最終日:自殺島
自殺島 ①
俺の後ろには、真穂がついている。
もう一人じゃない。いや、最初から俺が一人になることは無かったんだ。春香や曽根さん、そしてひなは今も生きている。今頃何をしているのだろうか。もしかすると、俺が死んだと思って嬉しく思っているのだろうか。
この島が自殺島と呼ばれる理由は昔と今では全く逆になっていた。監視するものが島民によって自殺させられるという意味になったんだ。
全ては、指揮官である佐藤の陰謀。あの男に何があったのか、俺はそれを知る必要がある。
オカルト好きの名にかけてでもーー。
一歩踏み出した先には、今までと同じ構造の無機質なコンクリート部屋。しかし、やはりこの部屋に監禁部屋は用意されていなかった。佐藤は、俺が前室で自殺するだろうと踏んでいたんだろうが、それは実行されなかった。
俺は、真穂によって命を救われたからだ。
「こんな部屋、作る必要あったのか......?」
「さあ。私もここまで来たことないから理由は分からないわ」
何もしないまま時間を過ごすのだろうか。
一応、おそらく外に出るために取り付けられた鉄扉があるのだが、あれは開くのだろうか。
もし開かなかったとしたら、このまま餓死するまで......?
佐藤ならそこまで考えそうだ。
一応開くかは確認しておこう。
鉄扉に近づきドアノブに手をかける。ゆっくり押してみると、扉はそれに合わせてゆっくりと動いた。意外にも鍵は解除されていた。
開けた扉を一旦閉めて、真穂に話しかける。
「開いてる。この扉」
「......え、そうだったんだ。じ、じゃあもう出ようよこんなところ」
「あ、ああ」
開いていると聞いた瞬間、真穂は怯えた様子を見せた。さっきから、動揺しているようだが......?
とにかく、今は外に出てから考えたほうがよさそうだ。
もう一度扉をゆっくり開けていく。勢いよく開けれたらいいのだが、どうも重くてなかなか勢いよくとはいけない。こんな扉をよくあの精神状態で動かしたなと我ながらに誇らしく思う。
ーー光が見えた。
一筋の光が俺らを照らすが、それは決して白熱灯の光ではない。それよりも遥かに明るく、温かみのある光。
太陽だ。
これまでの五日間、一度も外に出ることなく白熱灯の明かりで過ごしてきたので、太陽の眩しさが久しぶりに感じる。
五日ぶりの草原に足を踏み出す。
「......おや、やはり生きていたんですねえ」
解放された瞬間、その声に、俺の体は硬直した。
明らかに真穂の声でも、ましてや俺が言ったわけでもない。
太陽と同じく久しぶりに聞いたその声の主は紛れもなく、佐藤だ。
振り返ると、真穂はしまったというような表情をして明らかに怯えている。
柏手で奥の部屋から近づいてくる佐藤に反して、真穂は俺の後ろに隠れる。
外には俺が、部屋の中には佐藤がいてお互いに睨み合う状況。
真穂が逃げ出したにも関わらず、冷静な面持ちで手を止めると、かけていた眼鏡の位置を指で直してそのまま腕を組んだ。
睨み合いを、最初に破ったのは佐藤だった。
「この島について調べるだけでなく、自殺もしないとは......素晴らしいですね」
「ひなの部屋で見たんだな?俺がこの島について考えてたことを」
「ええ、そうですね。どこまで調べましたか」
ビビるな、俺。冷静に、冷静に。
「そ、そうだなあ。この施設にいた人間は自殺を演じていたことと、自殺島と呼ばれている理由についてはある程度は分かってるぜ?」
そう言うと、佐藤は眼鏡を指で調節し、そのまま手を止めた。白熱灯の明かりが佐藤の眼鏡に反射し、怪しげに光っている。
そのまま佐藤は話し始める。
「ほう。それは誰から聞いたのですか?」
「俺の推理もあるが、ほとんどはここにいる真穂から聞いたぜ」
「そこの真穂さんが、ねえ。......私、最初に何と言ったか覚えてますか?」
「......この島について深く詮索することはお止めください。だったかな」
「覚えていたのですか。しかしながらその約束を破りましたね。あなたも、真穂さんも」
後ろにいる真穂が俺の服の裾をきゅっと握る。俺も少しだけビビっていた。
やはり、佐藤は俺たちを口封じのために殺すのだろうか。
そんな雰囲気を感じ取ったのか、佐藤は怪しく微笑んだ。
「殺しはしませんよ。......そこまで私は冷酷ではありませんから。ですが、そこまで知られたのならお話しするしかありませんねえ」
「話しって、何の」
「分かりませんか?この島についてですよ」
「......そうか。俺も丁度あんたに聞かないといけないと思ってたんだよな。島の話を」
佐藤は眼鏡から指を離し、こちらに歩き出す。
殺さないと言われていても完全に安心はできない。近づいてくる一歩に反して少しだけ下がる。もちろん真穂を気遣いながら少しずつ。
佐藤が施設から出たところで、俺は訊く。
「全部、話してくれるんだよな?」
「ええ、そのつもりですよ。あなたにも私たちの気持ちを知っていただきたい。さあ、こちらへ」
言って佐藤は歩き出す。俺たちも少し遅れて歩き出す。
どこへ行くのだろうか。まさか移動した場所で殺されるのではないかと不安に思いつつも、案内のままにその場所へと向かった。
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