【昼】 後編
残っている謎はこの島に関することではあるが、島全体に関する謎ではない。この施設に監禁されている島民についてだ。
曽根さんの時に思ったことだが、監禁されている島民は案外自由に生活している。彼はタバコを吸っていたが、こちらの監視部屋にはその臭いがしなかった。つまり、監禁部屋には換気扇なるものが設置されているということになる。天井に付いているのか、死角になっている所に付いているのかは分からないが、換気扇があることは間違いない。
さらに言えばスプリンクラーも設置されている。......曽根さんが燃えてしまった時、スプリンクラーから放出された水が霧を生み出した。
これは監禁部屋にもしものことが起こったときに設置されたのだろうが、結果としてその役割を果たすことは無かった。
......もう一つ、霊の仕業でなければこれも謎となる。それは、施設の照明についてだ。
何度も言ってるいるように、俺が寝ている頃には完全に消え、俺が起きたときにはうっすらと明かりがついている。そして、今は直視すると眩しいくらいに光っている。
絶妙な明かり調節に、第三者が加わってるとしか考えられない。監禁部屋の構造は中に入らない限り知ることができないので、この監視部屋だけで推測している。俺が今いる部屋に明かりを調節するような機械は無い。
今、この島についてまとめるとこういったところだろうか。
初めてこんなに思考を巡らせたので、すぐにお腹が空く。
立ち上がって箱を開ける。
中に入っていたのは、袋が一つとペットボトルが二本。そうか、ひなにもあげていたからもうこれだけしかないんだ。
ひなは腹を空かせていたから......。
仕方ない、ペットボトルの水で空腹をしのぐかと手を伸ばした瞬間、その手はピタリと止まった。
突然、ある事に気が付いた。
どうしてこんな簡単な事に気付かなかったんだろうと自分が馬鹿に思えるほどに。
ーーひなは俺が来るまで、どうやって空腹をしのいできたんだ?
これだけ動くひなだ。俺がこの部屋に入ってくるまで約三日間、どうやってひなは食事を摂っていた?
俺が施設に入ってきてから、佐藤は一度もここに入ってきてはいない。
つまり、ひなは食事を摂る手段は無い。それなのにこんなにも元気だ。この位の年齢だったら一日でも何も食べなければ体力は無くなってしまうのではないか。何も食べなくても生きていける特殊な身体では無いことを前提として話を進める。
ひなは俺が来る前に何度か食事を摂っている。これは曽根さんも同じだろう。そうでなければ夜になって腹が空いたとは言わないはずだ。春香はどちらか分からないが......。
それは俺からではなく第三者によってだ。恐らくそいつは佐藤だろう。では佐藤はいつ食事を与えていたのか。
その真実は、一つしかない。
ーー俺が、眠っている間だ。
思いつけば次々と新しい閃きが生まれる。まるで固く結ばれていた紐が、少し緩めることで一気に解けていくように。
そう、食事を与えるタイミングは俺が眠っている時しかできない。そうじゃないと、食事を運んできた時に俺と鉢合わせることになる。
では、どうして睡眠中の俺はそれに気付けなかったのか。これはあくまで俺の予想だが、
ーー催眠ガスによって眠らされていた可能性がある。
自然の睡眠なら、少しの音でも起きただろう。ただでさえコンクリートの上で寝ているので眠りは浅くなる。
この施設の扉は開けるのには少し力が必要なほど重く、そしてどれだけ注意しても多少は大きな音が出る。
それに気付けないほど眠りについていたということは、催眠ガスのような強力な眠気を催す物を使ったということだ。
ああ、だからか。二日目の時に頬を叩いても眠気が取れなかったのは。
謎が解ける感覚はこんなにも気持ち良いものなのか。これはこの島の謎を解いたときにもう一度味わえることだろう。
「ゆうやお兄ちゃん、どうしたの......?」
「えっ、どうした?」
「こわい顔、してた」
思わず自分の顔を表情を確認するかのように何度も触る。どうやら、あまりの快感に不気味に微笑んでいたらしい。口の口角が上がっていた。
そんな俺をひなは怖がりもしなかった。
「ゆうやお兄ちゃんっ!悪のそしきにのっとられちゃったの?!」
「へっ?悪の......ああ、そういうことか。
......いやっ、俺はまだまだ悪には染まらない!最後まで正義は勝つ!」
「かっくいー!」
一旦鉄格子から降りて、もう一度ジャンプしてしがみつく。
どうやら完全にヒーローごっこになってる。
ひなが楽しければそれで良いが。
難しい質問をしてひなが困るくらいなら、今のように遊んであげるのが俺の役目だろう。今回こそひなは自殺ができない。
結局、考えを整理したがその整理した考えではなく、突然頭に思った「監禁された島民の食事について」と、「俺は催眠ガスで眠らされていた」ことだけが解明された。
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