第五呪 盲目のハチワレ
「助かったのだ。この屋敷は居心地がよいが、気を抜くと他の
「気を抜くって……寝ちゃってただけでしょ?
番長猫屋敷の庭にぽつんと置かれたベンチに座る少女と一匹の猫。僕の共犯者の
二人が座るベンチは薄緑色の木造で、横幅がそこまで長くなく老朽化によって所々木がささくれている。僕はベンチの前に立ち、ベンチに座る二人……一人と一匹を眺めている。
「仕方ないだろう、吾輩は猫である。猫は寝子とも書いて、一日に何時間も眠る生き物なのだ」
「言い訳はいいよ
「そうだよ
「何を言うか! 吾輩のヒゲセンサーに反応があったから屋敷に来たのだ! 何も
「良いか
「右のヒゲが幸運センサー、左のヒゲが不運センサーだっけ? それがどうしたんだよ」
「吾輩の右ヒゲ、つまり幸運センサーがこの屋敷に働いたのだ。きっと今日はこの屋敷に居ればいいことが起こるぞ」
「
「
「え? こうですか?」
崩れる寸前に立ち上がった
「んにゃあ!?」
「うわっ、だ、だいじょうぶ
ベンチは地面に対して角度の緩いVの字になるように崩れたので、
「にゃぁ……おい
「ごめんごめん、言うのが遅かったよ」
「
「まぁまぁ
顔を舐める彼女の身体についた木片を
「まったく……もういいよ
「あ、そう?
「また今度いっぱい触らせてあげるから」
猫の姿になれる。それが
彼女の身体が光に包まれる。随分とあっさりした表現だとは思うが、それ以外に言葉が見つからない。彼女の猫型のシルエットが見えなくなるくらいまでに真っ白な光が球状に彼女を覆ってしまうのだ。一体どういう風に変化していくのかは光に阻まれて見ることが出来ない。そして球状の光は猫一匹がおさまる小さなものから、どんどんと大きく膨らんでいき、人一人分が入るくらいの大きさになっていった。きっと人型への変化が中では終わっているのだろう。白い光が薄らいでいき、人の輪郭がはっきりとしてくる。
光が完全に消え去ると、そこには
「―――ふぅ、身体が重い」
「しばらく猫の身体に慣れちゃうと、重く感じるのもしょうがないね……なんてったって体重が十倍くらいになるんだもん」
「吾輩はもともと痩せているはずなのだが……それでも重く感じてしまうものだな」
「……それで
「残念ながら方法はまだ見つかってないよ。けど手がかりみたいなのはお前も知ってるだろ?
「あぁ、学校で流行ってるあれか……確か、怪しげな研究機関の話だったか? あんなもの、七つに合わせるためにでっちあげた架空の話じゃないのか?」
「僕だってそう思ったよ、けど
「よし、わかった。吾輩と
本当はそうしたいところなんだけどな。実際、僕は自分の呪いを解くのにあまり積極的じゃないから、そのために行動するのも面倒だし。そう、だから僕が行動するのは僕のためじゃない。共犯者のために行動するんだ。僕は他人の不幸を喜ぶなんてことをする趣味は無い。それどころか困っている人がいたら助けてあげたいと思うくらいに善良だ。だから行動する。他人の為に。
「―――
■
目の見えない
「ね、ねぇ
「なに?
「……あ、あの……手を繋いでくれるのはありがたいんだけど……その……て、手つきが……」
「えー、だって
「うー……」
「……それより、どうするの。
「大丈夫。あの男のところに、
「あー……
「それも大丈夫。
そう言って、搦鮫嘛气は瞼を開いて光の無い瞳を晒す。
「それよりもどうして、呪錄は蜂惑のところへ向かうんだろう?」
「どうしてって、別れるときに言ってたじゃない。蜂惑自身は呪錄さんに友好的だから、少しでも情報が貰えるかもしれないって」
「『理由』じゃなくて、その『意思』の働きのこと。彼は蜂惑に対して敵対心を抱いているはずでしょ?」
「……もしかすると」
盲目の猫人間と、略奪されし少女は不穏な表情を浮かべて黙り込む。
まるで思い通りに事が運ばずに、ふて腐れる子供のように。
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