二日目:終了

目覚めは、悪かった。

何故か、少しの暑さを感じて半強制的に起こされた気分になっている。

重たい瞼を擦り、天井を見る。白熱灯は消え、部屋は真っ暗なはずなのに部屋の景色が薄っすらと目で見ることができる。

やはり、コンクリートの上で寝るものじゃない。節々の痛みが俺を蝕む。

痛い箇所を抑えながら、その明るさの正体を探そうと部屋をぐるりと見渡した時だった。


バチ、バチ、バチーー。


何かが燃える音が聞こえる。しかもその音は、監禁部屋から聞こえていた。

監禁部屋の鉄格子から、微かにオレンジ色の炎の先端が揺らいでいるのを確認できた。

どうして、あそこから炎がーー。


ハッとした時にはすぐに駆け寄り、鉄格子から中を覗いていた。


監禁部屋の中央で少し大きな物体が真っ黒なくすぶり煙を上げて激しく燃えている。その物体は、人間のように見えた。


「ど、どういうことだよ......!」


覚束おぼつく足取りで食糧箱からペットボトルを取り出し、キャップを開ける。

そして鉄格子の隙間から一気に水をぶちまける。

しかし、轟々と燃える炎はそう簡単には消えない。ペットボトルの水では不十分過ぎる。

しかしだからと言って他に水があるわけではない。俺はただ、燃え行く何かをただ見ているだけしかできなかった。


「何だよ......何が燃えてるんだよ......!」


嫌な予感が頭をよぎる。大きさ的には、あの人しかいない。それ以外にあれと同じ大きさのものが監禁部屋にあったとは思えない。

早く消えてくれと願った時、突然監禁部屋に天井から水が降り注いだ。鉄格子越しだと監禁部屋の構造が全くわからない。天井なんて全く見ることができない。

きっとスプリンクラーが付いているのだろう。


「早く......早く!」


水が霧となり視界を曇らせる。

ペットボトルの水とは違い、スプリンクラーの水は一気に炎を消したようだ。燃える音がもう聞こえない。


やがてその霧は収まり、監禁部屋の中を確認することができた。

ーーこうなることなら、霧なんて晴れるんじゃなかった。


「あ......ああ......ああ......!」


震えた口が塞がらず、声が上手く出ない。


部屋の中には、全身が丸焦げとなり顔の判別もできないほど酷く燃えた、曽根さんであろう人物がいた。

その黒焦げ死体の近くには、黒く焦げたライター。そして奥に見えるのは、ガソリンを入れるような小さなポリタンクが転がっていた。


曽根さんが持っていたライターが何らかの形で火がついて、ガソリンに引火した?

いや、そんな偶然が起こるわけがない。だとしたらどんな原因がある?直接ガソリンに火をつけた?それとも......。

そこで嫌な予感が頭をよぎった。

曽根さんに渡した、コッペパン。まさか、あれに火をつけてガソリンに......?

どうしてだろう。そんなこと確かだと言えないのに、考えをまとめる前に自分がやってしまったのではという後悔の念に押し潰されそうになる。


つまり、曽根さんの自殺を俺が知らぬうちに手助けしてしまったというのか?あれだけ自殺を止めようとしていたのに、結局俺のせいで曽根の自殺は完遂されてしまった。

俺のせいで、俺のせいで!!


カチャンと、次の部屋に入るための鉄扉の鍵が解除される。

もう、限界だった。一度は曽根に励まされたものの、何の恩返しもできないまま俺が自殺を助長してしまった。

俺が殺したようなものだ......!


脳裏に丸焦げになった曽根の姿がこびりついて離れない。吐き気を催すがそれを何とか堪えて腹に戻す。辛くて、苦しくて、自分を憎んで、また涙が溢れる。

この二日間で、俺の精神はすっかり折れてしまった。ズタズタになった心はもう修復は不可能なのかもしれない。

次の部屋でも島民が待っている。もうこの仕事を辞めたい。だが、五日間の間で途中放棄はできない事実が俺を強制的に次の部屋へと向かわせる。

今度こそ止めれると思っていたのにーー。


曽根の言葉を思い出す。


『また明日からも頑張ろうな』


曽根、そして春香の分を俺は背負って頑張らないといけない。諦めてしまえば二人の想いは一生この施設で彷徨うことになる。

やはり、俺はやらなければならない。


次の部屋の扉を鋭く睨み、決心する。


「二人の想い、必ず守ってやる」



暗崎 幽夜の監視員業務終了まで、あと三日。

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