第35話 生還


 階段を下りきったアキラは、どこか見たことのある場所に立っていた。


「ここってボス部屋か?」


 アキラがゴブリン・コマンダーを屠った場所だと気づく。そして耳元からまたしても声が聞こえる。


「そうです。クリアおめでと……」

「ふん!」

「ハッ!」


 再び耳元で囁くロキの声がした瞬間、アキラは遠慮無く背後に向かって再び肘打ちをするが、ロキは華麗にブロックする。


「まだまだ!」

「やめてくださいまし!」


 アキラはまた投げようと首に手を回そうとするが、これもブロックされる。


「せい!」

「ぎゃ」


 ブロックされた瞬間、身体を回してロキの足を刈り、落ちてくるロキをお姫様抱っこする。抱えた瞬間、女の子が出してはいけない声がロキから聞こえる。


「……」

「……満足しまして?」

「まぁな」

「なら早く下ろしてくださいません?」

「説明してくれたらな」


 アキラはただロキに暴力を振るったわけじゃ無い。逃がさないために拘束も兼ねている。決して死にかけたり、痛みなどの私怨で意地を張って攻撃を通したわけでは無いのだ。


(絶対に許さん!)


 そう、決して。


 ロキはアキラの声を聞いてから体勢が辛いのか、アキラの首に手を回して支えにした。端から見れば微笑ましいカップルに見える。


「少し悪戯いたずらが過ぎたことは謝ります。でもクリアできたのですから良いではありませんか?」

「本当にそう思うか? チャンスは1度だ」

「しかし、結果が全てではありません」


 ロキは、アキラの脅しに即言葉を翻す。


「何か勘違いをなさっています」

「あぁ、俺もそう思ってた。やっぱお前を倒すのは勘違いなんかじゃないんだってな」

「いえ、勘違いです!」

「ざっけんな! お前俺を殺そうとしただろう!」


 険呑な雰囲気をまき散らす。お姫様抱っこを続けている方も受け入れている方も、端から見えればとんでもない状況は異質に映るだろう。


「そこが勘違いですのよ?」

「言い訳を聞こう」

「言い訳ではありません。事実です」


 ロキはアキラにお姫様抱っこという拘束をされながら解説を始める。


「殺そうとしたと言うのは語弊があります。あそこに行ってもアニマは枯渇直前で吸収を止め、貴方は部屋から放り出されて帰るだけでしたのよ?」

「……一つ良いか?」

「はい?」

「ボーナスステージなのにあの痛みは必要なのか?」

「……それは、難易度の問題で集中力を乱さないと、ね」


 ロキはこちらを向いてウインクしてくる。お姫様抱っこをして腕を首に回された状態のあざとい仕草は、可愛らしかった。


「思わず見惚れてしまうくらい可愛いな」

「フフっ痛!」

「だけど誤魔化されないし事前に言えたよな?」

「あ、足を抓らないでくださいまし! い、言わなかったのは私の性格上仕方がなく……」


 アキラはその言葉で思い出せなかった神話のロキと言う神の設定を思い出す。


「お前、悪戯が好きなんだっけ?」

「好きと言うか、性分です」

「悪いかどうかは置いといて生まれ持った性分なら仕方が無い……」

「そうですそうです!」

「わけないよな?」

「うっ」


 アキラは責め立ててから質問を重ねる。


「後、最後の質問だが、あそこの階段をもし上っていたらどうなってたんだ?」

「別にどうもしません。最初からやり直すだけです」


 ピシャリと音が聞こえそうな態度で言い切る。


「制限時間は当然」

「はい、引き継ぎます」

「ハァ、こうしてお前にも触れたからもういっか」

「あら貴方、私に惚れてしまいましたの? この美貌なら仕方が無いことかもしれませんが、でもこうやって無理矢理はいけませんのよ?」

「早くボーナスステージとやらの報酬を寄越せ」

「せっかちですのね」

「そうか、それじゃこのままお前を報酬として持ち帰るぞ」


 ロキはその言葉で若干恥ずかしそうに笑う。その仕草が可愛く見えるのと同時にイラッとしてしまったアキラは、ロキを抱えていた手を離す。


「きゃ」


 突然支えを失ったロキは小さい悲鳴を漏らす。アキラの首に抱えている手はそのままなので、綺麗に着地出来た。


「首、痛いから手離してくんない?」

「いきなり離す方が悪いんです」


 手を離したロキは自身の首飾りにしていた白と黒の鎖をアキラに手渡す。


「これは報酬とは別に差し上げます」

「なんだこれ?」

「それはご自分で“実感”してください。それではこちらのアイテムボックスをどうぞ」


 ロキが両手から差し出すように、どこから取り出したかわからない錆びたフレームの枠で出来たアイテムボックスをアキラに渡す。


「やっと終わりか……」

「いえ、始まったばかりですのよ?」

「そうだけどこのダンジョンは終わりだろう?」

「ですね」


 ロキは笑顔で相槌を打つ。そんなロキを見ていたアキラは疑問に思ってたことを尋ねる。


「所で、お前は魔物なのか?」

「こんな綺麗な魔物が居るなら見てみたいですね」

「自分で言うか」

「このクロスで作られた存在の一つとだけ言っておきます。因みに私はお持ち帰りされたいのですが、ダンジョンからは出られませんので」

「ってことは、これからもここに居るのか?」

「そうです。いつまでもここに居ます。ただ……」

「ただ?」

「出れる日が来ればいいな、とは思います」

「……」


 アキラは何も言えない。短い付き合いで少し酷い目にも遭ったアキラだが、ロキについて悪感情は抱いていない。口調の割にはふざけたノリにも合わせてくれる気の良い相手だった。


 ロキもそれをわかって、逃げずにアキラのお姫様抱っこを受け入れたのだろう。


 そんなアキラの複雑な心境を知ってか知らずか、アキラを追い出すように帰還を促す。


「さぁ、これで帰還出来るはずです。貴方にはやることがあるのでしょう? それが何かは知りませんが、目指す物の無い方がここまでのソウルアニマを備えるはずがありません」

「まぁ……な」

「ではもうお行きなさい」


 ロキの言葉に複雑な思いを感じるアキラはつい言葉が出る。


「なぁ、ロキ」

「……なんです?」

「自己紹介がまだだったよな、俺はアキラだ。そんでこれが俺の相棒オルターのシヴァとヴィシュだ」


 アキラは順番にシヴァとヴィシュを見えるように召喚する。


「まぁ、今更な紹介ですこと」

「そう言うな、ロキについては次に会った時にでも教えてくれ。俺も次はもう少し詳しく紹介するからさ」

「そうですね、次に会うのはいつかはわかりませんが、その時は改めてご紹介させていただきますね」


 自然な笑顔だが、少し困ったように微笑みながら返す。


「それじゃ、またな」

「はい、ではこれにて」


 ロキはキュロットの端を掴むと膝を少し屈めて、笑顔でアキラに別れを告げると透明になって消えていく。


(俺も、ああ言うの一度してみたいな)


 ロキの少し変わった退場方法に関心を抱くアキラだが、すぐに本来の目的を思い出す。


「……そんなことより、帰るか」


 ボーナスステージを終えたアキラは、ついにダンジョンをクリアする条件を全て満たした。その証拠に、ダンジョン依頼で受けたサブクエストには、緑のチェックが付いている。


 サブクエストをクリアした証を見て、アキラは肩の荷が下りた。


(一時はどうなることかと思ったけど……)


 初日からソウルの痛みに苛まれ、結局最後まで[器の崩壊]に苦しめられた。


 しかし[器の崩壊]で押し広げられたアニマは敵を倒せば倒す程に、自身の見えない部分で力になり、肉体の潜在能力を上げていく。


 一番苦労したアニマ修練場では、普通に生きていれば決して体験できない死を経験し、一度は心が折れてしまう。折れた心を回帰の泉と、父との忘れられない約束を思い出すことでなんとか立て直す。


 それから毎日数えるのが嫌になる程の過酷な修練を経た。そのおかげで[器の崩壊]で押し広げられたアニマは更に器は強化され、新たな力イドと作り替えられた自分の器を武器にダンジョンを攻略できた。


「それも、やっと終わる」


 帰還ゲートのある場所まで歩きながら、辛い約3ヶ月の思い出を振り返ったアキラは、近づいた目の前の対象が消えている帰還ゲートを押し開く。


 内装は簡素で白い壁と洞窟の床だ。中央にはサークルがあり、サークルの近くには入場用に使った白い玉の媒体とは別に、青い玉が台座に載っている。


「これを使えばいいんだよな」


 入場同様の手順でそれを下に落とすと、砕けた青い破片が光ってアキラを包み、その姿を消失させた。試験会場ライセンス、難易度パイオニア用帰還ゲートにはもう誰もいない。


 アキラは何一つ失うこと無くダンジョンから生還出来た。






(ん……ここは、どこだ?)


 試験会場ライセンスから脱出すると、そこは初めてダンジョンへと突入した部屋に似ていた。突っ立っている訳にもいかず、取り敢えずそこから出ると、扉の近くにギルドの受付嬢と同じ格好をした女性が待機している。


 扉が開いたのに気づいたのか、受付嬢の制服を着た女性が声をかけてくる。


「ダンジョン攻略お疲れ様でした。カードをお預かりいたします」

「え、なんで?」

「もしかしてダンジョン攻略は本日が初めてですか?」

「そうだな、初めてだな」

「見たところお一人のようですが、お仲間はまだ戻っていないのですか?」

「いや、元から俺一人だ」


 アキラは出された質問に答えていく。ギルド員らしき受付嬢は考える素振りをしていた。


「むむ、パーティではなくソロでダンジョンへと? どこかでそんな話を聞いたような……」

「そりゃダンジョン入ったのは大分前だったからな」

「大分前? 申し訳ありませんが、確認のためにもカードを確認させてもらえませんか?」

「あいよ」


 目的がしっかり理解できたアキラは特に理由を尋ねることなく、今度は素直に渡す。


「確認させていただきますね……。あ、あれ? あのアキラさんですか?」

「あの呼ばわりされる程何かした覚えは無いんだけど?」

「す、すみません。試験会場ライセンスに行ったきり、帰ってこない仮メンの方がいらっしゃると聞いて、ギルド員の間ではちょっとした話題になっていたので……」

「それであのよばわり、ね」


 女性の情報網は水面と一緒で、石と言う話題を投げ入れればその波紋はどこまでも広がる。このギルド員もその特徴ある話題を覚えていたのだろう。


「気分を悪くしたなら申し訳ありません」

「いいよ、別に」

「それでは問題ありませんのでどうぞお通りください」

「ちょっといい? カードってなんで確認するの?」

「それはダンジョンと言う特別な場所から帰ってきますからね。メンバーの人数確認やどのダンジョンから戻ったのかを、確認しておかなければいけない決まりなんです」


 人という物は何をするかわからない。けれど、それは表に出さないのが社会の常識だろう。


「そういうことか、ありがと」

「アキラさんは仮メンなので、説明はまだ受けられてないのは当然でしたね」

「ダンジョン行けるようになると教えてもらえるの?」

「はい、講習があるのでそこで注意事項などを学びます」


 アキラが異例のダンジョン攻略をする羽目になったせいで、講習を受ける猶予すら与えられなかったため、知らないのも無理は無かった。


「そうだったのか……」


 呟きながらアキラは受領所の方へと向かう。


「こんな道だったっけ? お、あったあった」


 帰還用のゲートと入場用のゲートは、位置が異なるため朧気な記憶に違和感が出ているが、それでも通っていたギルドの見覚えのあるカウンターが見えた時、アキラは少し安心した。


「やっと帰って来れたか」


 懐かしさからか、若干立ち止まってしまったアキラはすぐに受領所へ並ぶ。他にも人が居るため、時間を確認すると丁度夕方頃だった。


(久々に飯が食いたいけど、先にナシロとメラニーの所に行こう)


 そんなことを考えながら順番待ちしていると、アキラの番が回ってくる。すぐに手続きを済ませるためにカードを差し出す。


「お預かりします。……滞在1ヶ月以上? ありがとうございます、こちらお返しします」

「どうも」


 ギルド員は若干アキラのダンジョン滞在日数に疑問を持っていたが、すぐに手続きを終えてカードを返してくれる。


 良く出る行方不明者を一人一人覚えてはいられないので知らないのも無理は無い。先程のギルド員も話題が印象に残って偶然思い出せただけで、既に過去の出来事なのだ。


 アキラはホームに帰ることにした。






「仮メンの手続きは……今度にしよう。長くなったら嫌だし、もう疲れた」


 アキラは帰り道を少し遠回りして串焼きの店に行く。以前広場で食べた物で、手軽にがっつくには丁度良いと屋台まで行った。




「はぁ、うめ~」


 お金も殆ど無いため、盛り合わせを頼んだのと同量程度しか買えなかったが、今は食べれるだけ幸せだろう。


「あそこはあれ以上金を稼ぐ手段が無かったから仕方ないか、金もちょっとあるからメンバーの依頼受けれたらやってみるか。取り敢えずは帰って寝る」


 一度しか寝ていないが、恋い焦がれたホームまで着く。






「相変わらずナシロちゃんは可愛いね~♪」


 見た目女子高生程の年齢に見えるセミロングに緩いウェーブのパーマがかかった一人の女性が、ナシロを撫でて肉球をもてあそんでいた。


 そんな事をされても相変わらずナシロは無反応で、それがまた魅力の一つとなっている。


「待っても来ない人なんか忘れてさ! うちの子になりなよ~」

「…メラニー」


 その一言が切っ掛けなのか、ナシロがメラニーを呼ぶ呟きと共に、背中から現れたメラニーがナシロの首輪を掴んでどこかへと飛んでいく。


「あぁん! また振られちゃったー!」

「あんたはもう……いい加減にしなさいよ? ナシロちゃんとメラニーちゃんが可哀想でしょ?」

「えぇ、だってあんな健気な子達をほっといてるような人でなしの方が酷くない?」

「何か事情があるんでしょ?」

「事情って言ってもあんな最初のダンジョンに行ったっきり帰ってこないような人でしょ?」

「……それでも、嫌がる子達に構うのはどうかと思うよ?」


 ロングのストレートで毅然とした佇まいをしたウェーブの娘が、ナシロ達に詰め寄る女性を窘める。


 今ホームのラウンジでは、アキラを一日も欠かさず待ち続けるナシロと、ナシロの背中に体を埋めてアキラの帰りを待つメラニーが常駐している。


 そんなナシロとメラニーはホームのちょっとした名物になっている。そんな現象を起こす程人が居るのか? と言う疑問があるが、それは当然アキラ以外の他の“プレイヤー”達だ。


 アキラがギルドへ行った日の夕方頃に大勢のプレイヤー達がヒューマンのはじまりの街アジーンへと押し寄せてきた。


 当然グラン達門番は大混乱に陥った為、全てのプレイヤーが街に入る頃には既に日は完全に沈み、青い月が綺麗に見える程の時間になってしまった。


 アジーンに入るプレイヤーにも個性があり、到着するまで問題も多かった。ある者は戦う術を既に身につけ、ある者は戦う事すら出来ず、ある者は既に到着して話がかみ合わず、ある者はプレイヤーを守ったりと、人によって様々だった。


 一月経って現在生きている殆どのプレイヤーは既にギルドのメンバーになり、オルターを次の段階【イド】へと進めている者が居る。


 当然ながら、安定して【イド】を保てるかは含めていない。尚且つ、ほぼ全員がテラから指定依頼のダンジョンの試練を受けていない。あっても従わない者ばかりで、居ても帰ってこない者が多く、行方不明となってしまう。


 現在に至るまで当たり前にこの世界クロスではプレイヤーに死者も出ているのだが、この二人の女性は言動に反してそれなりに実績のあるメンバーだ。


 メンバーになった者は、寄り集まってパーティを構成した集まり、通称ユニオンを作るか、小規模ながらパーティを組んで活動するかの2つに分かれていた。


 この2つの集団に属さない者達は、このクロスに骨を埋める覚悟をしていたり、人生を諦めて命を断つ者や、違う方向で帰る道を探す者達で分かれている。


 そんな事情だが、彼女達二人は既にアジーンには居ない。最初のダンジョン【ライセンス】を雑魚扱い出来る程度には実力を付けているのだ。


 当然最高難易度で挑んだわけでは無いが、彼女達の考えでは序盤の最高難易度程度のダンジョンは難しくないと判断している。


 それが例え一度も挑戦した事が無い難易度だとしても、侮りは消えない。例え現状のステータスで挑んでもソロだとほぼ死が約束されているのを知らなくても、理解を示そうともしないだろう、その身で体感するまでは知りようも無いのだ。


 最高難易度は、目に見える強さが関係無いということを。


 そして彼女達がアジーンに居ないのになぜナシロ達が居るかというと、ホームはどの町、都市、国から行っても同じ場所に来る仕組みになっている。


 これはプレイヤー限定の話で、この世界の住人は一カ所にしかホームが存在していない。ホームを手に入れる為には新たに用意しなければならない。


 そんな彼女達の話し合いも終盤に差し掛かった。


「はぁ、程々にしなさいよ、本気で嫌がられたらここに来なくなるかもよ?」

「えぇそれは困るよ!」

「だったらあの二匹に対して失礼な事は言わないようにね」

「はぁ~い、にしても今日のアニマ修練場は心に来たよね~」

「……もー、思い出させないでよ」


 ウェーブをかけた女性は自分が不利だと悟ると途端に話題を変えてくるが、ロングの女性は話題の切り替えに何も言わないのを考えると慣れ親しんだ間柄なのだろう。


「でもクリアは出来なかったけどそこまで辛くは無かったでしょ?」

「もう……あなたはそうかもしれないけど私は全然進まなかったのよ?」


 そんな彼女達は今日2つ目のダンジョンへと行き、そのダンジョンでアニマ修練場の会話をしているようだった。当然その軽い雰囲気からアキラと同程度の修練をしたわけではなさそうだ。


 そんな時、ホームのドアがゆっくりと開かれる。


「あれ? すっごい人居るな」


 アキラの声は響かないが、アキラを見つけたナシロとメラニーは即座に反応した。


「…メ、メラ」

「アキラー!」

「…ニィー」


 気づいたメラニーがナシロの首輪掴んでアキラの元へ飛んでいく。ナシロは落ちるように引っ張られてもメラニーの名前を呼び終えるだけで、流れに身を任せた。


『べちゃ』


「おい」

「…アキラ……遅い」


 メラニーは勢いを付け、急制動をかけてナシロを手放した結果、タオルを頭から被せるようにナシロが頭に乗っかった。メラニーもアキラの肩に止まって首を突いてくる。


「オカエリ!オカエリ!」

「あぁ、ただいま」


 ほんのり暖かみを感じつつ、いつものナシロとメラニーの反応にアキラは嬉しくなってしまう。自室では無く、ラウンジで帰りを持っていてくれた二匹の友に目頭が熱くなる。


「ちょっと君!」

「……」


 そんな思いに涙が出そうになるが、喜びの再会に水を差される。しかし、アキラの耳にその声が届いても視界をナシロのお腹で覆われたアキラは、自分に声をかけられる理由が思い当たらない。


 そのせいで、相手を無視する形を取った。その胸中には「喧嘩なら今するなよ」と感動を台無しにされた第三者の気持ちだ。

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