自殺島 ⑦
今日でこの島ともお別れだ。
この島に滞在して約一週間。本来なら五日間のところ真穂の入院もあったので、八日間。そして今日を含めた九日間。
長いようで短かった九日間は俺のなかで一生残る出来事となることだろう。
自分を英雄だとは思わないが、この島を平和に取り戻せたのは俺が動いたからだと思う。それも施設の中で出会った島民のお陰だ。
俺のことを怪しがりもせずに会話してくれたことにより、俺も初めての感情が芽生えた。
そしてその感情を心の中で思うだけでなく、達成させるために、俺はこの島で最初に降りた砂浜で船が来るのを待っていた。
春香も真穂も、家族に一旦の別れを告げに行った。
一旦、というのは、俺たちが島から出た後で次は家族が島から出てくるからだ。
家族と二人がまた会うためのしばらくの別れということになる。
この島には毎月三回、島の食糧を運ぶ船がやってくる。タイミングが良く、その船の到着日が今日だった。
なので、真穂の退院は朝に行われ、船が来るの昼までに挨拶を済ませて荷物を持ってくるという、どうもバタバタした状態となっていた。
ボーーーッ。
遠方から、一隻の船がやってくる。
多分あれが食糧船だろう。
船が近づいてきたと同時に、真穂が走って来る。遅れて春香も走っていた。砂浜なので足を取られるのかヨロヨロと走っている。
「ごめーん、幽夜!!遅れちゃった!!」
額から浮き出る汗を手の甲で拭いながら真穂は息を整える。
白シャツに膝までの黒スカート。ベージュのコートを羽織っている。加えて大きなカバンとなれば、それは走れば汗も出ることだろう。
「遅れてごめんなさいっ!!お父さんが泣いちゃって手間取っちゃった」
と、白のブラウスにデニムとカジュアルな感じの服装で来たのが春香。
真穂と似たようなカバンを持って汗は出てないものの息を切らしている。
「良かった。裏切られたかと思ったよ」
と、一安心するのが俺。
洗濯はしたものの服装を変えることができなかったので、帰ったら速攻で服を変えよう。
船が止まり、中から船を運転していた男が出てくる。
もちろん俺たちが島から出ることなんて知らないので事情を説明すると、「そういうことなら、任せな」と快く了承してくれた。
食糧を出し終えて、空になった船に乗る。食糧は後で島民が持って行ってくれるらしい。
「それじゃ出発するぞお」
男の掛け声で船はゆっくりと動き出す。
旋回して、島の景色が俺たちの背後になる。
そこから船のスピードは上がり、徐々に島から離れていく。
「これでやっと、終わったんだな」
離れていく島を眺めながら、俺は呟いた。
船の水を切る音が心地よい。
「まさか、こんな風になるなんて思わなかったね。春ちゃん」
「うん。私もこうなるなんて思わなかったよ、まっちゃん」
ん、いつの間にそんな仲良くなったんだ?
お互いにあだ名で呼び合っているが、俺はそのあだ名を今日初めて聞いたぞ。
思わず訊いた。
「いつの間にそんな仲良くなったんだ?」
「いつの間にって......」
二人は顔を合わせて、そして同時に俺を見ると、口を合わせてこう言った。
「私たち、幼馴染なんだよ」
「ええ?!」と素っ頓狂な声を上げる。
幼馴染? いや、でも。だったらどうして初めからこんな風じゃ無かったんだ?
俺が言わずも、春香は説明してくれた。
「私たち、小さい頃は何度も遊んでたんだけど、大きくなると全然話すこともなくなってね。だから久しぶり会った時、自然と他人行儀になっちゃってたんだよね」
「そうそうっ! いやあ施設内じゃ全然話せなかったからさ、今こうして話せて嬉しいよ」
「私もだよっ! もう、お腹刺されてたの見て本当に心配したんだから!」
「あはは、それはごめんね。私も必死だったからさ」
二人の会話を聞きながら、俺は今度こそ解放された気分になった。
「......まったく、最後までこうかよ」
俺は微笑み、空を見上げる。晴天に恵まれて、暖かな日差しが俺たちを包んでくれる。
船の汽笛が、間も無くの到着と、不安との別れを告げた。
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