第158話 拘束場
【HELP】
オルターを使わずに規定の戦闘回数を終了しました。以降はプレイヤーアキラの
おめでとうございます。
(うっ……? 久々のヘルプ……ぅ、なんだ? 痛ぅ、首がいてぇ……あぁそうか、気絶したんだったな、ちょっと煽りすぎたか? 最後首がなんか絞まった感じした気が――あれ……口と手足が縛られてる? 目も見えてない?)
気絶から醒めたアキラは喋ることはおろか、身動きさえ取れない状態だと気づいた。
「目が覚めたようだな」
(さっきの言葉が通じない
緑の制服を纏った執行者である
「お前が生きててくれて嬉しいよ」
「ん、んーっ!」
(喋れない……猿轡か? なんか布みたいなのを噛まされててまともに声も出ない)
「罪都に居る執行者をなめた罪、この拘束場でじっくりと教えてやる。後悔と共にな!」
(腕は後ろに回されて……腕同士で拘束してるのか? なんか動かないし)
「聞いているのかっ!」
「んぐっ……」
頬に感じる衝撃でアキラは何か棒のような物で殴られたと感じ取ることは出来た。だが、その感じ取った衝撃以上の衝撃をアキラは受けている。
(え? 動きが……わかる?)
物理的に視界が塞がれているが、手に取るように動きが
(こ、これが魂魄で言う形の部分……
「きょろきょろしてどうした? 何も見えなくて寂しいのか? 怖いのか?」
今は自分の状況を把握することを優先し、見当違いの推測は聞き流す。
(足もイスの足に紐みたいなので括り付けられてる)
身動きが取れない理由と現在の状況を理解したアキラは、がなり立てる緑子に顔を向けた。
「おっとそうだったな?
「……」
緑子が手に何か物体を当てている音がする。この状況ならそれが自信になっているのはアキラじゃなくてもわかっただろう。
「これは仕置き棒と言ってな、ダメージは出ないが精神を蝕む効果がある。一発殴られただけで声も出せないか!」
どうせ声も出ないならそのままやり過ごした方が
そして仮面越しに目隠しなんて間抜けだなぁと考えていたアキラに、緑子は遂に痺れを切らした。
「……ちっ、お前のようなクズがっ!」
「……」
「何断りも無しにっ!」
「……」
「俺達に張り合ってんだっ!」
「っ!」
最後は腹部に蹴りをもらってイスごと倒れてしまう。
(対して痛くもないのにうざったい……精神に攻撃って言われても、うざい以外特に感じないな。でもこのうざさが精神攻撃なら確かに成功してる……ってか逃げたくなる)
それはしないと決めているためやらないが、その分ストレスが溜まるせいで手を握り締めたり、緩ませたりを繰り返す。
「ふぅお前の相手も疲れるぜ、それにどうせお前は死ぬんだ、お前みたいな奴でも何か言いたいことがあるなら言わせてやるよ。出来れば泣き言でも聞かせてくれよ」
そう言って無造作に口に押し込まれていた布ごと猿轡が乱暴に外される。
「……」
「どうした? ビビって声も出ないか?」
(こんな頭空っぽの奴に何言っても無駄だ。どうすればいい? 拘束場って言う状況は打破しなくてもいいけど……いや確かに何か変化が欲しいとは思ったけど、こんなんじゃなくてもいいじゃん)
ここまで話が通じなかった相手が一方的に捲し立て、尚且つ的外れの論理で納得している。その世界に従わざるを得ないこの状況がなんとも苛立たしいため、アキラは別のことに思考を傾けた。
「……」
「っち」
(舌打ちをしたいのはこっちの方なんだけど?)
何も言わないアキラに痺れを切らしたのか、再び殴ろうとした時だった。
「様子はどうだ?」
ガチャリと扉の開くような音と共に、聞き覚えのある声が聞こえる。
「はっ! 万事問題ありません!」
「そうか」
「はっ!」
(こいつの声……赤犬? だったか)
上級執行者、赤い制服に上役から指示をもらって動いたり、番犬のように牢をうろうろとしている。色々な意味で犬と呼ばれ、制服の色で通称赤犬と呼ばれ始めた。区別として名前で呼ばれる人物はこの蔑称を使われない。
当然呼ばれない理由は相応にあるが、ここに来て日の浅いアキラからしたら誰だろうが関係ない。
「仕置き棒で殴ったのだろう? どうだった」
「ビビって声も出ない様子です」
「……どうして倒しているんだ?」
「それは、その……」
(これは、チャンスか? 何に繋がるかわかんないけど、取り敢えずこの
今色々と制限されている中で出来ることと言えば、今自由になった口だけだ。話が通じない両者だが、それならそれで色々と試してみようと考えた。
「コイツが苛ついて俺を蹴っ飛ばしただけだよ」
「お前を蹴っ飛ばしたからと言って、なんだと言うんだ?」
(うっわ……相変わらず言葉が通じないっていうか……なんだも何も、いつ俺が蹴っ飛ばしたことに対して何か言ったよ? 変わりに説明しただけだろって)
「文句言ってんじゃねぇぞ!」
(いや言いたいことはわかるけどさ、別に捕まってるこの状況や殴られたことに不満を漏らしたりしてないだろ? でも緑子の方は無視だ)
「なんとか言ったらどうなんだ!?」
仕置き棒で寝ているアキラの顔を仮面越しだが打つ。
「君は立場を理解していないな、3036番」
(皮肉で返してもしょうがないか、こいつらとそんな会話してもバットでキャッチボールしてるようなもんだからな)
アキラは赤犬にのみ顔を向け、言葉を返す。
「立場って?」
「拘束場に居る立場だよ」
「……初めて来たからな、ここの意味も立場も知らないって」
言いたいことを我慢して省略し、いつもとは控えめにして返す。
「ここを出た死刑囚の大半は死刑にされる」
「殺されるのか?」
「あぁすまない。勘違いさせたようだな、そんなに怖がるな」
「……あぁ」
正確には今すぐここから出ようと力を入れただけなのだが、その力みのせいでビクついたように捉えられた。
「ハッ情けない」
「……で、俺は何を勘違いしたんだ?」
「この拘束場で反省すれば、それはもう人が変わったかのように憔悴する」
「憔悴?」
「そしてその疲れ切った身体でコロシアムに行って、帰ってこられるか?」
「そういうことか」
「そうだ、蛮人にしては理解が早いな」
アキラは皮肉さえ言わなければ結構会話が通じると感心しつつ、疲れた身体じゃ生き残れる確率が絶望的なことも理解した。
「でも何もされないのにどうして憔悴するんだ?」
「ん? 仕置き棒で叩かれただろう?」
「……何か当たりはしたけど、蹴られた以外特には」
「どういうことだ?」
「ハッ! 私は確かにこの仕置き棒で今のように矯正しました!」
「お前は、これで叩かれて何も感じなかったのか?」
「まぁ特には……でもなんか……あれだ、必死に何かをしてるのは感じはしたな」
かなり叩かれたし、神経を逆撫でされたが何も無かったかのようにとぼける。そしてその瞬間、倒れていたアキラは無理矢理イスごと起こされた。
「コイツ!」
バシッと乾いた音が響く。
「この野郎! 反省、しろっ!」
二度三度と繰り返しアキラの頬を強く打つ。ダメージは無いし、やはり精神的にはうざったいと思うだけだった。
「……」
「何か感じたか?」
「……え?」
「ん?」
「今何かしてたのか?」
この言葉に緑子も赤犬も沈黙する。
「あ、もし何かしてたらごめん……本当に――」
「きっさまぁああああ!」
ぶち切れたのは緑子だった。脳天から始まり体中乱打の嵐、仕置き棒に留まらず殴ったり蹴ったりは当たり前、仮面を付けた顔は逃れても体中には軽く痛みを感じる。
「落ち着け、執行者殿」
「し、失礼しました。取り乱してしまい……」
「ぷっ……」
その時、アキラが堪えていたのが我慢出来なかったかのような演技をする。
「お、お前、ここ、殺してやろうか?」
「……」
私は何もしてません、聞いていませんとでも言うようにアキラはじっとしている。相変わらず沈黙は貫いた。
「お前は痛みを感じないのか?」
「……何もされていないんだから、痛みも何もないと思うが……あっもしかして今何かしてたら――」
言い切る前にアキラは再びイスごと蹴り倒される。仮面越しに何度も足で踏みつけられ、それが何度も続く。
「貴様! 何度も、何度も! 馬鹿にしやがって!」
「お、おい」
「やらせてくださいっ! コイツだけは許せないんです!」
「死んでしまっては……」
「死んでしまえばいい! このっこのっこのっ! 私が元貴族だからと馬鹿にしてるのか!? お前は囚人なんだぞ!? 死ね死ね死ねー!!!」
(子供が大人の暴力を身に着けたような奴だな)
アキラの顔面は死転の面によりそもそもダメージを受けていない。そして後頭部は死転の面がなぜか守ってくれている。そんな情報は当然知らないため、苦しめていると勘違いしていた。
そもそもノートリアスモンスタークラスで漸く壊れそうになる装備が、アキラにちょっと痛い程度のダメージしか与えられない程度の執行者がどうにか出来る物ではなかった。
だが、それはそれとしてその状況を利用しないのは勿体ないなと考えたアキラは、なんとなく首をダランとさせぐったりした感じを演じる。
「……」
「は、反省っ、したか! はぁ、はぁ」
「……」
「はん、声も出ないか」
「ん? ……おい、おい!? どうした? 返事をしろ!」
「……」
一方赤犬はそれどころではなく慌てる。肩を揺さぶって生きていてくれと願いつつ、先程上役の金のバッジを付けた上級執行者から殺さないなら何をしてもいいと言われたことを思い出していた。逆に言ってしまえば、それは決して殺してはならないという意味でもあるからだ。
「……」
「息はある……気絶しただけか」
「気にしすぎですよ、コイツは首輪の罰をあんなに受けても生きてたんですから」
そんな心情を露とも知らず、スッキリした顔をしている部下に怒鳴りたい気持ちを抑える。
「……そうだな、少し外へ出る。連絡事項があるから
「わかりました!」
相変わらずの暢気な返事に不安を覚えたが、それを表に出さないよう努める。緑子はストレスを解消出来て気分が良いのか、元気よく返事をすると仕置き棒を麻袋の中に戻してついていく。そして気づかなかった。上級執行者である彼が、役職で自分のことを呼ばなくなっていたのを。
そんなやり取りを意識の無いフリをして聞いていたアキラは、誰も居なくなって倒れたままの状態から辺りを見回す。
(この赤犬は話が通じないと思ってたが、皮肉が通じない堅物なだけか? 会話が成り立ってなかったのも俺みたいなタイプに慣れていないからか……確信は無いけど喋り方からしてお坊ちゃんのまま成長して、言われるがままに過ごしてきたって感じだからな……完全な妄想だけどそう思っておこう、なんかしっくりくるし。後、緑子は本当にやばい奴ってのはわかった)
自信の知らない情報を相手は知っていると思い込む。それだけで何をされるのか気が気じゃない。だからアキラは何かないか探すため、地面を使って目隠しを取ろうと動き始めた。例え目隠し状態で
(よし、少しだけどズレた。結構薄暗いな、何かないか……ん?)
そこでギリギリ起き上がれる範囲で首を起こして狭い視界から周囲を見回していると、アキラの視界には自身に巻かれているのと同様の紐と麻袋に入った仕置き棒が目に入る。
(あれがあれば――でもそんなことしても……あ、いや待てよ? 出来たとしたら? 俺には
アキラは何かを考えつき、自身の首にある物に対して意識を向けた。そして少しして穴だらけだが形を持った現実味を帯びたプランが出来上がった。
「いけるかも」
ぼそっと呟いたつもりだったが、それなりに響いてしまったが誰も来ないので気を取りなす。
(んーなんとなく上手くいったとして、だ。問題はどうやってその状況まで持っていくか、そんで計画通りいったとしてその後何をするかだよな……あ、やべ)
そして考え事は扉が開くことで中断される。アキラはすぐに目隠しを急いで元の位置にズラし、同じ姿勢に戻った。
「おい、起きろ」
「……」
「そっち持ってくれ」
「は、はい」
「よし、起こすぞ」
若干大人しくなった緑子だが、それは置いておく。この二人がいつまでも居るかはわからないため、すぐにでも行動を起こしたいアキラだが情報収集を優先する。
「うぅ……」
「目が覚めたか?」
「あ、ああ……うっ……こ、こいつを早くどっかやってくれ!」
「無理だ、我々二人でお前の担当をする」
「そんな! 四六時中こんなのと一緒だなんて勘弁してくれ!」
「静かにしないか!」
(確かにそうか、ならこいつら二人一緒に居るチャンスはそうそう無いのか? だったら……
「い、嫌だ! 嫌だ嫌だ嫌だ!! こんな奴と一緒だなんて勘弁してくれ! さ、最初はあんたにしてくれよ!? 頼むから!」
その懇願に赤犬は少し驚くが、正反対に話の通じない方が間に入る。
「誰がお前みたいな囚人の言うことなんて聞くか! 上級執行者殿! 最初は私が担当致します!」
「しかしだな?」
「大丈夫です! 先程は取り乱しましたが、加減は心得ています!」
「……わかった。そこまで言うのなら任せよう、頼んだぞ」
「はっ!」
このやり取りを見てアキラは少し焦った。別の意味で。
(いやいやいや、俺のことおかしいとは思わないのか? さっきもこの前でも牢屋で煽りまくって、更には気絶させられた相手なんだぞ? 少し気弱に振る舞っただけで演技とも思わないなんて、警戒心を一番持たないといけない奴らが、なんでそこだけ抜けてんだよ!)
行き当たりばったりで適当に演技し続けたせいで、自分でも情緒不安定なキャラを作ったことに若干心配していたアキラだったが、相手は自分の斜め上の価値観を持っていた。逆にこっちが謀られているのでは? と疑心暗鬼になりそうな程だ。
(逆にこっちが騙されてないよな? 本当に大丈夫だよな? まぁ、どっちにしろ演じ続けるしかないんだけどさ……)
「少し様子を見たら行く」
「では、早速――」
「そんな!」
気落ちした風に項垂れたが、勿論見た目とは裏腹に気分は上々だ。若干の不安要素もあるが。
(取り敢えずは忘れよう、こいつらはこういうもんだと受け入れるしかない。監視もどっちが先だろうがどっちでもよかったんだけど……まさかここまで理想的にことが運ぶとは思わなかった。んじゃ次だ、赤い方が居る間に――)
息を吸い、これからすることに覚悟を決める。上手くいくかはわからないが、やってみる……というよりやってみたいという思いが強い。
「こっちにくるな! ふっざけんな!!」
「黙れっ!」
「ぅぐっ!」
緑子の拳がアキラの腹にめり込む。
「こっちだってこんなことはしたくないんだ」
「に、にやにやした顔で何言ってんだ。き、キモぅぐっ――」
「黙れと言ったろうがっ!」
「ぺっ!」
黙りつつ、抵抗し、尚且つ真の目的を達成するためにアキラは唾を緑子に向けて飛ばした。
「この野郎っ!」
「っ……!」
その態度に激昂して三度腹部を殴る。
(全然痛くないけど、それっぽい感じは出さないとな)
後ろ手に縛られているため、痛む身体を丸めたくても丸められない。そんな雰囲気を演出する。
「二度と舐めた真似をするんじゃない!」
「……ハン」
鼻を鳴らして笑うアキラは目的に合わせて少しづつ
「いい根性してるじゃ――」
「ぺっ!」
「コイツ!」
「おい、あまり――」
「わ、わかってます!」
そう言って振り返った緑子は、仕置き棒を乱暴に掴み取り引き寄せる。すると引っかかっていた麻袋ごと地面に落ちた。
「チッ」
舌打ちをしつつ麻袋を見送るとすぐにアキラの方へと振り返る。赤犬はやれやれと心の中で思いつつもう少し眺めることにした。
「おら! どうだ!」
仕置き棒で殴られるアキラだが、やはり殴られたという行為に少しイラッとする程度で何も感じない。
「はいはい痛い痛い! ってか殴られるよりそっちの方がマシだね!」
「っ~! その減らず口を聞けなくしてやろうか!?」
「ぺっ! うっせぇよ!」
「唾を吐くのを止めろ!」
バシッ! と叩くが、アキラは反抗的な態度を改めない。
「頭空っぽは黙ってろ!」
「そっちがそのつもりなら、こちらにも考えがあるぞ!」
そう言うとアキラからは見えないが、先程外した口布を口に押し当てる。
「ん? なんがっ! うぇ、なんだこれ、砂? ……もしかして…………おい! 止めろ! きったねぇ!」
「うるさい! 大人しくしろ!」
アキラは先程口から取り外され、地面に落ちていた布を突っ込まれていた。衛生観念的に一番嫌なことをされ、演技ではなく本気で嫌がる。
「上級執行者殿! 手伝ってください!」
「……わかった」
「ちょ! 止めろ! それはマジで洒落にならない!」
ここ一番ダメージを受けていると確信した緑子は、全身全霊で押さえ込む。赤犬がアキラの頭を固定して、緑子は一度外して落としていた布を無理矢理噛まされる。だが固定される前にアキラは緑子に向かって吐き出す。
「うぇ! ぺっぺっ!」
「お前! 汚いだろ!」
「お前のせいだろ! ふざけんな!」
口を開けば人の神経を逆撫でするし、唾も飛ばしてくる。物を入れてもすぐ吐き出すし、暴れているため猿轡で縛る暇も無い。どうしてこんな下品な蛮人は高貴で気品溢れる自分の言うことを聞かないのか? 彼にはそれが理解出来ず、最早この口を塞ぐことだけが頭の中を支配する。
(どうにかしてこいつの口を塞げないのか!? 殺してはいけないと仰っていたのがもどかしいっ!)
縛られ、身動きの取れない圧倒的弱者である、この仮面を付けた奇妙な死刑囚をどうにかしたいが、どうにも出来ないストレスで更に言動を荒げる。
「大人しくしろと言っているのが! わからないかっ!! こいつっ!」
「おい! それはやりす――」
「んがっ!?」
大声で怒鳴り、首を絞める。だがアキラに近づき過ぎたせいで緑子は頭突きを食らってしまう。
尻餅を着いた。そしてある物に触れる。
「コイツ――ん?」
座ったまま拳を握り締めた時掴んだのは、仕置き棒を取り出した時に落ちた麻袋だった。そしてアキラを見て緑子が高貴に溢れたにやけ顔を披露する。
「上級執行者殿!」
「な、なんだ?」
アキラが暴れるのを抑えながら返す。
「そいつの目隠しを取ってください」
「なぜ、だ? っとと」
「私に考えがあります!」
「わわかった!」
もう抑えてられないと、たまらず離して目隠しを乱暴に取っ払う。
「おい囚人! それ以上大人しくしないならこちらも優しくは出来ないぞ」
「最初から優しくなんてしてないだろ!」
「おぉ吠えるな吠えるな、コイツを見ろ」
「……! それがどうかしたか?」
「想像力の無いガキが、もう一度聞く大人しく出来ないのか?」
「お前なんかと一緒で大人しく出来るか!」
「後悔するなよ!」
瞬間、
『おい! なんだこれ! 止めろ! 取れ!』
「ははは、声が篭もって何言ってるか聞こえないなぁ?」
「なるほどな」
『取れ~!』
「まだ元気がいいようだ、仕方がない。すみませんすぐ戻りますんで少し出ます」
「……わかった」
そう言って緑子は外を出る。何をするのかがわからないため、赤犬も大人しく待つ。
そして本当に緑子がすぐ戻ってきて、持ってきた物を見せてもらう。
「……これは、水か?」
「はい」
持ってきたのは瓶に水を入れただけの物だった。
『お、おい……この状態で水なんて何するつもりだ!』
アキラには映画で見たことのある拷問シーンが想起される。
「こうするの、さっ!」
だが想像と違って水を頭から被せられただけだった。
『~~! ~! ……っ!』
「これで静かになりましたな!」
「なるほど、こんな手法をどこで?」
「はい、父上の言ったことをこの麻袋を掴んで思い出したのです。麻袋と水があれば最高に相性のいい手軽な拷問道具に使えると」
「窒息しないか?」
「このまま何もしなければ苦しいだけで済みます。終わりまではこれを繰り返しましょう。これで頭を抱えずに済みますよ! はっはっは」
そして仕置き棒を緑子は振るった。
『~~! ~~~!』
「ん?」
先程と違って明らかに反応が違った。のたうち回りたい、だけど縛られて何も出来ない。彼にはそんな風に見えた。
「上級執行者殿、麻袋をしていれば仕置き棒が効くのでは?」
「た、確かに反応が段違いだ……仮面を隠したからか? いや……だがどうしてだ?」
「これは時間まで麻袋を被せたままにしましょう」
「いや、だが確認しなければ……」
「それでまた暴れたらことですよ? こいつは頭がおかしい蛮人です。ならばしっかりと時間まで教育しなければ!」
「む……」
そしてしばらくして、赤犬も同意の声を上げる。徹底定期に弱らせて死刑執行までこぎ着けなければならない。回復されでもしたら何をされるかわかった物じゃないと考えた結果だ。
「後は任せた」
「はっ!」
これなら彼が癇癪を起こすことも無いだろうと思い、安心して赤犬は後を任せた。取り残されたのは未だにやけ顔を晒したままの緑子、そして――
『~! っ!! ……』
「ふんっ疲れたか、かなり呼吸も制限されているから当然だな」
散々いたぶった結果、ぐったりとしたアキラが残っていた。
勝者と敗者にも見えるその構図だが、不思議なことに麻袋で覆われた筈のアキラの目はとても敗者には似つかわしくない、むしろ余裕すら窺える。
(……上手くことが運びすぎて怖くなるな、水は想定外だけど)
水のせいで思った以上に呼吸がし辛いのか、窺えていた余裕は一瞬ですぐにどこかへいってしまう。余裕をかましていても締まらないなと気落ちするアキラだった。
(そろそろいいよな? ここまでサービスしてやったんだ、たっぷりと今までのツケを払わせてやる。どんな結果になっても恨むなよ)
そしてアキラは、静かな怒りを開放するため行動を開始する。
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