第11話 岩と炎と
荒れ果てた大地に、背の高さくらいの岩がごろごろと転がっている。地面には小石も砂もあり、地平線はどこまでも遠くにある。太陽が照りつけて、画面を通して見てるだけでも暑くなってくる。
前回の戦いの場とはまた違った殺風景さの正体は、相手が真っ先に発動した能力にある。
C-20-L『岩石地帯』
戦闘エリアを岩石の多く置かれた荒野に変更する。
戦闘エリアの空間その物を変化させるロケーション能力。これが単独ならば、相手にも味方にも有利不利は発生しないが、相手は当然この能力を軸に他の能力を選んでいる。
A-19-R『ファイア-ボ-ル』
手の平から火炎を纏ったエネルギ-弾を発射する。
バスケットボールくらいの火炎弾が、相手の手の平から飛び出した。それは揺らめく炎で覆われており、直撃すれば骨折と火傷を同時に負わされる。だからこそ必死で避けるが、もっとも恐ろしい性質は避けた後に襲って来る。
ギリギリで回避に成功したタマルの後ろで、『ファイアーボール』が跳ねた。岩にぶつかったそれは、最初と変わらぬスピードで返って来る。おそらくあらかじめ返って来る角度を想定していたのだろう。今度は避け切れそうにない。
タマルの発動。
A-12-I『インフィナイフ』
ナイフを召喚する。
手にしたナイフで『ファイアーボール』を弾く。ナイフも勢いでタマルの手から離れ、地面に落ちる。どうやら幸いな事に、タマルはわずかに指を火傷したようだが、深い傷までは負わなかったようだ。
落ちたナイフを「もう1人の」タマルが拾う。
タマルの発動。
C-12-G『劣化分身』
能力を持たない自身の分身を召喚する。
『インフィナイフ』+『劣化分身』このコンボは以前動画で見た事がある。本体の戦闘力をナイフによって強化しつつ、分身の戦闘力も一緒に強化出来る。一撃必殺って訳ではないが、便利な組み合わせだ。『インフィナイフ』を手に入れた時、真っ先に頭に浮かんだ組み合わせでもある。俺はこれを作戦の軸とした。
ただ、『インフィナイフ』自体は今回あまり有効とは言えない。障害物だらけのこの場所で投げて当てるのは至難の技だし、相手はナイフよりも良い武器を持っている。
振り返ると、もうそこに相手の姿は無かった。沢山ある岩のどれかに身を隠したのだろう。『ファイアーボール』のインターバルは30秒。30秒後には再びあの火の玉が襲って来る。2人になる事によって減っているとはいえ、もし死角から来れば避けられる確信はない。
こうなれば、こちらから仕掛けるしかない。
2人で手分けして人が隠れられる岩の後ろを探す。10秒、20秒、しかしどこにも相手の姿はない。相手のCORE系能力はこの『岩石地帯』。C-M系でもない限りそう遠くへは行けないはず。25秒。まずい、次のファイアーボールが来る。タマルもそれは分かっており、分身を呼び寄せると背中を合わせて構えた。
どこに隠れたんだ? 俺も思わず動画に目を凝らした。カメラで見ていても岩から移動した所は見えなかった。敵は一体どこから来る。モニター越しの俺でもここまで緊張しているのだから、タマルは恐怖を抱いているはずだ。
「いました!」
分身が叫んだ。咄嗟に後ろを振り返るタマル。と同時に、『ファイアーボール』は放たれた。
相手の発動。
H-16-S『インビジブル』
透明になる。何かに触れるか、10秒経過すると解除される。
つまり相手は、岩を利用して身を隠してから、更に身を隠した訳だ。そしてこちらの「岩の後ろに潜んでいる」という思い込みを利用し、至近距離から直撃を狙った。そしてその作戦は成功した。咄嗟に身体を捻ったものの、相手の放った『ファイアーボール』はタマルの右肩に命中した。骨の砕ける音と、熱い物が押し付けられる嫌な音が同時に響く。
しかしまだこちらには奥の手がある。
タマルの発動。
H-14-V『フリ-ズ』
視界にいる対象の生物1体の動きを2秒間停止する。
僅か2秒ではあるが、相手の姿さえ見えればこの能力は発動出来る。そして骨を折りつつ火傷して事実上の戦闘不能状態でも、こちらには分身がある。2秒あれば距離を詰めるには十分。『フリーズ』が解除された瞬間、分身の刃が相手の喉を掻っ切った。
決着。
タマルの勝利。
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