第50話 キング戦
血まみれで地に身体全体を突っ伏してしまっているアキラは、朦朧とする意識で視界左上にある[眩み]バフを見る。
(3秒じゃなくて、6秒? “あの”攻撃のせいか……)
今アキラはαとβの技を食らってしまい、体中がバフのせいで朦朧として動き辛い状態になっている。
(あんなのいきなりなんて、反則だろ……くっそ、身体の感覚が無い……)
それはアキラが2回目のゴーレムαを倒した後の出来事だ。
(よし……これで2回目の倒す準備が出来た。でもまた復活する気がするんだよな)
アキラはゴーレムが復活後、強化されていることに気づいていた。それはゴーレムに薄らとだが特徴が出始めたのだ、αは赤くβは青くほんのりと色付き始めている。一番の特徴として、復活後にαとβが腕を振り上げて地面にその手を叩きつけてから色が付いたことだ。
幸いにも物理攻撃しかしてこないのはゴーレムだからだろう。
(少しでも倒すための手掛かりが欲しい……一応同時に倒してみるか)
倒せる方法を模索しながら手探りで長期戦を決めたアキラだったが、翠火達が話していたように良い選択ではなかった。
無論それはアキラにもわかっていたことだが、慣れない山岳地帯で逃げ切れる自信がアキラには持てなかった。
そのための長期戦だったが、根拠が無い訳では無い。アキラには長期戦を耐えるのに必要なイドの定着がある。そんなアキラだからこそ安定して取れる戦法だろう。
(αとβを互いに引き寄せて……ここだ!)
βが背後から強襲してくるタイミングで、クイックIが付与された状態のアキラが、その速度を生かして素早くβの背後に回り込む。
(同時にHPが消滅するのに片方だけが崩壊ってのもおかしな話だよ……な!)
『ドカァァァン!』
アキラの強化インパクトドライブがβの背後で炸裂し、その反動を堪える。
『『『ダァン!』』』
クリティカルシュート独特の重なる銃声が続く。アキラがスキルの影響で多少硬直するが、確かな手応えをその目で見ることが出来た。
(そういうことか!)
二体が同時に破壊された影響か、その瓦礫のような跡から光り輝く赤と青のコアが宙に浮いて露出している。無論一体を倒した時点では確認されなかった物だ。
それを見ると次の行動は決まった。硬直が解けたアキラは即座にピンポイントシュートで、シヴァとヴィシュを使ってその赤と青のコアを狙い撃つ。
『『ガァン!』』
「っ……!」
アキラは忘れている。ロックペイントのコアらしき物を狙って何があったのかを、そして額に覚えのある感触で思い出したのだ。
“反射”された遠距離攻撃がアキラの額に2発突き刺さる。
転倒したアキラは覚えのある感触だが、威力の違いに一瞬何が起こったかわからなかった。自信の額にとんでもない衝撃を受けたのは感じられただけだ。しかし、幸いにもピンポイントシュートで反射された攻撃はイド状態と言えども、大きなダメージにはならなかったようだ。
だが
「? 手足に……力が入らない?」
アキラが力を入れて立ち上がろうとしてもその意思とは反して、身体は言うことを聞かない。そして気づく、画面左上には[麻痺]のアイコンがあるのを。
(な、なんで……そうか、あいつらの反射ダメージ、間違った攻撃をしたせいでペナルティを受けたのか)
ゲーム後半になれば時々見られるようなギミックを認識したアキラは、黙って露出したコアが再びゴーレムとして形作られるのを見ていることしか出来ない。
人の形になったゴーレムは二体とも同時に両手を振り上げて……叩きつけた。すると色が濃くなる。そしてもう一度叩きつけ、更に色が濃くなり、最早濃い赤と濃い青に見える。
(ま、まさか二体壊したから強化も2回されたってのかよ!)
未だ動けないアキラは黙ってその状況を見守ることしか出来ない。色が濃くなった影響なのか、ゆっくりと余裕の感じられる歩みを見せている。
そして、アキラの目の前に二体が並ぶと、その身体から青いオーラが滲み出てきた。それと同時にヘルプが現れる。
【HELP】
ユニゾンが発動しました。味方、敵問わずパーティ状態の二つの
(な、なんだよ……それ、何もこんな時にそんなの発動しなくてもいいだろ!)
アキラが嘆くと同時に、視界に赤いテロップがフェードインしてくる。
【トレインコリジョン】
(くっそ、あり得ねぇよ……絶対良くないだろ)
アキラが見たことも無い現象が次々と起こる中、諦念を抱く心境は理解できる。麻痺で動くことも出来ないのだ。
見ていると恐れを抱く程の真っ赤になったαと嫌悪感が湧き出てくるような濃い青となったβが無造作にアキラを掴み上げ、上空に放る。デバフの[麻痺]は後数秒で解けるのを考えると、この技はシューターを的にした物なのかもしれない。
互いに一定の距離を取ったゴーレム達は、アキラの落下地点目掛けて走り始める。
(ま、まさか……やばい! 動け! 動け動け! 頼むから! ……俺の身体! ……動いてく)
『ドチャ』
肉を強引に潰した音が響く。
アキラが落下する直前に、αとβがショルダータックルの要領で突っ込み、αとβの間に丁度滑り込むように降ってきたアキラを挟み込んだ。その一撃は容赦なくアキラの全身を潰す。
肉塊のようになったアキラはそのまま、ゴーレムのすれ違うような動きに弾き飛ばされる。
遠くで固い地面に柔らかい物が落ちる音が後から聞こえる。アキラは辛うじて意識を保っている。
通常なら特定部位の一つである頭もダメージを負うので気絶していてもおかしくないが、特定部位が死転の面によって防がれていた。そのおかげでアキラは[眩む]だけで済んでいる。
(これが、電車に轢かれる感覚……かよ……確実に、dyingだな……身体の感覚も無ければ、痛みも感じない……)
思いの外遠くに吹き飛ばされたアキラは死に体だった。普通なら即死してもおかしくない程の衝撃で、ショック死しても不思議では無い。これも
とは言っても、次にゴーレム・キング両名のどちらの一撃も食らうことは出来ない。通常攻撃が今のアキラにとって既に致命の一撃になっているからだ。今する行動は一つしか無い。
頭に響くゆっくりと近づく地鳴りを耳に、6秒の時間が過ぎてデバフが解除される。身体を動かすが、dyingの影響でステータスが落ち始めているせいでアキラは倦怠感に悩まされていた。
(か、回復を……ヴィシュをイドに……)
「ぃ……! ごほぉ!」
遠く弾き飛ばされたヴィシュを呼び出す。手から離れてしまったためにイドが解除されたので、アキラは再びイドにするため声を出そうとするが、それすら出来ずに血反吐が出てしまう。
(くっそ、取り敢えず通常の回復を……)
アキラがヴィシュで本能の状態のまま回復を行う。ゴーレム達は先程機敏に動いていたが、なぜか今は歩いてアキラの方へと向かっている。
ゴーレム達は先程ユニゾン状態と思われるオーラのような物が無くなっている。歩いている理由としてはそれが関係しているのかもしれない。
「あー、あーよし! イド!」
『ウン!』『ソウ』
頭の中にアキラにだけ聞こえる声が響く、シヴァとヴィシュがアキラの言葉に頷いているのだ。ゴーレム達が迫ってきている中、声が出せる程度に怪我を治したアキラは更に回復に努めるため、ヴィシュで回復を行う。
身体の気怠さは抜けないまでも外傷は回復出来た。そしてアクセサリー相反の腕輪を装着する。
既にゴーレムの間合いが近いが、アキラの決意も固まったのだろう。怪我が治ったことでいつも通りに近いコンディションで動けるが、やはりダメージは抜けていない。クイックIを付与した状態でゴーレムに挑むのは自殺行為に近い。
アキラは一つだけ大事なことを忘れていたが、そのことを知るのは生き残ってからでも……大分遅いのだが、生きてさえいれば後に気づくだろう。
今は対峙すると決意したゴーレムだ。αとβ共に3回も強化されたゴーレム達の攻撃を1回でも食らえば、最低でもHPの3割はダメージを負うだろうとアキラは予測している。
少しでもキング達の連打を浴びれば即dyingになり、死ぬことを意味している。それを理解しているからこそ、雌雄を決しようとしているのだ。倒せない相手ではない、厄介な敵なだけなのだ。
「……やっぱり俺はおかしいのかもな」
目の前にキング達が立ちはだかる。
「修練場で仮初めの死を何度味わって何度心を折ったか知らない」
アキラはシヴァとヴィシュを渾身の力で握りしめる。
「この
キング達とアキラは同時に駆け出した。
「交通事故みたいな技も食らったし、俺の運命は多分これからもこんな感じなんだろ。けどなっ……フッ!」
アキラに近いαが迎撃するために脅威の殴打を振るう。アキラは小さく息を吐くと同時に飛び上がってそれを避け、地面に突き刺さったその腕に着地してシヴァの銃口を足下の腕に突きつけ、引き金を強く引く。
『ドカァァァン!』
「俺は!」
響く轟音だが、アキラは2倍になった威力の反動をαの腕を掴むことで強引にいなす。だが、イド状態のインパクトドライブは
それを強引に押し留めた結果、HPの合計から3割減少した。それでも猛攻は止まらない。
『ドカァァァン!』
「ぐっ……これからもっ!」
ダメージに呻くが、それでも攻撃の手を緩めない。更に同じ箇所にインパクトドライブを放ち、自身とαのHPが減少する。このままではゴーレムの攻撃を一撃も貰うことが出来なくなる。
だが、今のアキラにとってそれは攻撃を止める理由にはならない。続けて轟音を轟かす。
『ドカァァァン!』
「何があってもっ、ぐっ……生き延びてやる!」
既にHPは見ていない。反動で残りHPが全体の1割のみになるが、αの反対の腕をハンマーのように振り下ろされるのをステップで避けようとするが、このままでは届いてしまう。それでもアキラの心境が目に見えるように、微塵も闘志を絶やさない表情が窺える。
『ドカァァァン!』
「この程度でっ、俺の前に立つんじゃねぇ!」
振り下ろされた腕の横っ面を殴るようにインパクトドライブを当てる。動きながらのこの動きはクイックIが付与されたから可能な物だ。
だが、ステップ中の強引な姿勢からのインパクトドライブの反動は強烈なため身体は持っていかれるがシヴァは離さない。そのせいでアキラの全身から反動による衝撃で血が噴き出している。dying状態になったのだ。
しかし、アキラは止まらない。既に片方の腕を無くしたαを援護するように背後からβが強襲してくる。それを感じ取ったアキラはαを飛び越して背後に回る。
体勢の崩れたαに反撃する
艦隊の砲撃のような轟音が響くと同時に全身から吹き出す血は、アキラの
「オラァ!」
『ドカァァァン!』
インパクトドライブで再び瀕死になりながらも、アキラはシヴァを手の中で180度素早く回転させて右フックを人で言う膝裏に叩き込む。
岩が砕けるような音と共に、アキラの身体は既に血が出ていないところが無いと言わんばかりに赤く染まっている。
アキラはαを壁に、βがこちらに来ないように立ち回った。そして残りの手足も破壊してロックペイントのように転がるのも苦労する達磨に仕上げた。急所には一切当てていないのでHPも半分残っている。
「次はお前だ!」
アキラの暴力によるゴリ押しが、先程までの立場を逆転させていた。
αを蹴り飛ばしてβに当てる。そのとんでもない力と威力で蹴り上げたせいか、アキラの足の骨が砕けるも即座にヴィシュで回復させる。αが落ちてβの目前に迫ったアキラを見つけると殴りかかってくるが、アキラはシヴァの銃口で迎え撃つ。
「王様程度が! 俺の邪魔をするなぁ!」
『ドカァァァン!』
インパクトドライブで、本来なら力負けするはずのβから強引に競り勝つ。人差し指にヴィシュを掛けて空けていた左手で強引にβへと掴みかかり、反動をやり過ごすのも忘れない。
「負ぁけるかあ!」
掴んだ手で強引に反動を無視し、自分の身体を前へと進める。βの肩にシヴァの銃口が届く位置に来たと同時にインパクトドライブを放った。当然dying状態となる。
すると戦闘中のためか、視界の左下に文字が表示される。気づくアキラだが無視する。
アナザースキル【死線の解放】を習得した。
アキラから倦怠感が消え去る。ヴィシュで回復しなくても、dying状態に関わらずステータスの低下が起こっていないのだ。原因が左下の隅ある何かだと察したアキラは、チャンスと見て今度はヴィシュも攻勢に使用する。
小さいダメージだが、可動部分に直接弾丸を当てることで嫌がらせに近い効果が得られた。リロードの隙が出来ないように動きながらこなし、時折タクティカルリロードを交えて弾丸の残ったマガジンを宙に放ってリロードのタイミングを悟らせないようにする。
最早邪魔者は誰も何もいないのだ。
また弾切れを起こせばリロードをせずに先程と同様に手の中だけで銃を反転させ、石を握り込むような気持ちで殴る。拳は多少痛みが伴うが、グローブのおかげで最低限で済んでいる。
オルタースキル【ガンシフター】を習得した。
また左下の隅でスキルを習得するが、気にしないでβをαと同じく達磨状にしてαの近くに向かう。最早ダメージを気にせずαにインパクトドライブを放った。そして受ける反動を背に付けたβに押しつける。
ターンで即座に反転してβにもインパクトドライブを決める。
アキラは崩れた身体から同時に現れた球体を、自身の
コアを砕いたアキラは、粉々に砕けたガラス細工を彷彿とさせる思いを抱いて綺麗に映るその崩壊を見届ける。
「はぁ、はぁ、俺の……邪魔をする奴は、はぁ、はぁ、こうだからな。はぁ、はぁ」
身体の動きを止めてしまったせいでどっと疲れが押し寄せるが、目の前に湧き出た銀色のアイテムボックスを必死の思いで回収したアキラは、震える身体を抑えて歩き出す。
視界はまともに機能せず、ヴィシュで回復しようとしても腕が上がらなければトリガーを引く力も無い。
(こんな、危険地帯……で、休む訳には……)
魔除け香を焚けばいいのだが、今の状態では火も満足に付けることも難しいのだろう。アキラは必死に足を動かす。辛うじて動かす足も、
萎えかけていた気力が底を尽く感覚に襲われ、手足が最早一歩も動かせない。それでも体勢を無理矢理整えて、歩こうとするも足が上がらず、歩くために動かしていた身体は勢いを止められずに今度こそ転けてしまう。
(こんな所で、力尽きる……訳には……グッ)
段差が少しあったせいで宙に放り出され、仰向けになって倒れる。最大の脅威であるゴーレム・キングを葬れたことで心がどうしようもなく安堵してしまっているのだ。意識があっても命の危機が目の前に来ない限りは、アキラが再び立ち上がるのは難しいだろう。
(もお、何もする気力が、起きない……頼む……から、起きるまで、何も……)
アキラは眠るように意識を落としてしまった。
アキラが気を失って直ぐに、見知らぬ男の声が近くから聞こえた。
「おい! シグナロックの引きが強くなったぞ! あっちだ!」
「キング達がいつまで経ってもやってこないんだ。きっとまだ遭難者を追っているに違いない!」
どうやら、途中でタクリューが途絶えた知らせが届いてアキラを捜索に来たらしい。すぐにアキラが落ちた位置が見えてくる。
「な、なんだこのクレーターは……竜が落ちたにしちゃ随分……おいっ血の跡だ!」
「こっちに続いてるぞ!」
それを辿り、アキラが散々暴れた惨状はその部分だけ歪な凹みが出来ている。
「どうなってんだこりゃ……」
「と、取り敢えず周囲を探そう!」
捜索隊の護衛依頼で付き添いに来ていた一人のワービーストが呟く。
「キングと戦った者が居た……?」
その呟きの直後、捜索隊の一人が声を上げる。
「おーい! 居たぞ-!」
「あ! お、遅かったのか……」
膝を突いて落ち込む捜索隊の人間とは別の人がアキラに近づいて行く。
「なんでこんな惨い姿に……それに酷い怪我だ、苦しかったろうに……ん? ……お、おい!」
「な、何だ?」
「落ち込んでる場合じゃ無いぞ! まだこの人には息がある! キングが来ないうちに運ぶぞ!」
「何!? わ、わかった!」
捜索隊がアキラを運ぶ中、捜索隊を指揮をしている人物が声を上げる。
「いやぁ、あんたの出番が無くてよかったよ、付いてきてくれるだけで終わるならこんなにめでたい日は無い」
「貰う額は変わらんのだ。露払い程度はしよう、貰うだけ貰うのも悪いからな。気にせずその遭難者を助けるがいい」
「お言葉に甘えて……よし! いくぞ!」
運ばれるアキラは揺られながらも意識を戻すことは無かったが、危険地帯から抜け出すことが出来るだろう。
アキラの細い糸の上で行われる人生の綱渡りは束の間の休息を得る。
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