6.アルファ教えて!不安な気持ち

 由香利が風呂に入るために部屋を出ると、夜の冷えた空気が頬を撫で、由香利の身体を震わせた。廊下には、裸の電球がおぼろげな光を放ち、古い木の匂いが充満していた。まるで時を巻き戻したかのようなレトロな雰囲気に、由香利は小首をかしげた。

「なんか、古い建物みたい……」

「前の研究所が六年前に焼けてしまって、新しい研究所を探しているときに、見つけたんだ。あまり人が寄ってこない、山奥っていう条件にはぴったりだったから、ちょうどよかったんだよね」

 言われてみれば、ここはしんとしていて、車の走る音も全くといっていいほど聞こえてこない。それだけ街とは離れている事に、由香利は今更気づいた。

 早田の後を追って階段を降り、浴室まで案内してもらった。建物の内装よりかは近代化されているそこで、簡単にお湯の出し方などを教えてもらった。早田が退出した後、由香利は目が覚めてから初めて人心地がついたかのようにため息をついた。

「早くお風呂入ろうっと」

 いそいそと服を脱ぎ、脱衣カゴに入れようと中を覗くと、そこには由香利のお気に入りのパジャマとお気に入りの入浴剤が入っていた。

(早田さん、やっぱり優しい)

 入浴剤を手にした由香利は、早田の気遣いにうきうきした気分で風呂場のドアを開けた。湯気の立ち込めた風呂場に入り、湯船に入浴剤を入れると、あたり一面に良い香りが充満した。

 身体と髪の毛を洗った後、湯船に身体を沈めると、たまっていた緊張や疲れがお湯に溶け出していくような感覚に包まれ、暫く、心地の良い湯に身体を任せた。

 しかし、ふと一人だと気づいた瞬間だった。

 これから始まる戦いのことを思い出し、心の底が冷えるような気分になった。今までの高揚していた気分は吹き飛んでしまって、急に心細くなった。

(大丈夫、お父さんや早田さんも、アルファだって……)

 そう自分に言い聞かせても、不安はぬぐえない。さらに暴れだした不安と戦うために、膝を抱えてうずくまった。歯を食いしばり、選択したのは自分だと言い聞かせながら。

【泣いているのか】

 アルファの声にはっとして、顔をあげる。お湯と涙が一緒になって、自分が涙を流していることが分からなかった。乱暴に目をこすって、涙をぬぐう。

(なんか、さっきまですごく自信満々だったのに、急に力が抜けちゃった。本当に、私が戦えるのかな、やれるのかなって、途端に不安になっちゃった)

 アルファの気遣う声に安心した由香利は、偽ることなく本心を話した。

(私、いじめられっこだったし、今でも恩ちゃんに頼ってばっかり。アルファの光はとても力強くて、暖かくて、私でも出来るかも、って勘違いしてるのかも、しれない)

【私は、君と繋がっている。だから、君は自分の生体エナジーを、非常に効率よく、リオンスーツのエネルギーに出来るのだ。つまり、私の力は、君の力とも言い換えることが出来る。そうあるが故に、君が強い意志を持てば、強大なパワーを発し、逆に君の意志が希薄であれば、私は力を発揮できない】

(でも、アルファは私を守ってくれたでしょ?)

 モンスターに襲われたときのバリヤーを思い出して、由香利はたずねた。

【私はを持っているが、人間ほど複雑ではない。君を守るという、そのただただ強い意志がクリスタル・アルファに結び付き、私の意思が生まれたのだ。あの時は、覚醒したショックもあって爆発的な力が生まれたが、今後はそうは行かない。私はいわば、大きな薪を起こすための種火でしかない。君は、力をコントロールする術を身につけなければならないのだ。燃え上がった炎を持続し、操る術を】

(力を、操る……)

【それが出来ないと、力の暴走が起こる。君を守るための力が、逆に君や、そして君が守りたいものに対しても、牙を向くことになる】

(そんなの、絶対に嫌)

 由香利の脳裏に、倒れた恩の姿が浮かぶ。そして、未だ病院に居るだろう彼女のことを思うと、胸が痛んだ。

【そうならないために、明日行う訓練をしっかりやろう。それが、君の自信に繋がり、本当の力となる】

【君が信じれば、必ず私は応えよう。約束する】

 由香利は胸の奥がほんのり暖かくなるのを感じた。一旦怯えた心が、だんだんと自信を取り戻しているのが分かった。

(うん、約束。私も、アルファを信じる)

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