自殺島 ④
刃物の刺さった腹部が赤い血でじわりじわりと真っ赤に染められていく。その血は止まらずに徐々にその染みは広がっていく。
「う......うう......」
声にならない声で唸って、その場に倒れたのは、
後ろにいたはずの真穂だった。
真穂は佐藤の刃物を腹に受けて、そのまま俺の前で崩れ落ちた。俺のことを
「真穂!!何で......!」
「何でだろ、か......体が勝手に......動いてた......」
「......馬鹿野郎......!!」
二人の様子を見た佐藤は、さもわざとらしく悲しそうな表情を見せて、もう一度右手から同じような刃物を取り出すと、今度は冷徹に話しだす。
「馬鹿ですねえ。恨むべき相手を庇って自らを犠牲にするなんて、とんだ大馬鹿ものですねえ。でもまあ、あなたも私との約束を破ったわけですから死んでも当然というべきでしょうか。さて、今度こそ殺しますよ、幽夜クン?」
俺は何も言わずにただ睨んでいるしかなかった。
真穂の表情は歪み、脂汗をかいている。息も荒く、早くしないと危険な状態なのに......俺の体が動かない。
こんな時に怯えてるのかよ、今度こそ、今度こそ守るんだって。一緒に島から出るんだって言っただろ!!
「では、二人一緒に泥の中、それも奥底に埋めてあげますからねえ」
佐藤が俺の前に立ち、ゴミを見るかのような目つきで最後の一言を放った。
「今度こそ逝ってくださいね?」
もう駄目だ。
ーーそう思った時だった。
突然佐藤に何者かが体当たりしたのだ。もろに体当たりをくらった佐藤は吹っ飛ぶ。
その何者は息を切らして、右手には血塗れのナイフを握っていた。顔を見ると、俺は思わず声を上げた。
「そ......曽根さん?!」
驚く俺に、曽根さんは強く言葉を放つ。
「今はその娘を病院に連れて行きなさい!!」
「び、病院ってどこに」
「それはあの子達が連れてってくれる!!」
あの子達......?
曽根さんの視線の先は俺の後ろを見ていた。
振り返るとそこにはーー。
「幽夜!こっちよ、速く!!」
「ゆうやお兄ちゃん!!こっちこっち!」
「は、春香......それに、ひなも......」
俺は頷いて真穂を抱え、刺さった腹部の刃物に注意しながら小走りで向かう。
真穂を助けることだけを考えてーー。
♢ ♢ ♢
「うぐ......ぐあ......」
泥まみれになった佐藤は、刺された横腹を抑えながら悶えていた。抑えている横腹は血塗れで、その手も瞬く間に真っ赤になる。
曽根はそんな佐藤を見て呆れたように言葉を放つ。
「お前はやり過ぎたんだ。俺たちがいつまでも復讐心に燃えていると思うなよ?もう俺たちに復讐心なんて消えていたんだ。復讐心に囚われていたのはお前だけだったんだよ。
結局、お前も昔と同じことをしているんだ。俺も最初は良かったさ。監視員が自殺する度にいい気味だと思っていたよ。
でもな、それも疲れてくるんだ。お前の復讐心に付き合うのがな。......ほんと、お前だけだ。ずっと復讐心で動いていたのは」
「......なぜだ......なぜ俺の気持ちが分からない......!母さんが殺されて、何とも思わなかったのかよ!!」
「ーー幽夜くんだったか。あの兄ちゃんのお陰で薄れていた復讐心は完全に消え去ったんだ。あの兄ちゃんは自殺を止めようとしてたんだよな。俺が自殺を演じた時にそれを感じたよ。
そんな兄ちゃんを殺すわけにはいかねえ、だから俺は真穂ちゃんに夜中のうちに頼んだんだ。彼を殺さないでくれってな。
真穂ちゃんもお前が知らないうちに苦しんでたんだ。きっとお前はそれに気付きもしなかったんだよな?」
「......くそ......くそが......全員殺してやる......俺の手でこの島ごと......」
曽根は刃物を持ち直す。
「こんな息子に育てちまって悪かった。俺にも責任がある。でも、これで終わりだ。もう全てを終わらせようじゃないか。この復讐を企てた俺たちで最後にしよう」
「......まだだ......まだ終わらせるわけには......」
「許せ」
持ち替えた刃物を、佐藤の腹部にもう一度突き刺す。佐藤は痛みに絶叫し、何度ものたうち回ったのち、動きを止めた。湿った泥に血が流れ出す。
吹き出した汗を拭い、曽根は幽夜の向かった病院に視線を向けて、
「全部、兄ちゃんのお陰だ。これで、この島の呪いは解かれるよ」
首に刃物を当て、そのまま勢いよく掻っ切る。
痛みと苦しみに声を上げるが、ごぼっごぼっと口に血が溜まって声にならなかった。曽根もまた、暫くして動きを止めたのだった。
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