10.恐怖!VS時計兄弟怪人
「危ないッ!」
由香利はとっさにハニカムバトンで巨大なバリヤーを張り、重三郎と早田を飛んでくる破片から守った。細かく散った破片が弾丸のようにバリヤーへ叩きつけられる中で、人影が見えた。
大柄の身体にブラックスーツを着込み、デジタル時計の顔を持つ怪人……昨日の夕方に遭遇した、デ・ジタールだった。昨日と違うのは、肩にピエロのような人形を携えているところだった。
「こんにちはぁ! ボクの名前は、ア・ナローグ。昨日はボクのカワイイ弟……デ・ジタールがお世話になったみたいだね。へえ、前のヤツと格好が似てるねぇ。ま、なんでもいいけどぉー。さてと、早速クリスタル・アルファを返してもらいたいんだけどぉ、いいかなぁ?」
ア・ナローグと名乗ったピエロ人形は言葉だけは親しげに、しかしその赤い目を怪しく光らせていた。
「それがあると、この星を僕らのおもちゃに出来るんだよねぇ。おっきいし、いろんな生き物居るしー。面白そうだよねぇ、壊したりさあ、戦争させたりとかぁー。たっくさん遊ぶんだ。飽きちゃったら最後には……どっかーん!」
ア・ナローグは腹を抱えながら、キャハハと無邪気に笑う。自分がどんな恐ろしい事を言っているのか全く分かっていない様子だった。由香利は心底恐ろしく思うと同時に、絶対にアルファを渡してなるものかと改めて思った。
「そんなこと、させない。だから、渡せない!」
由香利の叫びに呼応するように、重三郎と早田がバトン・スタンガンを構えて意思表示をする。
「えー、二人に三人って卑怯だよヒキョー。だったら僕らだって、仲間、呼んじゃうよーっ! 『トラッシュ』っ!」
ア・ナローグは叫ぶと同時に空中へ浮かび、紫色の欠片を六つ、ばら撒いた。それらは空中で光ると、黒フードを被った人影に変わり、地上に降り立った。デ・ジタールとア・ナローグを守るように、六体の黒フードは立ちふさがった。
「やっちゃえトラッシュ! ボクは暫くの間、高みの見物してるからぁ~! キャハハハッ」
「由香利! こいつらは僕等がどうにかするから、
「分かった!」
(お願いアルファ、私と一緒に戦って!)
【承知した!】
由香利たち三人とトラッシュはほぼ同時に駆け出した。由香利はトラッシュたちを掻き分けながら、デ・ジタールを目指して走った。
由香利は銅像があった台を踏み台にし、デ・ジタールの懐に飛び蹴りを食らわせるために高く飛び上がった。
威嚇するように、あるいは己の勇気を奮い立たせる為に、腹の底から言葉にならぬ叫び声を上げた。
風を切って、デ・ジタールの上半身にキックを直撃させる。デ・ジタールの身体が、斜め後ろにあったメリーゴーランドの柵へ派手に激突すると、砂埃と瓦礫が舞い散った。
由香利が着地した瞬間、埃の舞う中からデ・ジタールのベルトが由香利を捕らえようと襲ってきた。
柔軟な身体の動きで避けながら、デ・ジタールめがけて走る。
「はぁあぁああっ!」
拳にアルファの光を纏わせて思い切り突きだすと、デ・ジタールも己の腕でそれを防ぎ、隙を狙って同じように拳を繰り出してきた。拳の速さはリオンスーツがなければ、見切る事はできなかっただろう。
受け止め、交わし、跳ね返す。
全てアルファが、スーツを通してどう動くかを教えてくれているので、由香利は直感的に身体を動かせばよかった。
拳がぶつかるたびに、エメラルドグリーンの光が砕けては散っていった。
「ワ、ワ、ワタセ……ッ! ク、ク、クリスタル……ッ!!」
「いやだーっ!」
「ウ、ウ、ウオオーッ!」
繰り返される攻防の中、雄叫びを上げたデ・ジタールの一撃が由香利に直撃した。今までよりもさらに強い衝撃で、由香利の体は吹き飛ばされたが、目の前に見えた鉄骨をとっさに掴む。
そして鉄棒の体操選手のように、上に見えた足場へ飛び移ると、そこは空中ブランコの屋根だった。ふと見下ろすと、高さに足がすくんだが、地上では、重三郎と早田が黒フードを相手に乱闘している姿が見えた。
「お父さん! 早田さんっ!」
思わず由香利は声を張り上げる。
「ちぇすとぉっ! とおっ!」
由香利には訳の分からない言葉を叫びながら、重三郎は白衣を翻し、辺りにうろうろするトラッシュへバトン・スタンガンを振り回す。早田も同じように、しかし重三郎よりも正確に、バトン・スタンガンを操っていた。
「その掛け声を使うなら、一撃必殺で倒さないとかっこ悪いですよ、博士! そもそもあなた、九州出身でもないし、剣道すらやったことが無いでしょうに!」
「うるさーい! 余計なことを言ってると避けられ……うひょおっ横切ったぁああ!」
「だから言ったじゃないですか! 防護チョッキもそんなにもたないですよ!」
「ひょおおお由香利ーっ! お父さんたちはがんばるぞぉぉーっ!」
重三郎はバトンを上に掲げてこちらに向かってぶんぶんと振っていた。余裕があるのか無いのか、由香利はよく分からなくなった。
(うちのお父さんたちって、本当は凄いの?)
生粋の理系で、スポーツやアウトドアとはとても縁のなさそうなイメージがあっただけに、由香利は意外な2人の姿に内心驚いていた。
【少なくとも、異次元モンスターの雑魚相手にあれだけ戦えるのが証拠だろう。イミテーションといえ、たいしたものだ。それより、奴がここまで追いかけてきたぞ】
由香利は背後の気配に気づいた。明るい茶色のロングヘアーを靡かせながら振り向くと、そこには仁王立ちになったデ・ジタールの姿があった。
「ク、ク、クリスタル……! ア、ア、アルファァァアア……!」
デ・ジタールが雄叫びを上げ、獰猛に飛び掛かる。既に錆びている鉄骨は、デ・ジタールのジャンプでギイギイと不安げな音を立て、ぐらりとゆれた。
バランスをとりながら、由香利は腕でデ・ジタールのキック攻撃を防ぐ。何度か攻撃を受けた後、由香利も負けじと足を振り上げ、蹴りをわき腹に叩き込んだ。ぐう、とうめき声がデ・ジタールから漏れる。その衝撃で、ついに空中ブランコの屋根が落下しはじめた。
お互い空中で落ちながらも、激しくぶつかり合ったが、地面に近づいた瞬間に、同時に離れた。
ぶら下がっていたブランコが無情にも地面に叩きつけられ、ワイヤーがまるで細い糸のように舞った。
由香利は受身を取り、地面に転がると、息をついて起き上がる。デ・ジタールの気配は消えていなかった。瓦礫の山から立ち上がるデ・ジタールの姿が見えた。
(まだ、終わってない!)
右腕を突き出し、リオンブレードを構えた。すると、デ・ジタールの身体から、紫色に光るデジタル数字が出現し、身体全体をらせん状に取り囲んだ。そして両腕を横に広げ、手をしなやかに動かす。
すると、浮遊したデジタル数字が鎖のように、デ・ジタールの両腕に絡みつき、紫色の光の輪となって輝いた。
手首をスナップし、輪を宙に浮かせ、人差し指でくるくると回し始めた。
【まずい、
デ・ジタールが腕を振りかぶり、高速回転するチャクラムを投げた。1つだったチャクラムは、突然空中で無数に増殖し、ジグザグしながら由香利へと襲い掛かる。由香利はチャクラムの動きを把握しながら、ブレードで跳ね除ける。
足をしなやかな動きで後ろに伸ばし、背中を逸らせ、チャクラムを避けつつブレードを振るって払う。しかしチャクラムの攻撃は止まず、バリヤーをすり抜けた刃が、由香利の頬を掠った。
(これ以上は、防げないっ……!)
防ぎきれなかった複数の刃が自動バリヤーとぶつかり合って砕け、由香利は衝撃によって後ろへ跳ね飛ばされた。
由香利の身体は飛び石のように地面に叩きつけられ、砂埃が舞う。由香利が立ち上がろうとすると、突然首根っこを捕まれ、持ち上げられた。
デ・ジタールの腕を掴み抵抗するが、ついには投げ飛ばされ、再度地面に叩きつけられた。
それでも由香利は、落ちていたブレードを手にして、よろよろと立ち上がった。
たとえスーツが優秀であろうとも、すべてのダメージを吸収してくれる訳ではなかった。息は荒く、体力は減り、疲労も感じていた。しかし、由香利は負けるわけにはいかなかった。バリヤーは由香利の身体を直接傷つけないように守ってくれているし、闘志の炎は消えていなかった。
由香利はブレードを強く握り、デ・ジタールをきっと睨むと、弾丸のように突進した。ブレードをさらに大きくし、由香利の身長よりもはるかに大きくなった瞬間、地面を蹴って大きく跳躍。風を切り、デ・ジタールの脳天めがけて、由香利はブレードを思い切り振り下ろした。
攻撃を察知したデ・ジタールは、即座にチャクラムを放つが、ブレードから放たれたエネルギー波が全てをかき消して、見事デ・ジタールに直撃した。
デ・シタールは、甲高い悲鳴を上げながら、エメラルドグリーンの炎に包まれた。
由香利はバランスを取りながら着地した。デ・ジタールの身体が崩れていく様を眺めながら、初戦に勝利したことを実感し、大きく息をついた。
ふと、炎の中に、ひときわ明るい青色の輝きが見えた。
【あれが異次元モンスターの核である、リオンクリスタル・ベータの欠片だ。今のうちに回収をしよう。新たな異次元モンスターが生まれてしまう前に】
(分かった)
ベータの欠片へ手を伸ばし、触れそうになった瞬間だった。空から降ってきた鎖がすばやく欠片を掠め取っていった。一気に由香利の血の気が引く。空を見上げると、そこには欠片を手にしたア・ナローグが居た。
「ああ、ああ、可哀想な僕の可愛い弟、デ・ジタール! ボクと一つになって、アイツをやっつけちゃおうねぇー!」
ア・ナローグはデ・ジタールの核だったベータをごくりと飲み込んでしまった。
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