第45話 ユニオン【リターナ】
「なぁリッジ、なんか面白いニュースでもねぇか?」
「急に言われても出てこないよ。あ、よくわかんないけど朝凄いことがあった気が……」
ホームとは別にユニオン専用のホームが存在する。それを所持する数少ないユニオン【リターナ】の一室で二人の男が雑談していた。一人は
その巨躯のせいか、寄りかかるようにして乗られている椅子は軋む音を定期的に鳴らしていた。
「なんかありそうなのか? 頑張れ! 思い出せ!」
「あ、思い出した。ルパは聞いた? 翠火がPvPで負けたんだって、よくわかんないけど」
急かす男は顔の周りにライオンのようなたてがみが生え揃い、百獣の王を彷彿とさせる見た目だ。そんな吠えるワービーストに、軽い調子で返すのは青白い血色の悪そうな肌をした銀髪で、ルパと呼ばれた大男の半分程の身長しかない中学生に見える人物だった。
病的のように見えるその肌の特徴と喋る時に覗く牙は、彼が
ワービーストのルパが突然飛び起き、吠えるように大きな声でリッジと呼ばれたダンピールに再度問い返す。
「はぁ!? 翠火がPvPで負けただぁ!?」
「らしいよ? 僕実際の試合見てなかったから正確な所どうなのかは知らないよ。よくわかんないけど」
「他にそのことについてなんかねぇのか?」
「よくわかんないけど、相手がヒューマンのシューターってことは聞いたかな。ちょっと信じられないけど」
リッジは本当によくわかっていないのか、口癖のせいで紛らわしい言い方になってしまう。
「なぁ、それ何処情報よ? 翠火が負けるって面白すぎるニュースをなんでもっと早く言わねぇんだよ」
「
「自分のことだろ、まっいいや。そうとわかれば……」
ルパがリッジに背を向けてユニオンホームから出ようとする。
「あれ? ご飯に行くの?」
「いや、ちょっと翠火に話を聞こうと思ってな」
「ほーん……僕も気になるから付いてく」
「この時間ならあの愛想の悪いチビ達んとこだろ」
「僕、猫嫌いなんだけどあそこまで何もしないのを見ると悪くないって思っちゃうよ」
リッジがそう言いながらルパの後ろを付いていく。ダンジョンから戻ったばかりのアキラに再びトラブルの気配が漂い始めていた。
キツネのお面を付けた一人の女性が、終始機嫌良さそうにラウンジで寛いでいる。その傍らにはナシロとメラニーも居る。近くにいるだけで癒やされているのか、リフレッシュしているのだろう。
また、その特徴あるお面の女性、翠火を目当てに見ている者も居るがナシロとメラニーと寛ぐ絵は心を癒やしてくれている。
「フフ……」
翠火が機嫌良さそうにナシロの背中を優しく撫でている。メラニーは翠火のお面が気になるのか、肩に乗ったまま翠火の顔の方へと視線を向けて首を何回も傾げている。
そんな背中を撫でられているナシロは
「……」
当然のように無反応だった。
しかし、そんな平穏な時間は突如ナシロの首が持ち上がられることで終わりを告げる。
「ナ、ナシロ!? 首を持ち上げてどうしたのですか!」
翠火が慌てたように声を上げる。
「ナシロが自分で動いた!」
「え? あの子自分で動けるの?」
「動くの初めて見た……」
当然周囲にざわめきが広がる。勿論そんなことは意に介さないナシロは扉の方を見つめている。
「アキラさんが来るんですか?」
「…違う……変なのが…来そう」
「変なの?」
翠火の声を合図にホームの扉からワービーストとダンピールの二人が入ってきた。それだけならば良くある光景なのだが、装備が全てジュニア級でまとめられているため特殊な威圧感が滲み出ている。
一定以上のクラスでまとめられた装備着用者にはその等級を現す威圧感が発揮される。なんの害もないので相手の装備について参考に出来る程度だが、それで相手がどの程度の力量なのかはわかる。
「あれは……」
ナシロの言葉に翠火もドアの方へと注目していたので誰が入ってきたのかわかると固まってしまう。
ワービーストのルパが翠火を見つけて歩み寄る。その後ろからダンピールのリッジも付いて来るが、フードを被って俯いている。装備の威圧感が無ければ強者には見えないだろう。
「おい翠火!」
「なんでしょう?」
翠火の態度が一歩退いた気配を滲ませてナシロを腕に垂らして抱いていた。しかし、ルパはまったく怯まずに翠火に話しかける。
「お前負けたって本当か!」
「……? あぁ、今朝の話ですか。確かに負けました」
「やっぱりか! お前に勝てる奴が居るって聞いて我慢できなくて来ちまったぜ」
「てっきりPvPを申し込まれるかと思ってました」
ルパのこの言葉を聞いた翠火は雰囲気を和らげる。見た目通りにルパという人物は好戦的な性格をしているらしい。その言葉を聞いたリッジがフードの中から声を上げる。
「一応見張りで僕が来てるから大丈夫だよ、よくわかんないけど」
「……どっちなんでしょう?」
「そのまんま」
「そんなことはいい! 負けた相手って奴を教えてくれ!」
「まさか、ルパさん?」
「い、いやちょっと聞きたいだけだ」
翠火が咎めるような視線をルパに向ける。同じユニオンに所属しているルパについて、翠火はよくわかっている。
「本当ですか? もし“また”粗相をしたら
「人を獣みたいに扱うな!」
「獣でしょ、よくわかんないけど」
「人だ! それくらいならわかるだろ!」
リッジはフードを被っているが、青白い肌が少し覗く程度に首を振るのが見えた。
「ったく、俺だってミィルにバレて金策に付き合わされたら堪らねぇよ」
「でしたら……」
「暇だから話を聞くだけだって、教えてくれよ」
「教えてしまえばそれだけでは済まない気がするのですが……」
「よくわかんないけど、それは僕も思った」
「んだよ……冷てぇ連中だな」
ルパが不利を認めて諦めようとした時、メラニーが声を上げる。
「ナシロ! カエル!」
「…おっす」
「え? どうしたのですかメラニー?」
「アキラ、カエッテキタ! キツネ! マタネ!」
「あ、あら、そうですね。寂しいですけどまたね」
「…あばよー」
メラニーに運ばれるナシロが別れの挨拶を間延びしながら告げると、アキラの居るらしき方へと飛んでいく。
(まずい……ですよね)
翠火はお面のおかげでわかりにくいが、そわそわと焦燥感が身体から滲んでいる。それをリッジは気づき、アキラを見てから翠火を見て告げる。
「よくわかんないけど、あれが?」
「え、えぇ、まぁ」
翠火もアキラを見ると、ナシロを顔面に受けて立ち尽くしている。最早恒例になりそうな挨拶に対して、アキラは首輪を手探りで見つけてナシロを引き剥がす。
『ナァ』
(あの人は何をしているのでしょう……)
ナシロの鳴き声を聞いたアキラは特に怒りもせず、溜息を吐いてナシロを首に掛けて歩き出す。それを一部始終見ていたルパは困惑の声が出る。
「な、なんだありゃ、チビ達があんな懐き方するの初めて見たぜ……翠火より懐いてねぇか?」
「そ、そうですね。私もそう思います」
翠火は隠し事が苦手なのか、言葉に詰まりながら身体を揺らしている。
「……なんかお前、変じゃないか?」
「き、気のせいでしょう」
「それよりルパ、僕あの猫を首に掛けるヒューマンが気になる。よくわかんないけど」
「そうだな、なんも話してくれねぇ翠火はいいや、面白そうなあいつんとこ行ってみようぜ」
翠火は追求されなくても良いと考えた安堵と、話題の逸らし方が上手いリッジだったがその逸らす方向が本命に対するただの軌道修正になってしまっているのを考えれば、意図的にやっているのだろうと考えさせられる。
リッジは気づいていたはずだが、彼も何か刺激を欲していたのだろう。よくわからないと言いつつ、フードで見えない表情とは裏腹にその肩は愉快そうに揺れている。
(アキラさん、力及ばず……すみません)
翠火があまりにも早い諦めの言葉で謝罪していた。
ルパがアキラの前に陣取り、進路を塞ぐ。
「おい! そこのチビ達の飼い主!」
「……」
アキラはナシロを首に掛け、堂々と歩いている。なぜかメラニーが鳩胸ならぬ雀胸を張っている。
「ははっ、無視されてやんの」
「なんでそこで「よくわかんない」って付けないんだよ!」
「へ? 意味分かんないけど」
ルパとリッジの掛け合い物ともせずにアキラは言い放つ。
「ここは人が通る所だぞ、漫才なら他所でやってくれ」
「あ!? お前なんだ、その口の利き方は!」
「なんだ、見た目通り百獣の王様だから敬語でも使えってか? そのたてがみで聞こえなかったようだからわかるように言ってやる。迷惑を掛けるような行動をするなって言ってんだ」
「ソー! スルナー!」
なぜかメラニーがとても強気だ。どうやらルパがあまり好きではないらしい。
「ひゃ、百……獣……ぷっ」
「リッジ!」
「な、なに? お、おうさ、ま……ぶふっ」
リッジに取ってここまでルパに面と向かって言い放つ相手を初めて見たが、その内容もリッジの笑いの琴線に触れていた。リッジが振る舞いも見た目も正に百獣の王、ライオンのようなイメージをルパに持っていたからだ。
「笑うのはいいから早く道を空けてくれ、通れないだろ」
ルパがでかいため、丁度仕切りの位置が壁となっていて先へ進めない。ここでルパは初めて相手の装備を眺める。
(なんなんだこいつ? 貧弱なんてもんじゃねぇ、仮面とグローブ以外付けてねぇじゃん。それに俺等を知らねぇのが気に入らねぇ)
「ほら、お、王様……フッ」
「てめぇ、太陽の下に放り出すぞ!」
「ただ眩しいだけだからいいよ、よくわかんないけど」
「いきなり素になんじゃねぇよ!」
アキラはまた漫才を始めた二人を躱わしてルパを押し退けようとする。ルパは身じろぎ一つしない。そんなアキラを見たルパは顔を歪めて嘲笑した。
「おやぁ? そこのヒューマン、なんだその手は?」
「銅像が邪魔だから動かそうとしてるだけだ、勝手に喋んなよ。ガーゴイルか?」
「ブフッ」
「てっ、てめぇ……」
アキラは口が悪くなっているが、それは当然悪意を持ってくる相手に対してのみだ。ダンジョンやアニマ修練場で性格が多少攻撃的に歪んでしまったが、根本は変わっていない。
目には目を、悪意には悪意で返す。
「ほらガーゴイルパ、どこうよ」
「ここまでコケにされて黙ってろってのかよ? 後、次変な名前で呼んだらただじゃおかねぇぞ」
「僕は思うんだけどね、普通に道を塞がないで話しかければよかったじゃん」
アキラが、ルパに顔を向けて言い放つ。
「リッジって言ったか」
「ルパだ!」
「お前じゃねぇよ」
「こいつ!」
争いに発展しそうなタイミングでリッジがルパとアキラの間に入って返事を返す。
「よくわかんないけど、呼んだ?」
「あぁガーゴイルが邪魔でな、動かす呪文を教えてくれ」
アキラがリッジに話しかけている風に装って煽っていく。
「許さねぇ」
「ルパ落ち着きなって、さっきも言ったけど普通に話しかければ良かったんだよ、よくわかんないけど」
「どっちだ!」
「ルパを動かす呪文を教える前にちょっと聞いて良い?」
リッジがアキラの言葉に乗っかるように会話を促す。アキラとしては穏やかに終わらないのを既に覚悟しているので、アキラもリッジの話に乗っかる。
「なんだ?」
「僕はルパ程自意識過剰じゃないから僕たちの顔を知らないのは別にいいよ? それが普通だし」
「そんで?」
「一応防具はジュニア級でまとめてるからそれなりに強者である自覚はあるんだ。そんな相手になんでこうも面と向かえるの? よくわかんないけど気になって」
リッジが口癖を交えながら、どうして初対面の威圧感を放つ相手にあまりにもアキラが自信に満ちあふれているのかが気になった。メラニーは未だに威張っている。
(……なんだ?)
質問されたと同時にアキラは身体に違和感を感じていたが、すぐにその違和感も無くなって気にせず理由を答える。
「そうだな、脅威に感じない相手に萎縮する奴が居ないのと同じだ。一々目の前に居るロックペイントを怖がる奴なんて見たことも無い。そもそも、コミュ障じゃないのに一般人に面と向かって話せない奴なんて居るか? まぁ、例えは俺もよくわかんないけど」
アキラはリッジの口癖を借りてストレートに告げる。
「リッジ、石ころ扱いされてまで我慢なんかできねぇもう止めんなよ」
「あれ、そんなつもりで聞いたんじゃ無いのに……よくわかんなくなっちゃった」
リッジがお手上げのポーズを取ってアキラに言う。
「なんかごめんよ、ただの好奇心で聞いただけなんだけど」
「別に構わない。このまま終わるとは思ってなかったからな」
「おまけに潔いね、よくわかんないけど」
PvPの申し入れ等せず、ルパは直接殴りかかる。ルパの頭は目の前のヒューマンを叩きのめすことしか頭にないのだ。
「やっと、どいたな」
アキラがそう告げると、ルパの殴りかかる腕を絡め取って身体を素早く回転させて横に回すように背負い投げをする。
驚いたルパだが、この程度は即座に対応してきた。地面に振れる直前にアキラを巻き込むように腕を畳む。
「うぉっ!」
が、畳んだ腕に掴んでいるはずのアキラの手は無かった。投げ飛ばすつもりならなんの問題も無く体勢を立て直す猶予はあった。しかし、投げ落とす軌道で手を離しているとはルパも思っていなかった。そのせいで頭から地面に落ちる。
「やるな、へへっそうこなくっちゃな」
「誰に言ってんの? よくわかんないけど」
「あ? ……あ?」
ルパが起き上がりながらリッジを睨みつけ、周囲を見渡すと同じ発音で違った意味の声が聞こえる。見渡すところにアキラは居ないのだ。
「あの仮面の人、行っちゃったよ?」
「はぁ!? これからって時にか!」
「……あまりにもそれは自分本位に考えすぎじゃない? よくわかんないけど」
「ったく、萎えちまった。あんな手応えありそうなヒューマン初めて見たぜ」
「結構強そうだったよね、でもあんな目立つ仮面してたら噂ぐらい聞いても良いのにね」
ルパが暇のつぶせそうな話題を見つけたからか、朗らかに笑っている。しかし、その笑顔はたった一声で彫刻のように固まる。
「ルパ」
リターナのメンバーなら必ず聞いたことのある声を聞くと、アキラが言った冗談のように、ルパが本当のガーゴイルとなる。
現実を否定したいルパは呼ばれても返事はおろか、振り向きもしない。
「聞こえないのかい? 先程のヒューマンの彼じゃないが、君はいつから彫刻になったんだい?」
決してルパは振り向かない。
「そうかい……私の話を無視するんだね。これでは一人で彫刻に向かって喋る哀れな道化師じゃないか、喋らないガーゴイルは彫刻としてどこかに売り飛ばすしかない。そうだね、灼熱神殿エルグランデなんかいいかもね」
「!」
「エルグラかぁ、あそこ明るい上に熱いし広いし嫌いだな。よくわかる」
「リッジにはこのガーゴイルを運んで貰おうと思っていたんだけどね」
「えぇ……よくわかんないけど嫌だ」
「それでは仕方ないね、このガーゴイル……いや、彫刻は邪魔なので粉々にするしかないね」
その言葉を聞いた時、初めてルパが振り返る。彼の言葉を真に受けるなら甚大なダメージは免れないからだ。
ルパの視界に映るその美男子のような整った綺麗な顔は、エルフ特有の耳と合わせてファンタジーその物だ。驚くべきことは、このエルフの顔が現実でもそのままだと言うことだ。
ステータス状エルフは防御力があまり強くない。そのため、装備は重要なのだがそのエルフが身に纏っているのはあまりにも軽装な木材で作られた急所を守る当て木だけだった。
この木に使われている素材はジュニア級の最高位に位置する木材で、タイニートゥルスの成長後から取れる一部分のみを使った物だ。それなりに防御力はある装備だが、如何せん守るべき場所がピンポイントなため、かなり頼りなく思えてしまう。
しかし、リターナのユニオンマスターが使用しているオルターは、このエルフに重装備をさせるのを拒む作りをしているため最低限になるのは仕方が無い。
「サイロ1」
エルフの呼び出すオルターの名前を告げた瞬間、右腕が鋼鉄の素材で塗り固められる。
「ま、待てよミィル! ちょっと魔が差しただけなんだって!」
ルパはミィルと呼ぶエルフに即座に言い訳するが、もう遅いと言うようにミィルの右腕に纏った鋼鉄と思しき先端からドリルが出てくる。
「あぁ、彫刻が喋ってしまった。ガーゴイルは魔物だからね、倒さなければならない」
「マジかよ!」
「コイル1」
ミィルがそう告げると右腕のドリルが高速で回転し始める。ルパはそれを見て本気と悟り、いい機会だと吹っ切れて反撃しようとするが、身体が動かない。
「おいリッジ! 解け!」
「……よくわかんない」
リッジはどうやってか、スキルでルパの行動を抑制しているようだ。そのため、逃げることも反撃することも出来ずに目の前までドリルが迫る。
「あぁもう! 悪かったって! 金策に付き合うからそれで勘弁してくれ!」
「そうだね、そこまで悪いと思っているのなら今回は目を瞑ろう。金は偉大だ」
「ちっ……」
「ただし!」
『ビクッ!』
ルパが舌打ちして油断したところで、ミィルが声を上げた。そのせいでルパの身体が一瞬強張ってしまう。
「……んだよ」
「次、一般人に迷惑をかけたらユニオンライドの費用を一人で賄って貰うね」
「はぁ!? ふっざけんな! ユニオンを昇級させる額を俺一人が払える分けねぇだろ!」
「心配しなくても金策には付き合うさ、そろそろ私のオルターが“次”の段階にいきそうな予感がするからね。恐らく今の修練場を終えたら“エゴ”に至るはずだよ、そうすれば新たな稼ぎ場が……」
ミィルの言葉の途中でルパが遮るように声を出す。興奮すれば人の話を聞かなくなる性格は強制しなければならないと考えている。
「それを早く言ってくれっての! そうと決まれば、早速ダンジョンに」
「リッジ、ルパの頭が冷えるまでユニオンホームで大人しくさせておいてくれるかい?」「一応僕も責任を感じているんで素直に従います。よくわかんないけど」
よくわからないリッジは、触れてもいないのに歩く方向へ誘導するかのように見えない何かでルパを引きずるようにその場を去っていった。
「あれ、なんだったんだろうな」
「は、はは、何なのでしょうね?」
ホームには戻らずに翠火の隣に座っているアキラはその様子を見ていたが、リッジの言葉とそれどころでは無くなったルパは気づくことが無かった。
「んじゃ、俺寝るよ。おやすみ」
「はい、おやすみなさい。ナシロとメラニーもおやすみなさい」
『ナァ』
「……」
「メラニーはいつまで胸張ってるんだ」
「ア! キツネ! オヤスミ!」
胸を張っていると喋れなくなるのか、メラニーはアキラに促されてから気がついたかのように挨拶する。
それにあれほどアキラが激しく動いたのにメラニーは胸を張ってアキラの肩に止まったままだ。ホバリングと似た何かの力が働いてるとアキラは予想して不思議なメラニーを尻目にホームへと歩いて行く。
(よくわかんない奴は好戦的じゃ無さそうだけど、あのライオン、絶対人に迷惑掛けるタイプだな。ミィルとかいうのがどうやってか知らんが、あの暴れライオンに首輪みたいなのを掛けてるようだし一先ずは安心だけど……)
アキラはこの先必ず衝突は避けられないと確信していた。
そう言ったのははやり過ごせばいいだけなのだが、自身の道を塞ぐ障害に対して腰を折るつもりは微塵も無いアキラの性格が、トラブルの絶えない日々に繋がるのは避けられないのかもしれない。
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