第131話 己の定める歩く道


『ア゙ララ゙~ラ゙ララッラ゙ッラ……アア゙ー』


 何かのリズムを刻むこの不協和音が以前は聞く人々を魅了し、その音源まで生命を誘う蠱惑な曲だったと誰が気づけただろうか。今では近づくことさえ憚る不快な音でしか無い。


「な、なんだこの音……気分が」

「ちょっと大丈夫!?」

「なんか俺も――」

「……」

「皆!」


 だがたまたま近くまで来た者がその不協和音を回避することは出来ない。4人の内一番平気そうにしていた女性が残りの男性3人に声を掛ける。だが気がつけば視界はぐらつき、両膝を着いてしまう。4人の男女は迫り来る邪花の眷属・変異種から逃げることに成功していたが安全地帯へと逃げることが出来ず、満身創痍だった。そして頭を抱えながらボロボロの両手をこめかみに当て唸る。


(皆この音でやられたっていうの?)


 1人だけ問題なく立つ女性は恐怖からくる震えを抑えようとするが、すぐにそんなことは気にならなくなる。それは突如埃のような塊が静かに降ってきたため状況が一変したからだ。


「ど、どうすれば……え? 黒い――雪? …………あ゙!? あ、頭が割れそう……い、いや! 折角……生き…の……び……のに……だれ、か……………………」


 現実は無情で彼女達を助ける存在はどこにも居ない。そもそも逃げ延びた先がブラックアビスが存在する近辺、誰も近づかず安全に狩りをしている現状それも仕方が無かった。そして邪花の眷属に起こっている変異のせいで更に生き残れる可能性は狭まっている。そして静かに彼らの身体は魔物と同じように光の粒子に変わり、天へと昇っていった。この世界に生きる者全てに起こる死の現象、近づくだけで死神の鎌に自ら首を差し出したことにすら気づかずプレイヤー4人の遺体は残ることも無く消えていく。後に残ったのは彼女が死の間際雪と言った黒い塊だけだった。


『ラ゙~ア゙?』


 突如歌が止む。乗ってきた所で降り始めていた黒い塊も消える。自分の歌を聞いていた観客数十人・・・が消滅したため、死のリサイタルを終わらせざるを得なくなる。観客の居なくなったステージに演者は必要なく、それを証明するようにゆっくりと上空へその花弁は浮き上がらせてその場を後にした。


『~♪』


 本来ならある一定のエリアから動くはずの無いボスが、その枷となるボスの輪から外れ弱体化するどころかより強力な存在となって新たな眷属と新たな観客を求め、より濃密な死の香りを物理的に撒き散らしながら動く。






「こんなもんじゃねぇか?」


 そう言って乱暴な言葉遣いのフイルが最後の矢を放つ。言葉遣いとその矢の軌道は反比例し、なんの澱みも無く対象を地に縫い付けた。


「ふんぬ!」

「きゃっ」


 夢衣が自身のオルターを持ちながら小さく悲鳴を上げる。その原因はドワーフのカーンが大槌で邪花の眷属・変異種を叩き潰した衝撃が離れていても届いたのと、それに叩き潰される敵を見ていられなかったためだ。


「大丈夫、終わり」

「う、うん!」


 小さなドワーフの女性であるソラスに慰められ夢衣は、小さい彼女に心配掛けまいと握り拳を作って気合いを入れる。


「もう戦いは終わったのに今気合い入れてどうするのよ?」

「へ? ぁ……」

「って言っても気を抜くのも駄目よ?」

「えぇ! じゃぁあたしはどうすればいいのさ華ちゃん!」

「普通にしてればいいんじゃない?」

「ふ、普通?」


 夢衣は再びオルターを構えるが、次第に生まれたての子鹿のように震え始める。


「わ、私が悪かったわ……警戒はしておくから気を抜いてて良いわよ」

「う? うん……」


 そのほんわかしたやり取りとは別に少し離れた所に居る翠火とリョウは肩で息をする程度には疲労していた。


「ふぅ――これ程長く戦ったのは、初めてですね」


 大きく息を吐き出しながら額に浮かぶ汗を拭う。


「はぁ~……だね、イドとは言っても身体に掛かる負担も尋常じゃ無いから」

『お二人ともエゴには出来てもその前段階で疲れているようでは定着までまだまだ掛かりそうですね』

「トリトス……」


 最後まで最前線で戦っていたトリトスはその身を汚すこと無く綺麗なままのロングスカートを揺らし、規則正しく綺麗な歩行で翠火達の元へと戻ってきた。


「ジェノサイダー相手にあんだけ苦戦しててなんで無傷なんだよ」

『格上相手は厳しいですが、戦線を持たせるだけなら牽制以外に攻める必要が無く回避に専念した結果――』

「はいはいわかったわかった。聞いたオレが間違ってたよ、要は格下相手なら理想的な戦闘が出来るんだろ? ただツッコミたかっただけだよ」

『そうですか、ただいくら理想通り動けても無傷というわけではありません。シールドを32%程損耗しています』

「割れてなきゃすぐ回復するんだ」

『はい』


 気にすることでも無いと口には出さず、どうでもよさそうに肩を簡単に竦める。


『それと私が殆ど無傷でいられたのも敵を引きつけてくれた彼のお陰です。シールドの損耗も彼が来てから無視出来るレベルに抑えられました』

「なるほど」

「嬢ちゃん達~! おつかれさーん!」


 邪花の眷属・変異種の追撃は既に無くなているため間を見てフイルが大きく声を掛けてきた。


「……お疲れ様です」

「ども」


 近づいてくるフイルに若干警戒気味に返す翠火と反対にリョウは簡単に答え、トリトスは目礼程度に留める。


「大丈夫、私達敵じゃない」


 近くに居たソラスの幼い見た目からか、2人は簡単に心を許しているため表面上は警戒を解く。


「いやぁ結構進んじまったなぁ」

「オレ達はもう少し奥を狩り場にしてたんだけどね」

「そうなんか、でも雰囲気からしてもやばくね? 奥にボス居るっしょ」


 元から2人の警戒を気にしていないフイルが弓を肩に掛けて世間話のように喋りながら近づく。


「レベル上げに丁度よかったんでそれ以上奥には進んでいませんが、漂う空気は異質な感じでしたね」

「だよなぁ、あんたらは……ってか気を悪くさせたらすまんけどあんた達2人・・は他の奴らみたいにお気楽気分じゃねぇからな」

「残念、情報が得られない」

「……」


 なんと返せばいいか困る翠火とリョウは互いに顔を見合わせて困ったように笑う。


「まぁ共闘はここまでで、俺ら先に進むけどそっちはどするよ?」

「そうですね……一旦安全地帯まで退避しようかと、そろそろ休憩したいですし」

「そかそか、なら戻るときの罠の対処はこのちっこいのに聞いてくれ」


 ソラスの頭をぽんぽんと優しく叩くとフイルは武器や防具の手入れをしているスパッタとカーンの元へと向かう。それを見届けるとソラスはフイルの態度について気にした風も無く口を開く。


「罠はゆっくり歩き続けるだけで大丈夫」

「罠ってあの泥沼の? 最初に通ったときは足を引っかける程度の蔓だったような……」

「ん、場所は合ってる。罠が変異・・してるのも仕方ない」

「変異ってどういうこと?」

「…………変異種が何か知ってる?」


 ソラスは質問に答えるために前提知識の確認をする。トリトスから概ね聞いていたため翠火もリョウも大体はと頷く頃に華と夢衣もそれに合流した。


「特定敵対種――私はこの呼び方嫌いだからノーリアスって呼ぶ。ノートリアスにクラスは存在しない。だからクラスが上がることもないの」


 周囲に疑問符が無いのを確認してからソラスは続ける。


「でもクラスは上がらなくても強さは変わる。ノートリアスの中でもごく稀に突然変異する種がそれ。でも突然変異って滅多に起こる物じゃない。なぜなら周囲の環境が急激に変わるから、故に一種の天災とも言われてる」

「え、ちょっと待ってくれ……じゃぁ罠の変異って」


 リョウの考えを肯定するようにソラスは頷く。


「でもそれだけじゃない」

「え?」

「大討伐なんてテラ様がノートリアス専用に用意したエリアみたいな物」

「もしかして……」

「このエリアその物の環境が変わる。何も罠だけが特別じゃない」


 その考えを聞いた時、夢衣の脳裏にある場所が過ぎる。


「じゃ、じゃぁ安全地帯も――」

「それは大丈夫、見た目や販売機の商品は変わるけど良い物になってる」

「よかったぁ」

「難易度を上げた分それに相応しい物が用意されてるって考えるとそれ程おかしくもない」

「何安心してるのよ、はぁ……にしても安全地帯って一体」


 道中の難易度が上がっていると聞かされているのにも関わらずマイペースな夢衣、そして安全地帯の利便性に感謝しつつも複雑な思いを抱く華だった。


「話を戻す。ここから安全地帯へ向かう道にある罠は――」




『ラ゙ララァ~♪』




 ソラスが説明しようとした時、それは聞こえてきた。


『ラ゙ーア゙ーラ~ア゙ララ゙~♪』


 聞けば魅了されるほどの歌声とは正反対の嫌悪感。


『ラア゙ラ~♪』


 間違っても人が聞いてはいけない破滅の声。


『ラァ゙ッ! ラァ゙ッ! ラァ゙ッ!』


 終末を予感させる絶望の旋律。


『アラァ゙ッラ゙ー!』


 聞くだけで身の毛がよだつ恐怖の奔流。




「なん、ですか……あれ」


 誰もが上空を見上げる。夕焼けに覆われた紅の空、見れば心奪われる筈の景色を誰もが見上るが、誰一人としてその空を視界に入れども見てはいない。


「嫌……嫌! 何この音!?」


 誰が言ったのか? それすらも理解出来ない。宙に浮かぶ腐色とも捉えられる暗く毒々しい一点の紫の花弁、それが静かに回りながら降りてくる。そして同時に歌声も大きくなる。


「お、い……マジか?」


 フイルが呟くと同時にここに居る7人、翠火、リョウ、トリトス、フイル、スパッタ、カーン、ソラスがそれぞれの得物を取り出す。先程戦っていなかったソラスもその手には鋼鉄の塊に取っ手が付いた物を片手に握り込んでいた。


「いやだ! いやだいやだ!」

「だ、だめだよぉ……この感じまたあいつ・・・・・が――」


 その中で華と夢衣は最初の比ではない恐慌状態に陥っていた。


『リョウ! 急いで華さんを遠くに投げてください!』

「っ!」


 トリトスがこれ程鬼気迫った叫ぶような指示したのをリョウは聞いたことがない。そのお陰か、真横に居た華の襟首を掴んで罠と安全地帯がある方角へと投げ飛ばす。指示したトリトスも夢衣の尻に足を当て、怪我をさせないよう強く押すように蹴る。


「ひっ!」

「きゃっ!」


 それぞれ小さく悲鳴を上げるが、何が起こっているのか理解していない。恐慌状態だけでなく、何かトラウマのような物が刺激されているようだ。


『どうしたトリトス!』

『このノートリアスモンスターは危険です!』

『こ、こいつがノートリアスモンスター!?』

『はい! 今聞こえている歌声をソウルが未熟な者がまともに聞けばそれだけで絶命します! この中では華さんと夢衣さんが危険です!』

「はぁ!?」


 聞いてしまえばそれだけで死ぬ。あまりにも突然なことに思念での会話を止めて声に出してしまった。他の全員はリョウとトリトスの突飛な行動に呆然としているため声は虚しく通り過ぎる。我に戻った翠火が即座に問い詰めた。


「一体何を――」

「今聞こえてる歌を華さんと夢衣さんがまともに聞くと死ぬ可能性があるらしい!」

「!?」


 瞬間その場に居る7人に動揺が奔る。しかしそんなことはお構いなくリョウに続いてトリトスが必要なことのみ発した。


『対象ブラックアビス・変異種! この歌は一定範囲内に居るソウルの未熟な者の生命を奪います! また命を奪わなくとも聞く者のアニマに影響が出ますので至急イドに! 動ける者はなるべく距離をとってください!』


 トリトスの真剣な声音に華と夢衣を乱暴に遠くへと押しやった意味を理解した翠火はその助言に従いイドを使う。幸いにして歌声のせいで苦しそうな表情を浮かべるフイルのパーティだがそれ以外は特に問題もなく、握った得物を握り直して戦闘態勢をとる。


「トリトスさん、彼らは平気なのですか?」

『問題ありません。彼らは並のメンバーではないのでしょう、死ぬことはありません。翠火さんは御自分の――』


 トリトスが自分の身を案じるように告げようとした時、歌とは別に気味の悪い嫌な予感が肌を通して伝わってきた。


『ラ゙~! ラ゙~! ラ゙ァアアアア!』


「ぐっ! み、耳が……」

「頭、が割れそうだ!」


 ブラックアビス・変異種が自身のリサイタルを聞き続けてくれることに歓喜し、その大きな花弁をゆさゆさと揺らす。だがその歓喜の歌声は害悪でしかない。


「こぉんのクソ花がぁ!」


 誰もが顔を歪める中、フイルが一瞬で番えた矢を放つ。


『ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ッ!』


 所詮は花であるためか、思った以上にあっさりと矢は刺さるがそのせいで聞こえてきた絶叫にまたダメージを受ける。傷口からは黄色い樹液のような物が溢れ出し、瞬間フイルに照準を合わせるようにその花弁が向いた。そして即紫の花びらからは金属が飛び出す。フイルはその時己の迂闊な攻撃が招いたカウンターだとその身に針を浴びて理解した。


「フイル!」

「ぁが……」

『ラァア゙ア゙ア゙ララ゙~♪』


 スパッタの叫び声虚しく全身に針を浴びたフイルは倒れ込む。ブラックアビスがリサイタルの邪魔をしてきたことに怒ったせいか、花弁から飛び出る針から金属の反射が見えた。

「ぬぅおっ!」


 だがそうはさせるかとカーンが叫んで大槌を盾に飛んできた針を防ぐ。


「フイル! 平気かぁっ!」

「す、すま、ねぇ……身体、が動かな……い」

『ダメージ自体は大したことがないようです。針が刺さっている本数分麻痺の影響が出るようです』

「威力が無いってのになんてイヤらしい攻撃だよ!」

「フイルをこっちに! 治療する!」


 ソラスの大声を聞いてカーンはフイルを投げた。ソラスは小さいが当たり前のように片手でフイルを受け止め、治療に取り掛かった。


 未だ花の中央から響いてくる声に体力を消耗していく中、ブラックアビスの花弁が逆さまになっていく。茎もなく、花柄も無いただの花弁のみの存在、だがその中央から何かが出てくる。


「ひ、人?」


 花弁の紫からは似つかない純白の塊が人の形を模して現れた。頭から肩、肩から胴体と順に現れていく。上半身全てが出きった所でそれは終わっているが、目は開いているのに瞳は白い壁のように何も写さない。髪もなければ口もなく白いまつげに形だけの瞳が不気味さを増している。


『ララ゙……ラー』


 声の具合を確かめるようにブラックアビスが不規則に不快な音を発するが、それと同時に下半身にあたるひっくり返った花弁が回り出した。スカートのようにも見えるその姿は作りかけの人形その物だ。


『いけない――即撤退を……あれは、今の私達の手に負える相手ではありません』


 トリトスが一も二もなく告げる。


『確かにやりづらい相手だけど、全員で力を合わせれば――』

『リョウ、残念ですが足手纏いなのです』

『え?』

『ただのブラックアビスなら問題ないでしょう。しかしあの変異種の強さはclass4と同程度です』

『それって……』

『エンペラーやジェノサイダーの1つ上、ファンタズマやジェネシスに相当します。そしてclass3と4では圧倒的に強さの質が異なります』

『で、でも地道にやればダメージぐらい』

『フイルさん達率いるパーティなら多少のダメージを与えられるでしょう。あのノートリアスモンスターの装甲はそれ程高くはありません。しかし“今の私達”では僅かなダメージしか与えられないのです』


 高速でリョウとトリトスは思念でやり取りする。そして彼女の言う足手纏いとは、ここに居る翠火やリョウを含めたプレイヤー側を指していた。そしてノートリアスモンスターの変異種と初めて対峙するリョウは根本的に勘違いしている。


『心してください。ジェノサイダーのように私が自爆をする問答は一切しません。私は確実に自爆せざるを得ないでしょう』

『何言ってんだ!?』

『わかっていないようなのではっきり言います。既に貴方達が何人死んで生き延びれるのか、又は全滅するかの選択なんです』

『……』


 リョウにはトリトスが言っていることが理解出来た。だが、受け入れられないため絶句してしまう。


『リョウ、ノートリアスモンスターはソウルをエゴに出来て初めて有効打を与えられます。エゴに出来るソウルがあればイドの状態でもダメージは与えられるでしょう。ですがそれは微々たる物、そして華さんと夢衣さんではダメージすら与えられません。それどころかさっき言ったように近づくだけで死んでしまいます』

『そん……な』

『もしエゴが定着状態であれば戦う道もありました。ですが、定着していない状態でエゴになれば当然時間制限が出てきます。もし時間制限が来てしまえばどうなりますか?』


 ジェノサイダー戦を参考にするならリョウは最悪気絶、翠火は立ち上がるのすらきつい程の疲労を負うのは目に見えていた。そしてその先にあるのは動けなくなったリョウと翠火の死である。


『未だ戦闘能力が未知数の敵相手に、まともなダメージを与える時間が限られた我々は確実に足手纏いです』

『でも、だからってこの人達を囮にして逃げるような真似出来るわけが――』




「逃げ……ろ」


 思念のやり取りの最中、それを聞いていたわけではないのだが絶妙なタイミングで声を掛けてきたのは痺れて動けなくなり、ソラスの治療中であるフイルだった。


「喋らない」

「こい、つは俺達、の手に負えな、い」

「なら!」

「だか、ら、時間は稼、ぐ。その間、に逃げ、ろ」


 かなり喋りづらそうなフイルの言葉は所々聞こえづらい部分がある物の、翠火とリョウはその意思をしっかりと確かめた。


「例えどんな理由があろうと、ここで貴方達を見捨てるわけにはいけません」

「翠火さん! あの魔物は――」


 翠火は手を出してリョウを制する。相手の厄介さを伝えようとするも、そんなことはどうでもいいと首を振る。


「勝てる勝てないではないんです。華さんと夢衣さんは自力で歩くことが困難な状態、そんな状態で罠のある道を通ることこそ自殺行為、ここでこの人達を見捨てるということは、華さんと夢衣さんも犠牲にして私達トリトスさんを含め3人で生き残る。そう言っているのと違いありません」

「それ、は」


 リョウにもそれは理解出来ていた。だがトリトスに状況を伝えられた時から逃げることしか考えず、華と夢衣は担いででも罠の中を突っ切るつもりだったのだ。そんな無茶なことしか考えられない程今のリョウはパニックになっている。


「私はもう取り残すのも取り残されるのも御免です。そんなことで生き残っても絶対に後で後悔します。そんな一生付きまとう後悔……そんな目を覆って歩く位ならあるかもしれない可能性に賭けます」


 当然彼女は死ぬつもりなど毛ほどもない。ただ親しい者を失う選択をする位ならどれ程か細い糸でも上ってやると覚悟しているだけなのだ。

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