三日目、終了
今回の目覚めは良かった。
理由は簡単、ひなの自殺を事前に食い止めたことにより俺は安心して眠りについていたからだ。やはり寝起きの節々の痛みには勝てないが、それでも生きていてくれているというのは心強い。
今日はどんな風にいこうか。普通のお兄ちゃんとしていくか、それともヒーロー役としていくか。
そうだなあ、案外楽しかったから、ヒーロー役でいこう。
俺は振り返って、鉄格子の中で眠っているだろうひなに元気よく声をかける。
「おはよう、ひなちゃんっ!ヒーローが起こしに来たーー」
目を開けたまま身体が硬まった。
俺は今、何を見ている。
......夢、だよな?
鉄格子を覗き込んだ先に広がっていたのは、うつ伏せのまま首から大量に血を流して倒れているひなだった。そして赤黒く固まった血は不自然に途切れており、その途切れたところだけを見ると文字が浮かび上がっていた。
『ヒーロー』
という文字が。
途端、俺は今までにないくらい叫んだ。心の中を刃物で何度も掻き混ぜられ、腸を抉り取られるかのような吐き気に襲われ、手を押さえて膝から崩れる。
嘘だ、嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!!!!
自殺してしまいそうな物は全て回収したはずだ。なのに、どうしてひなは死んで......。
未回収だった物があったのか?それともひなが隠し持っていたのか?
どうしてと考えたいが、頭が真っ白になって考えがまとまらない。
確かに、ひな、なんだよな?
弾かれたように立ち上がって鉄格子を強く握り、叫ぶ。
「おい!!起きろよひな!!」
鉄格子を目一杯に叩く。
「なんで......どうして!!」
叩く拳の痛みを感じない。痛覚が鈍るほど、鉄格子を叩いている。
信じたくない。ひなが、死んでいるなんて。
「ふざけんなよっ!!......クソが!!」
とうとう、膝から崩れ落ちた。
『俺は君を守りに来たヒーローさ』と言った自分を殺したい。俯いたまま勢いよく鉄格子に頭を打ち付ける。額から血が流れ、それは頬を伝い床にポタリと落ちる。
「何がヒーローだよ......クソ野郎が!!」
また叫ぶ。声が掠れても叫ぶ。自分に対するこの怒りをぶちまけてしまいたい。
ーーひなは自殺してしまった。自分の首を掻っ切って......。
俺のせいだ、全部、俺のせいだ。
涙と血が混じり床に零れ落ちる。
「ごめん......ごめんな......ひな」
小さな命も守れないクズなヒーローが、生きていていいのか。
約束も守れねえのにヒーローなんてかっこつけて。
ーーいっそのこと死んでしまいたい。
カチャンと、次の部屋の扉の鍵が解除される。
俺は、自分を恨んで憎んで涙を流すことしかできなかったーー。
小さな命は、ヒーローによって簡単に散り去ってしまった。
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