自殺島 ③

佐藤の話を俺はただ静かに聴いていた。



ーーこれは後から父に聞いた話ですが、私が君ぐらいの年頃のとき、この島は島民が自殺していたんですよ。

島民はある実験のために無作為に選ばれて、ある人物によって洗脳されて自殺していました。

ある人物が誰か?......私は知りませんね。

洗脳された人が自殺することによって、最愛の者を亡くした人間はその後、何を思い、どんな行動をとるのかという実験を行っていたようですよ。

ある日、私の母が選ばれてしまいましたが、母が選ばれたなんて私たちは知る由もありません。

だから母が自殺してから私たちは気付くんですよ。「ああ、今回は母が選ばれたんだな」と。つまりどうやって選ばれるかなんて分かりませんから、島民は不安な毎日を過ごしていました。

そして監視員が家に来て、亡くなった母を連れて行くんです。私たちの抵抗も監視員は警棒で殴って黙らせてきました。

もちろん私はそこで諦めませんでした。さっき言ったように、私は監視員の後について行き、隙ができた瞬間に監視員を金槌で殴り殺しました。

それは何度も何度も、顔の形が完全に無くなるまで何度も殴っていました。ヒトって怒りの感情で強大な力を発揮することにそこで初めて知りましたよ。

気づいたときには手のひらの皮はめくれて金槌の持ち手は血で赤くなり、監視員の顔は殺した私でも目を覆いたくなるような醜さでした。

やがて父が......そうです。佐藤曽根が私にこう言いました。


『このことできっと次は俺か、お前が狙われる。もしも俺が選ばれたら、俺は洗脳される前にこの実験の首謀者を殺す』


その言葉通り、父は対象として選ばれることになりました。ある日家に帰ると、父は不在でした。父は夜勤で、日中は家にいるもんですから選ばれたことにはすぐに気づきましたねえ。

......え?どうして他の人は首謀者を殺さなかったかですか?

単純ですよ。首謀者に近づいて自分が洗脳されたくなかったから殺せなかったに決まってるじゃないですか。ほんと単純ですよねえ。

話を戻しますよ。父が選ばれたその晩、帰ってきた父は私にこう言いました。


『殺してきた。今度から俺たちは自由だ!もう自殺に怯えることはない!』


これが私たちが恐れられた理由です。

この島の頂点である首謀者を殺したことにより、次は私たちが何かしでかすのではないかと恐れられたんです。

ですが、私たちは何もしませんでした。まずは島民の信頼を得ることから始めないと、何もできないですからねえ。

そして私が大人になったとき、この施設を建てることにしたんですよ。

今度は私たち島民ではなく、家族の死体を何の感情も持たずにこの泥沼に運んだ監視員を殺すためにーー。

ですが、自分の手で殺すのは私も島民も嫌に決まってますよ。ですから私はこう思ったんです。


『だったら、同じように自殺させてやればいい』


とね。こうすることで島民は自分の手を汚さずに復讐を果たすことができる。

そして何年たっても自分たちの家族が死んだときと同じように自殺させることで、島民は復讐心を忘れないでいられる。

その他にもお金という単語を使うことでも復讐心を忘れないようにしましたよ。

私の計画は上手く行っていました。


ただ一つ、あなたが生きていなければね。


ーーおや、これも洗脳だというのですか?私は復讐のために行っているだけです。島民の方も復讐のために行っているんですよ。

同じ復讐心で監視員をこれまで自殺に追い込んでいく......。

こうして、私たちは自殺という洗脳から解放されたんです。


......これで私の話は終わりです。何か質問はあるかな。


佐藤は体をこちらに向き直し、笑顔だった。

佐藤の話はそこで終了した。

これで全ての謎が繋がった。全ては壮大な復讐のために造られた壮大な計画だったのだ。


俺は一つだけ訊きたいことがあった。


「あの施設で俺が見た死体は何だったんだ」

「......あれですか?単純なことですよ。人形を使っていましたよ」

「人形、か。ははっ、やっぱ冷静になれてなかったな。思い出せば、全員顔が見えなかったよ」

「あなたが冷静でなくて良かったです」


そう。春香はこちらに向けて首を吊り、曽根さんの身体は燃えてなくなり、ひなはうつ伏せで倒れていた。

全員、顔をこちらに見せて死んではいない。

そうなると、監禁部屋に特別な鍵がないと入れないと言ったのも、確認させないためだったのか。まあ中から鍵がかけれるようになっていたからできないんだけど。


「どうです?あなたにも私たちの気持ちがわかりましたよね?」


もちろん。その意見に俺は共感、しない。


「......本当に島民全員がずっと復讐心に燃えて、この施設にいたと思うのかよ」


ぴくりと、佐藤の眉が動く。


「......おや、何が言いたいのですか」

「そのまんまの意味だよ」


この施設にいたことで、自らを苦しめていた人間が一人いる。


「ここにいる真穂だよ。真穂は施設に入れられてずっと苦しんでたんだぞ!!それでもずっと復讐心を絶やさずにいれたと言うのかよ!!」

「ゆ、幽夜......」


真穂の声も聞かずに、俺は続ける。


「復讐なんてな、ただの自己満足に過ぎねえんだよ!!」


佐藤に言葉で捲したてる俺を、真穂が背後から必死にしがみついて抑える。

佐藤は依然冷静で、俺のことを見下すように見つめている。

そして、


「良いじゃないですか、それで。そもそも自殺の原因の全ては、初めに洗脳を始めた首謀者ですよねえ?私は自殺を止めたんですよ?だったらそれで良いじゃないですか。

......島民は、私が守ったんですよ。そうだろう?真穂」


突然名前を呼ばれて、真穂は戸惑う。すかさず俺が反撃する。


「何言ってんだテメエ......!!島民を守ったくらいで英雄ぶんじゃねえよ。首謀者を殺しても今じゃお前が首謀者になってんだよ。気づいてねえのか?お前が止めたかったことは今度はお前がやってるんだぞ?」

「......黙れ、屑」


舌打ちが聞こえたと思うと、佐藤は右手からキラリと光る何かを取り出した。その何かが刃物だと理解する間に、佐藤は走り出していた。


グサリ、とその刃物は腹に刺さった。

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