第112話 ジェノサイダー戦


 デッドマンズツリーは腐蝕を武器にしてフィールドを徘徊し、通った跡は全てを腐らせる。攻勢に出ればその攻撃は腐を撒き散らす魔物だ。少しでも触れれば防具は劣化し、服に当たれば虫食いのように溶け、皮膚に触れればその箇所は壊死を起こす。しかしジェノサイダーと名が付いたクラスモンスターともなるとその効果は更に飛躍する。


 通った地面は腐り続け、触れる者全てを腐蝕させようとその活動を広げていき、数時間その影響は消えることが無い。攻撃に触れればその爪痕を残すように防具は一瞬で溶け、皮膚に触れればそこから腐蝕に蝕まれ、最悪先は腐り落ちてしまう。


 その影響は当然プレイヤーにも及んでしまう。






『ユニゾンの準備に入ります』

「わかった!」


 リョウは互いの思考で行われるやり取りに声を出して返す。だがデッドマンズツリー・ジェノサイダーと戦うリョウの右肘は紫に染まり黒い血が煙と共に嫌な音を立てて滴っていた。レゾナンスVを発動しているためダメージは共有されるはずだが、トリトスの右腕は全く異常は見られない。


 リョウは今にも千切れてしまいそうなその関節に構わず、トリトスの決定通りに従って右腕を大きく振り上げ弓を引くように五指から伸びる5本の糸を強く引く。トリトスも鏡合わせのようにリョウと逆の腕を振り上げ、タイムラグ無しに互いの口から言葉が発せられる。


『「双回旋――』」


 スキルを呟くと共に互いの間に伸びて緩んでいた糸が一瞬で張り詰められる。瞬間リョウとトリトスの身体から青いオーラのような淡い光が発せられた。これはパーティ同士でソウルアニマが共鳴するユニゾンという現象で、アキラがゴーレム・キングαとβに苦しめられた時と同一の物だ。


 ジェノサイダーの胴体を一週するその糸は滲み出る腐蝕の液体に触れるが、煙が昇るだけで千切れる様子は無い。


『「蹴弦刃!』」


 張り詰められた糸に引っ張られるようにリョウとトリトスは地を蹴り、ジェノサイダーへと急接近する。蹴った勢いを利用して横に回転し、ジェノサイダーの背部と思われる場所をユニゾンで強化されたリョウとトリトスの蹴りが突き刺さる。掴んでいる糸は衝撃を逃がさないように引っ張られていて、見た目以上に重く突き刺さった深い蹴りと糸がジェノサイダーのHPを1割強削る結果となった。


 ジェノサイダークラスと戦闘する場合はそのHPも増えているため削るのに相応の時間がかかる。それを加味すれば、一撃で1割削るのはリョウとトリトスのコンビがかなり優秀である証拠だ。本来なら6人のフルパーティで挑むべき相手なのだから。


「ボア゙ッー!」


 即座に糸を解除したリョウはトリトスと共に空いている足で綺麗にバク宙で離れる。寸分の狂いも無い動きは舞のようだ。


『リョウ、右足と右腕のダメージが深刻です。腐蝕のスタックがIIを越えました。ジェノサイダーの攻勢が終わり次第回復します』

「わかった!」


 リョウの思考を見るまでもなくトリトスが判断を下す。攻勢を緩めればユニゾンは消えてしまうのだが、そのことにリョウは一切の文句を言わずに従う。リョウの肘や足は攻撃によって生じた結果なのだが、放置すれば腐蝕のデバフが進んでしまい取り返しの付かないダメージとなってしまう。当然と言えば当然の判断なのだが、ジェノサイダーに一つの異変が起こった。


「ア゙?」

『「!?』」


 リョウとトリトスの攻撃でジェノサイダーに突き刺さっていた自身の木が抜けてしまったのだ。


「トリトス!」

『了解、プラン修正』

「ボア゙ッア゙!」


 どう言う原理か、突き刺さったていた木がまた生え替わり再び三本の腕が生えた状態に戻ってしまう。それを見た瞬間のリョウの考えるべきことは明瞭だった。例え身体がすぐ動かなくても反射的に名前を呼ぶことはある。それに呼応したトリトスはリョウからやるべきことを選び抜き、正確に素早く実行した。


「ア゙ッア゙ア゙ッア゙ア゙ッア゙!」


 三本の腕を地面へと何度も同時に叩きつけてリズムを取っている。その間にトリトスはリョウの壊死している部位にポーションを振りかけることで治療した。リョウはそれを気にせず声だけでトリトスに確認を取る。


「この動きは広範囲殲滅型のスキルだな!」

『はい、ロットストリームが来ます』


 断定のような確認をトリトスは即肯定する。リョウの視界が赤い明滅で敵がスキルを使用してくる事実を告げる。トリトスが言うようにロットストリームと表示されたスキルが発動し、ジェノサイダーが行動すると同時に二人は揃ってジェノサイダーに向かって飛び上がった。


 胴体だけを回転させ、三本の木腕が唐突に伸び上がり360度全域に紫の暴風を巻き起こす。段々と腕の角度が上がり、上空に避難しても攻撃を躱すことの出来ない程の傾斜、そして攻撃の痕に壁となっていた樹木に多大な影響を与えた。


 葉は落ち、木は枯れ、地は泥濘み壁となっていた樹木はその体を為さない。そこまで苛烈な攻撃にも関わらず、リョウとトリトスはそのジェノサイダーのスキル範囲内に居なかった。


「ガァ~?」


 当たった感触が無かったのか、三本の木腕を万歳にした形で固まったジェノサイダーの頭上から声が聞こえる。


「声はここから出てたのか」

『通りで口が見当たらない訳です』

「うぇ……オレじゃここに立ってるのもきつい。任せるよ」

『了解』


 ジェノサイダーが使うロットストリームの死角の一つ、それはジェノサイダーの頭だ。どれだけ手を伸ばし、直角にしても届かない所はある。その死角となる場所でも触れているだけで腐蝕はしていくようで、装備の耐久値が砂時計のように減っていく。トリトスはプロテクターを器用に操って直接触れることのないようにしている。


「行くよ!」


 トリトスが両手をバレーのレシーブする姿勢で待機し、リョウはそれを足場に上空へと飛ぶ。トリトスも続いて追いかけるように飛び上がった。


 先に飛び上がった状態で追いかけるトリトス、互いに伸ばした手を掴み合ってリョウはその手を自身より上へと放り投げる。その瞬間にリョウが両手の五指から糸を出してトリトスの足に巻き付けて糸を弦のように張り、自重と重力を利用して腕を振り下ろす。


「ハァ!」


 この糸は本来ならリョウがトリトスオルターを操るために使用する切れない糸なのだが、彼女は意思を持っているため糸を補助に回せている。そのお陰で立体的でより効果的な攻撃が出来るようになっているのがこのコンビのもう一つの強みだ。


戦闘特化アクティブフォルム


 勢いの乗ったトリトスの足下に先端が尖った角錐が現れ、彼女を覆う。装甲プロテクターとどこからか現れた赤い透明な物が組み合わさって出来た多角な角錐がジェノサイダーの口を直撃した。


「……! ……!」

『スパイラルムーブセット』


 その呟きと共に直撃した角錐を置いて後方へ飛び、リョウと同時に地面に着地する。


「毎度思うけどお前のこれって酷いよね」

『酷い? 初耳ですね、弱点に攻撃するのは基本です』

「そうなんだけど……まぁこの話は後で」

『了解、スパイラルムーブの起動を確認』


 ジェノサイダーは声も出せずに力なく震えている。弱点に未だトリトスが残した杭、スパイラルムーブが突き刺さったままだからだ。彼女は装甲を全てこの攻撃に費やして防御ゼロの状態になることで、これから先全ての攻撃がスパイラルムーブの衝撃に切り替わる。上手く使用することで全ての攻撃が弱点へのクリティカルヒットとなるスキルだ。


『皆が来るまでに削れるだけ削りましょう』

「ああ!」


 デメリットとして一定時間スパイラルムーブは解除することが出来ず、弱点以外に使用すると効果的な攻撃が見込めない。その上STRとAGIが上昇し、DEFが下降する戦闘特化アクティブフォルム使用中のみ発動可能なスキルで、効果的に使用出来なければレゾナンスVを発動中のステータス共有状態のリョウにも多大な影響が出る諸刃の剣でもある。


 トリトスはデータ上弱点が口であると知っているため大胆に使用出来たが、本来ならこのようなリスキーな選択肢は取らない。最良ではない筈のプランを実行したのはリョウの感情を優先した結果なのかもしれない。




「くっそ! こいつ固くなってない!?」

『データにはありませんが、HPの減少速度が低下しています!』

「……ボァ……」


 既に声も殆ど出せないジェノサイダーだが、HPが6割を下回ると途端にHPバーの減りが遅くなるのを感覚と観測で確認する。そして暴れるような鞭のようにしなる三本の木腕の攻撃速度が上昇している。既にスパイラルムーブは解除され、トリトスも戦闘特化を解除している。


(やっぱりジェノサイダーは甘くないか!)


 そう心で呟くと同時にデッドマンズツリー・ジェノサイダーの様子が変化している。


『リョウ!』

「は、花?」

『恐らく変態します! 注意してください!』

「な、なんだよこれ!?」


 リョウがトリトスのデータから得た情報はとても歓迎出来る物では無い。



変態メタモルフォーゼ

特定の進化形態を持つ存在が条件を満たすことで発動する魂魄の昇華、魔物の場合現在のクラスより上位になることもある。



「トリトス! 削りきるしか――」

『却下します。使用許可出来ません!』


 リョウが何かを使用するよう働きかけるが、思考するだけでその考えを否定する。その間も変化を続けながらジェノサイダーは攻撃を繰り出し、リョウとトリトスは躱し続ける。


『慌ててはいけません。状況をよく見てください』

「……! 全く、お前の冷静さには呆れるよ」


 その会話の直後に捉えたのか、リョウが移動した位置に避けられないタイミングで鞭のようにしなった木が振り下ろされる。


『ドン!』

「……ァ!」


 声になら無い悲鳴、無機質な表情のトリトスはその口元をほんの少しだけ歪ませる。


『スカウトしてきた貴方が見捨てる筈はありませんよね』


 喜びを滲ませるように口角をほんの少し上げる形で。


「失礼しました。少しお花の手入れをしながら向かった物で、これでも急いだ方なんですよ?」


 ジェノサイダーの木腕を切り上げた体勢の翠火が告げた。翠火の言うとおり通ってきたらしき道は炎に焼かれ、焼け野原とまでは言わないが人によっては手入れをしたと言えなくも無い状態になっている。翠火の足下まで燃えているが本人は気にしていない。


「……やっぱり武器は必要だよね」


 ふて腐れるように無傷のリョウが呟く。声になら無い悲鳴を上げたジェノサイダーは木腕を断たれ、動きが止まっていた。


『私という素晴らしい武器オルターがありながらなんという言い草でしょう』

「いいから変態メタモルフォーゼする前に削りきろう!」

「メタモル……?」

「それは後で説明するから今はあいつを倒すことに専念して!」


 慌てた様子のリョウを見て翠火も時間を掛けてはいけないと考え至る。


「わかりました。ほむら糸遊びをしましょう」

『ンー、デテキテイーイ? アリガトー!』


 翠火に問いかけているようで返事を待たないで翠火の隣に翠火と全く同じ姿で顕現する。


「焔はもう少し落ち着きなさい」

「いいじゃない! 私は私、これが普段通りなんだから」


 焔とは思えない程流暢に喋る分身は、焔とはまた違った性格をしているのだろうか? 翠火はこの分身を焔と呼んでいる。通常オルターの声はその所持者以外には聞こえないため、傍から見ればこの性格こそが焔だと誰もが思うだろう。


「……い、行きますよ」

「はい!」


 若干気まずげな翠火は先に向かったリョウを追いかける。




 頭に毒々しい花の咲いたジェノサイダーの連打は苛烈になり、しなり方も木ではなく蔓に見える程細く柔らかくなっている。


(リョウさんはこんなのを相手に!?)


 リョウをちらりと覗くと余裕の無さが表情に表れている。汗をその場に置いていく程早く動き、攻めあぐねているのを見れば明らかに異常が起こったと理解した。翠火は未だ若干の余裕を残してはいても攻め急ぐようにギリギリを攻めるリョウを見て方針を変える。


「私が相手の攻撃を数秒止めます! その間に接近してください!」

『「頼んだよ!』」

「……焔! カルテット!」

「それじゃやっちゃうね!」


 間髪入れずに答える二つの声音に驚くも、翠火はスキルカルテットを発動する。元気良く答えるオルターの焔が地を蹴ると同時、四人に分かれる。二手に別れてジェノサイダーの腕にそれぞれ迫り、翠火は単身で一本の腕に相対する。


 カルテットで生まれた分身は糸遊びの効果で火傷のみを負わすことが出来る他、囮の役目を担うことが出来る。ヘイトは近づいた分身に向かい、残りの一本は元々翠火を狙っているようだ。当然リョウを助けたときに付けた切り口が原因なのだろう。


「コンバート!」


 スキルの使用でVITが減少しSTRが上昇し、刀身が赤く染まる。そして木腕はそんな翠火を切り下ろすように腕を叩きつけようとする。どの直前になって翠火がその小さな口で呟いた。


「……隼斬り」


 木腕は剣を構えた翠火を透過するようにすれ違って地面に吸い込まれる。気がつけば翠火は木腕を背に、シュバイツァーサーベルを振り下ろした体勢のまま固まっていた。


(やはりコンバートしても隼斬りダだと傷付ける程度が限界ですね。そして[火傷]のデバフが入らない……)


 翠火の使用したスキルは対象から迫った攻撃にカウンターを入れる物、定められた安全地帯まで移動することができる使い勝手のいいスキルだ。だがその使い勝手はかなり上級者向きで、カウンター可能距離であることと近づかなければダメージを与えることが出来ないスキルとなっている。


「!」


 叩きつけた位置からすぐに翠火の方へと凪払いを敢行する木腕だが、翠火はその場で側宙して躱すついでにもう一太刀浴びせる。


(やはりデバフが入りませんか)


 確認のために再度撃ち込むが、結果は空振りに終わってしまう。糸遊びで分身した焔もやはりデバフを与えられていないようだ。


「あまり長くは持ちません!」


 それを聞いたリョウはトリトスを見る。


『危険と判断すれば私はリョウを逃がすためにも大破します。それでもいいと考えるのなら使用しましょう』


 トリトスの発言にリョウは動揺の色を見せずに頷く。そんなことはわかっていると言わんばかりだ。そして同時にリョウの思考から来る「必ずそんなことにはならない」という決意が伝わってくる。


「いくよトリトス――」

『やりましょうリョウ――』


 互いの手を握り、苦難を乗り越え、築き上げた力を紐解く。


『「エゴ!』」


 強い輝きを放って二人の姿は消える。そしてその場には青く染められたリョウの伸びた髪型にトリトスの綺麗な肢体、青と黄のオッドアイをした女性が現れた。


(あれがリョウさんのエゴ)


 遠目で見るエゴを使用したリョウの姿は見る人を魅了する。そしてすぐにエゴを使用したリョウに動きが見られた。


未来予測フューチャライズ


 青い瞳の中を一瞬で様々映像が流れる。何をしていたかはすぐトリトスの声で語れた。


『対象デッドマンズツリー・ジェノサイダーの変態メタモルフォーゼにクラスアップは存在しません。防御とデバフの付与に特化したサウザンドメモリーへの変態と予測します。対象の攻撃力に脅威はありませんがその付与は攻撃力以上に脅威です。また、活動限界までに倒しきることは“不可能”であり、HPを削りきる前に変態は完了します』

「オレと君とじゃ確かに残りのHPを削りきることは出来ないな」

『はい。時間内、乃至ないし変態完了前に倒す場合は援護に来た翠火さんの協力が不可欠だと予測します』

「よし……はっ!」


 数瞬でやり取りを終えたリョウは呼気と共にジェノサイダーを“蹴り上げた”その数トンはありそうな巨体をサッカーボールのように軽々と宙へと飛ばし、その藻掻くジェノサイダーに向けてリョウは手を翳す。


「アンカーセット」

『弱点部位消失のため攻撃効率を優先します。翠火さんへの協力要請を』

「翠火さん! 今からそっちにジェノサイダーを叩きつける! こっちに全力で返してくれ!」

「え!? そ、そんなの無理に……」


 空中に居たリョウの言葉に翠火は困惑する。リョウはどうやってか宙を蹴り、再び上昇してジェノサイダーを真上に蹴り上げた。


「頼む! 時間が無いんだ!」

「う、わ、わかりました」


 押しに弱いのか、無理と言いつつ受諾してしまう。


「ああ言ってたけど大丈夫?」

『翠火さんが魔人であり、イドの紋様という情報を下に予測した結果可能だと判断しました』

「信じるよ!」


 何かを足場にしたリョウが宙に留まり、降ってくるジェノサイダーに向けてオーバーヘッドキックで翠火に向けてジェノサイダーを蹴り飛ばし、即座にリョウは地上へと降りる。

「行きますよ焔……エゴ!」

『ジカンマモッテ、ツカエナー』


 翠火の病的に白い肌を浸食するように炎の紋様は更に歪に形を変え、シュヴァイツァーサーベルの焔の刀身にまでその紋様は描かれていく。


 一瞬の光を放つと共に周囲を吹き飛ばす圧が放たれた魔人の翠火によるエゴが完了する。


「アタッチメントを延焼に、千残斬サウザンドブレード!」

『エゲツナーイ』

「フッ!」


 翠火が千残斬を使用してから宙に向けて何かを斬りつける。その動きはゆっくりに見えるが、残像が見えておりその後を追って空間に裂傷が生まれ、燃え上がっていた。翠火が止まるとすぐ目の前にまでリョウが蹴ったジェノサイダーが迫っているのに合わせ、キャッチするようにスキルを発動する。


「フレイムツイスター!」


 弧を描くように千残斬とは別のスキルを合わせる。空間の裂傷にジェノサイダーが触れた瞬間、鼓膜を金属の音がつんざき、弧を描いた翠火のサーベルから放たれる炎の渦と共にリョウが吹き飛ばした以上の速度で返す。


『アンカーポイント修正』

「スパイラルムーブ射出!」


 リョウの翳す手の周囲から小さく細くなったスパイラルムーブ三本が発射される。翠火とリョウ、その中間に突き立てられた鋭い杭は正確に伸びた木腕三本を貫いていた。この時点でジェノサイダーのHPは残り4割弱で3割に手が届きそうな程激しく減少している。


「翠火さん!」


 リョウは互いの中間に突き刺さしている木腕を紐に見立ててけん玉の要領で真横に蹴り飛ばす。遠心力が働いても千切れない木腕、その性質上切断に弱くても張力には強い素材が仇となり、弧を描いて再び翠火に戻ってくる。


「わかりました!」


 状況を察した翠火は振り子の要領で向かってくるジェノサイダーを更に加速させるように流れに逆らわず蹴り飛ばす。もう一週させ更に加速させたリョウは手にスパイラルムーブを纏ってジェノサイダーの足下の根を分断する。翠火は頭上の花を刈り取り、否応なくその姿を刈り取ったリョウは、残り2割となったHPを完全に削り取るため遠心力の弱まった状態で杭の真上に無残な姿となったジェノサイダーを蹴り飛ばす。


「翠火さん止め!」

「わかりました!」


 それに呼応したのか、呆然と鑑賞していた者の声が聞こえる。


「夢衣! 私達もやるよ!」

「えぇ、華ちゃん最後だけ参加するのー!?」

「翠火が参加出来るときにしてねって言ってたでしょ? あんたは補助頼んだわよ!」

「わわ、わかった! イド! そんでもってぇ……ビルドアップ!」

「離れすぎると経験値入らないかもだから寄っときなさい。イド!」

「うん!」


 因みにソウルオルターの経験値は分配式ではなくパーティレベルの差に応じて配られるシステムだ。一切貢献していなければ0だが少しでも貢献すれば簡単に経験値が入る。


「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!」


 そして華が走り始めた後、デッドマンズツリー・ジェノサイダーは最後の咆哮を上げると木腕の楔にしていた杭が抜ける。しならせた木腕を体中に巻き付け防御態勢を取っていた。落下は防げなくても攻撃は防ぐつもりらしい。


「うりゃ!」


 華はそんなことにお構いなしに自身のオルターであるバスターソードを投げつけ、見事にジェノサイダーへと命中させることに成功した。ヒューマンならではの命中補正のお陰でもある。


「トリトスの予測通りだね」

『これで誤差によるジェノサイダー生存の可能性は無くなりました』


 防御するジェノサイダーを見ながら呟くリョウと、華と夢衣を観測・・するトリトスの声は予測通りと言わんばかりの結果をもたらす。リョウ、翠火、華、夢衣全パーティから青いオーラが発生した。


『ユニゾン、カタストロフィが使用可能になります』

「夢衣さん! その・・魔法を皆に使ってくれ!」

「え、えぇ? わ、わかた! えーっと……必滅の陣! あ、MP無くなっちゃった……」

「ありがとう!」


 夢衣の使用した魔法がリョウ、翠火、華を三角形を形作りそれぞれの立ち位置を示すマーカーが映し出されている。地面に墜落したジェノサイダーに出来ることは無く、自身もそれを理解しているのか最大級の攻撃を耐えようとしていた。


「二人ともその陣の上に立つんだ! 後は自然と理解出来るから!」


 指示に従いマーカーの上に立つと、何をするかリョウ含めて理解する。手始めに飛び出した華は自身の剣に向かって全力で柄の後ろを殴りつけながら唱えた。


「チャージ!」


 バスターソードは赤熱して更に深く突き刺さる。後方に下がった華と入れ替わりでリョウがジェノサイダーを三度上空へと蹴り上げ、タイミングを合わせて飛び出していた翠火は糸遊びで分身した焔二体と共に×の字を描いて唱える。


「赤雷!」


 ×の字から迸る燃えるような赤い雷が纏わり付き赤熱したバスターソードの温度を更に上昇させていく。


「ウィークアシスト!」


 翠火の付けた印と等間隔に空けたリョウの撃ち込んだ円錐の杭は全てのダメージを強制的にウィークポイントとなっているバスターソードに集約する。


 そして落ちてくるジェノサイダーに飛びついた華が真っ白に光るバスターソードを掴み、翠火が赤雷をバスターソードに集約させ、リョウはウィークアシストを自爆と同時に華がオルターである剣を振り抜く。


 彼女らの視界にはユニゾンスキルである【カタストロフィ】が表示され、ジェノサイダーは大爆発と共に消滅した。






誤字脱字あると思いますが時間を見て修正します。

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