第4話 新能力ガチャ

 仕事が手につかないとはまさにこの事なんだろうな、と思いながら働いている。

 無断欠勤の件と今日の遅刻を合わせてしこたま怒られたが、じゃあ何て言えば良かったのか。


「いやー、昨日突然うちに少女が転送されてきましてね。その子に注射して能力を付与したら、何とモニターの中で戦い始めたんですよ。まあ勝ったんで嬉しかったですけどね。今日も来るみたいです。まいっちゃうなあ」


 黄色い救急車を呼ばれるか、あるいは警察か。何にせよ職は失うし尊厳も失う。


 だからひたすら黙々と仕事をこなすしかない。のだが、1つ、懸案事項がある。


 初めての戦闘が終わった後、この奇妙なゲーム? を運営しているであろう管理人から、「HEAD、ARMS、COREいずれかの能力を1つ選べ」と言われている。選んだ中からランダムで新たな能力が送られて来るらしい。チャットで締め切りを尋ねると、「戦闘開始の20分前まで」と言われた。


 つまり予定としては、23時40分までに能力を選び、23時50分には俺の部屋にまたあの少女が転送されてきて、そして0時ちょうどに戦闘開始という訳だ。で、勝てばまた新たな能力。


 ここで気になるのは、負けた時の処遇についてだ。俺はネイティブのネガティブ人間だし、基本人間不信だ。だから何か裏があるんじゃないかと考える。そりゃ疑う。人間だもの。


 だがその事について聞くと、答えはあっさり、「負けても何もありません」と返ってきた。それをそのまま信じた訳ではないが、聞きたい事には答えてくれそうな姿勢を感じた。


「ところであなたは誰ですか?」


 基本的な事を聞いてみた。すると答えは返ってきた。


「PVDOの管理人です」

「PVDOとは何なんですか?」

「そろそろ眠いので寝ます」


 えぇ……。


 一連の事象は信じられないが、質問されてるのに寝るとは社会人の態度としても信じられなかったので、逆に信用が増してしまった。それと気になる事が多すぎてその日は逆によく眠れた。CPUの使用率が上がり過ぎてビジー状態になり、そのままフリーズした感じで落ちた。人間分からないもんだ。


 とにかく。目の前の課題は「どの種類の能力を選ぶか」だ。


 HEAD、ARMS、CORE。それぞれの部位の能力は、同じ種類の物を2つ使えない。例えば、現状俺はARMSの『チャージショット』と『バリア』を持っているが、両方は同時には使えない。使ったらどうなるかは知らん。今度聞いてみる。


 他に俺が現在所持している能力は、HEADが『フリ-ズ』と『ワールドエンド』。COREが『猛獣使い』と『番犬』。昨日この中から『フリーズ』と『番犬』と『チャージショット』をそれぞれ1回ずつ使った訳だ。


 じっくり1つ1つ、考えてみよう。


 『フリーズ』は敵の動きを止める能力で、攻撃にも防御にも使いやすい。実際昨日の戦闘でもこれが決め手になった。

 『ワールドエンド』は世界を滅ぼすという超大技だが、1対1での対戦では火力過剰過ぎるし、目を瞑るという回避手段もある。というかこれ自分も死ぬ。よく分からん能力だ。実際、動画で他の奴が使っている所をあまり見た事がない。


 『チャージショット』は溜める必要があるが遠距離攻撃が可能で、火力も申し分ない。しかし昨日は上手く時間を稼げたが、稼がせてくれない相手には弱い気もする。

 『バリア』は防御的な能力だ。相手の遠距離攻撃には滅法強い気がするが、攻撃手段にはならないし、近接した時は受ける一方になる気がする。


 で、問題は『猛獣使い』と『番犬』だ。


 ぶっちゃけこの2つの能力は被ってる。能力にはその性質によっていくつかの系統があるが、これら2つはC-G系。つまり、生物を召喚するという点で同じだ。

 一応、番犬の方は複数回召喚が出来て、猛獣の方は全天候対応かつ高戦闘力という点で差別化されているが、COREには他にも肉体を強化したり、戦闘エリアを別の空間に変える能力がある。それらが欲しい。


 PVDO。存在は謎であるし、まだまだ聞かなきゃならない事は山ほどある。が、どうせやるなら勝ちたいと思うのが人情という物だ。戦略的な観点から、能力の種類は豊富な方が良い。沢山の能力があれば様々な作戦が考えられる。


 よって、今回俺が希望するのはCOREが良いだろう。召喚系以外の新しい能力が手に入れば、昨日使わなかった『ワールドエンド』や『バリア』の有効な使い道が生まれる可能性もある。


 仕事中に出した結論を、俺は足早に家に持ち帰った。そして昨日教えてもらったサイトにアクセスし、チャット欄に打ち込む。


「すみません、今いらっしゃいますか?」

「いますよ」


「新しい能力はCOREでお願いします」

「了解しました。23時50分に持っていきますのでお待ちください」


「あと、いくつか質問したいんですけどいいですか?」


 しばらく間があいて、


「1つだけどうぞ」

「何で1つだけなんですか?」

「面倒だからです」


 俺が言えた義理ではないが、マジでこいつ社会人としてどうなんだ。


「じゃあ1つだけ。PVDOって一体何なんですか?」


「あなたがしている事です」


 禅問答かよ。意味が分からん。


 それから俺は食事を済まし、昨日上がった動画を見て、Wikiもチェック。とりあえず新しい能力が何であっても、今日は昨日と同じ作戦で行くか、と考えながら、時計を何度もちらちら見つつ、少女が来るのを待った。


 そして23時50分になると同時に、少女は目の前に突然現れた。なんか光とか音とかそういうのが一切なく、すん、とゲームのバグみたいに現れるので、余計に幻に見えるのだ。ちなみに俺はまだ幻説も捨ててない。


「初勝利おめでとうございます」


 仏頂面の少女が開幕そう言った。「あ、ありがとう」とうろたえながら、少女が手に眼鏡ケースのような物を持っているのに気づいた。


「新しい能力です。お確かめください」


 俺は少女からそれを受け取り、慎重に開ける。中には注射器が1本だけ入っていた。ラベルが張ってある。


 C-12-G『劣化分身』

 能力を持たない自身の分身を召喚する。


 また召喚系被っちゃったった!

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