔いしれるのもいいが、問題が1つある。


「次戦はいつだ?」

 俺はチャットで管理人にそう尋ねる。余計な前置きは必要ないというのも学んだ事の1つだ。


「明日ですね。というか毎日やって頂きますので」

 相変わらずの勝手さだがそれはいい。

「次戦の相手は?」

「近いランクのメンターからランダムで選ばれます」


 おっと、また知らない単語が出てきたぞ。

「ランク? 詳しく」


「最初はランク1から初めて、2本先取の1マッチに勝てば1ランクアップ。負ければ1ランクダウンです。なので今はランク2です」



 まあ所持能力数に開きがあれば不利だろうし、オンラインゲームでもよくあるランクマッチ制か。特に文句はない。


「それとランク2からの特権としてリーダーボードが閲覧出来るようになりました。メンターのランキングが載ってる奴ですね。画面の右下に新しいボタンが出てます」


 確かに、画面とチャットしかなかった殺風景なページに、新たなボタンが加わっていた。それにしても、今日はやけに親切に教えてくれるようだ。リーダーボードは後で確認してみるとして、先に問題を片付けよう。


「能力のリクエストだ。次はARMSで」


 そう。問題とは、3戦連続で使った『チャージショット』の事だ。1度能力を注射する度に使用回数が1減る。最初が5だったので、今は残り2。そして俺がもう1つ持っているARMS能力は『バリア』で、これは攻撃手段にはならない。だから何かもう1つ、ARMSで攻撃の出来る能力が欲しいのだ。


「良い能力を頼むぞ」

 無駄だとは思いつつも、思わずそう打ち込んだ。

「良い能力なんてありませんよ。上手いメンターと下手なメンターがいるだけです」


 なんかどっかで聞いた事があるような台詞を吐いて、管理人は寝た。まあ言っている事は分からなくも無いが、とにかく攻撃力があるのが欲しい。というかぶっちゃけ『チャージショット』がもう1本欲しい。


 でも所持している物と完全に同じ物を引く可能性はあるのだろうか。系統が被る事はCーG系3連打という憂き目に会って身にしみる程分かっているが、どうなんだろう。


 それから俺はリーダーボードを確認する。


 ずらっと並ぶ名前。


 1位 ランク67 穂刈 雄介

 2位 ランク31 赤崎 敏

 3位 ランク29 鳥山 凛

 4位 ランク29 真嶋 忠志


 以下省略。というかこれらは、本名なのか? いや、まさか……。


 そのままスクロールバーを一気に下に送る。すると1番下に、こんな名前があった。


 248位 ランク2 田 秀作


 変な名前の奴だな。田、1文字で名前なのか。読み方は? 「た」か? というか秀作というのも相まって田舎臭い奴だ。どうせ農家の三男あたりで、東京に出てきて1人暮らしで、彼女もいなくて、仕事でも冴えなくて、1人でPVDOの動画ばっかり見てるんだろうな。


 俺だ。


 ちなみに読み方は「た」じゃなくて「でん」だ。でん しゅうさく。田舎臭さは抜けないが、たまに中国人にも間違えられると補足しておこう。

 本名が晒されている事に対する衝撃がじわっとわき腹に広がった。Amazonにすら偽名で登録しているこの俺の本名が、こうもあっさりと、怪しげな、というか怪しさその物であるPVDOのサイトに堂々載せられてしまっている。珍しい名前なので身内に見られたらすぐバレるぞ。ここのプライバシーポリシーは原始時代で止まっているのか?


 だが……。

 仕方ない、か。PVDOが一体どこの組織で、何を目的としているのかはさっぱり分からないが、とにかくやべえ力を持っている事は分かりきっている。力と言っても金とか権力とかじゃなくて、物理的、または超物理的な力だ。世界を滅ぼす事さえたった1つの能力で出来る組織相手に、小額訴訟を起こして一体どうなる。IPを開示して一体どうなる。どうにもならん。


 ため息をブーストしつつ、俺はリーダーボードを眺めていく。てか1位のランク凄いな。てか250人もいるのか。橋本啓介。ランク2でリーダーボードが見られるようになったが、更に上げると何か別の恩恵があるのだろうか。女の名前もちらほらいる。これらの人達が全員指示を出しているメンターという事は、タマルのクローンは最低でも250人作られているのか。ランク5 橋本啓介。橋本啓介?


 聞き覚えのある名前、というか、親友だ。

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