【夜】
ついに、夜が来てしまった。俺の腹時計がそう言っている。気がする。
ひなは相変わらず元気だ。ぴょんぴょん跳ねたり、鉄格子にしがみついては俺に話しかけたりと
鉄格子に寄り、思わず訊いた。
「ひなちゃん、疲れないの?」
「うんっ、つかれないよー!」
俺はまだ高校生と若いが、ひなとの年齢に差を感じてしまい、自分が衰えているように感じる。きっと精神的に疲れているから尚更なんだと思うけど。
「ひなちゃん、その元気はいつまでも大切にするんだよ?」
「もちろんっ!」
「......うん。それでいい。ひなちゃんの取り柄は元気だからね?」
「まかせてっ!」
思わず微笑む。
今日はあとどのくらい時間が残っているのだろうか。
その場で座り込み、天井を見上げる。白熱灯の明かりが消えることなく照らし続けている。
今日で三日目。色々辛いことがあったけど、もうすでに三日目が終わろうとしている。本当に長かった。ここまでよく頑張ってきたと思う。
明日と明後日で俺の仕事は終了する。仕事が終了したとき、一体俺は何を思っているだろう。笑顔だろうか、悲しんでいるだろうか、怒っているんだろうか、それともーー。
疲れから息を吐く。
そのまま寝てしまいそうだったが、まだ起きていたい。それと催眠ガスで眠らされることが本当なのか確認しておきたいので、起きていなければならない。
眠らないためには、ひなと会話しているのが一番だろう。
座ったまま話しかける。
「ひなちゃん、俺は明日次の部屋に行っちゃうけど、悲しまないかな」
「......」
「......ひなちゃん?」
「......」
返事が無い。
背筋に冷や汗が流れる。そして自然と鼓動が早くなっていた。
まさか、な。
思わず立ち上がって中を確認する。
見ると、ひなはうつ伏せで倒れていた。
「ひなちゃん?......ひなちゃん!」
話しかけるが返事が無い。
俺は寝ていない。それに、自殺できるようなものは全て回収したはずだ。ひなが自殺できるわけがない......!!
もう一度声をかけようとしたとき、耳に微かな寝息が聞こえた。
「......もしかして、寝た?」
荒くなっていた息を整えて、もう一度耳を澄ます。
今度はちゃんと、ひなの小さな寝息が聞こえた。
「よ、良かった......」
安堵し、へなへなとその場に崩れる。
先ほどまであんなにはしゃいでいたのに急に静かになったのでまさかと思ったが、良かった。寝てしまっただけか。それなら起こす必要は無いだろう。
安堵のせいか、俺は眠くなっていた。
この眠たさは自然なものか、それとも催眠ガスなのか。
俺はそれを確認することができないまま深い眠りについた。
白熱灯がフッと消え、三度目の暗闇が訪れる。
ーーザクッ。
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