【夜】

真穂は監視部屋のコンクリートで横になり、静かに寝息を立てていた。

俺はその横で正座し、真穂の乱れた黒い髪を撫でていた。俺らはずっと苦しんでいた。自分で自分を蝕んでいたんだ。

だからと言って、全て自分のせいではない。

真穂にいたっては、この施設で何度も見たくもないものを半強制的に見せられていたんだ。俺なんて自分で道を外したから傷ついたのに、真穂は周りの環境に流されて傷ついた。

こうなってしまった程度は俺よりも辛いものだ。


「絶対に、島を出よう」


突然眠っていた体勢を変えて、思わず手を離す。

真穂は時折、「ごめんね」と寝言で呟いている。夢の中でも、苦しんでいるのか?......俺は夢の中までは助けに行けない。

今日も、長かった。お互いに傷をさらけ出してそれをお互いに分かり合う。これ以上ぶつけ合えないほどに、自分の気持ちをぶつけ合った。

ぶつけ合ったことで、今の俺たちの関係がある。

あの後、俺たちはちゃんと気持ちを落ち着かせて話し合った。


♦︎ ♦︎ ♦︎


「それで......明日はどうするの」


真穂は涙を拭きながら、俺に問う。

明日、次の部屋に島民はいないと思う。ここで監視員が自殺していたのならば、次の部屋に島民は必要ないからだ。ただ、この仕事は五日間ある。あと一日、何が待っているのだろうか。


「とりあえず、次の部屋に行くよ。......そうだ。真穂、何か知らないか?次の部屋に何があるのかを」

「......誰もいないと思う。監視員はどうせここで自殺するって算段だから」

「やっぱそうなのか。......どうして佐藤は五日間用意して、しかも五人を監視してもらうと言ったんだろう......」

「佐藤......?」


真穂は、指揮官の名前が佐藤というのを知らない。だから聞き返すのも不自然ではないことだ。

曽根さんは、どこで佐藤の名前を知ったのだろう?


「指揮官のことだよ。佐藤って名前なんだ」

「へえ、そうだったんだ」

「案外普通の名前だよな」

「そう、だね......」


苦笑した真穂は腕を組んで何やら考え事を始めた。あまりに真剣な顔で考えていたので、俺は声をかけれなかった。


♦︎ ♦︎ ♦︎


あれは何を考えていたんだろう。真穂は俺に何も言わずにそのまま寝てしまった。

まあ、気にすることでもないか。

そう言えば、まだ何も食べてなかった。お腹が空かないのでまったく気にしなかった。何か食べる物......と思ったのだが、この部屋に食糧を入れている箱が無い。

やはり、監視員が自殺するのだったら必要無いと思われているんだろう。

ぐううと腹の虫が鳴る。お腹は空くが食べるものが無いのでどうすることもできない。

真穂はお腹は空いていないのだろうか。


「はあ、こうなるんだったら大切にしとくんだった」


空腹に後悔するが、無いものは無い。こういうときに催眠ガスが欲しかった。

あまりガスを吸いすぎるのも体に良く無いと思うが。

何か気を紛らわせるもの......紛らわせるもの。


「そうだ、監禁部屋の中はどうなってるんだ」


今まで入れなかった監禁部屋。真穂が鍵を開けたことにより、入れるようになっている。

調べるなら今がチャンスだ。

思い立ったらすぐに行動。立ち上がって監禁部屋の扉を開ける。

見かけによらず、意外にも扉は軽かった。これならひなにも扉が開けれたというわけか。


監禁部屋は監視部屋よりも狭いものの、やはり設備はある程度整っていた。

天井には換気扇とスプリンクラーが。監視部屋から見ると死角にあたる部分にはなんと壁掛け時計が。これで時間は把握できたというわけか。あ、トイレもある。

そしてやはり、明かりの調節スイッチがあり、......その横の四角いボタンは何だろう。


興味本位で押してみる。その瞬間、空気の噴出音がどこかで......。

その瞬間、しまった、と思うが既に手遅れだった。俺は誤って、催眠ガスを噴出させてしまったのだ。


幸か不幸か、その場で眠りに倒れることとなった。

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