第四呪 奪われた物、奪う者
「で、なにか分かったのか?
「全然だめですね……手がかりならあるんですけど」
僕は今日、珍しく外出している。引き篭もりの僕は、一週間のうち六日は家にいるのだが、一日だけ、一日だけ彼女に会うために外に出る。彼女と会う約束をした公園に来て、ベンチに座って話をしている。
彼女の名前は
引き篭もりの僕がどうして
僕に呪われた体質があるように、
奪われる体質というのも変な言い回しだが、彼女の症状は明らかに「呪い」なのだ。病気なんかでは決してない。彼女は何か月かに一度、突如として自らの何かを正体不明の何かに奪われてしまう。突然に消えてしまうのだ。
僕は一度、
「知ってますか
「
「はい。石柄の七不思議って言われてるんですけど……私の通ってる高校でも、すごい流行ってるんですよ」
① 日中に現れる幽霊トラック
② 人間を実験材料にしている秘密組織
③ 噂が現実になる噂
④ 吸血鬼の吸血鬼による吸血鬼のための夜店
⑤ 竜の掟
⑥ ろうごくさん
⑦ 呪われた体質
「―――っていう七つが、都市伝説みたいな感じで噂になってるんですよ」
「都市伝説ねぇ……眉唾だけど、僕らの体質の事が組み込まれてる時点で、単なる噂ってわけじゃないみたいだな……というか、誰がこんなこと言い出したんだろう」
「火の無いところに煙は立たないって言いますもんね。それで注目してほしいのは②の噂なんです」
「人間を実験材料にしてる秘密組織……? これはまた、根も葉もない噂だな」
秘密組織とか、裏社会の暗部とか、僕も中学生の頃はいろいろ妄想したもんだ。この世のどこかには全ての社会を裏から操っている秘密機関が存在していて、その機関と日夜戦っているヒーローがいる……なんて馬鹿げた妄想だ。
だけれど、この秘密組織はきっと本当に存在しているのだ。この七不思議は面白半分の噂話じゃない。なんて言ったって、本当に存在している⑦の項目。これがあるから、逆説的に他の噂も実在しているにきまっている。
「どうもこの②の組織、超能力じみたものの研究をしているらしくて……簡単に言えば、超能力人間を生み出そうとしているとかなんとか」
「もしかしてそれが、僕たちの呪いに繋がっているかもってことか」
「そうです。根拠は何もないんですけど……
「いや、
「ええ……クラスは違いますけど」
「じゃあ
以前、僕を殺そうとした
僕も出来ることならこの呪われた体質とおさらばしたい。だけど
それに、僕自身は出来ることなら呪いを解きたいと言うだけで、正直そこまで積極的にはなれない。僕はこの呪いが解けるとは思えないし、それに僕は殺人狂に縛られて生活している。あの殺人狂は呪いを解こうなんて考えてない。もし僕が彼女の方針に従わずに反発でもしてみろ、恐らく細切れに切断されて殺される。
しかし心強い仲間もいる。仲間というか協力者、協力者というか共犯者。それが目の前にいる
「ところで
「
「しょうがないな……僕たちも行こう、番長猫屋敷」
ベンチから立ち上がって、僕たちは隣り合いながら歩き出す。隣を歩く
「―――
表情の見えない
僕の眼は、モノの寿命が視えてしまう。事故みたいに偶然、突発的に死ぬ人がいたとしても、僕はその突発も含めての寿命を視ることが出来る。例えると、とても元気に生活している少年が居たとしても、その子の
僕のこの体質を
「……大丈夫、まだ死なないよ」
「……よかった」
良かったと言うが、実はそこまで安心できるものでもない。さっきも言ったが、僕の眼が視れる寿命は百日以内のものだ。もしかしたらノイズは明日から減りはじめるかもしれない。だけど、そんなことを口走っても何の意味も無い。だから僕は唾を飲み込んで黙った。
二人して黙ったまま、目的地の番長猫屋敷に向かう。番長猫屋敷は、その名の通り猫が大量に住んでいる大きな屋敷だ。番長皿屋敷にかけて、頭に番長が付いている。場所はこの公園からそう遠くはない、歩いても二十分くらいで着く距離だ。
「そういえば、
「どうなんですかって……どうもないよ、いつも殺されるかどうかヒヤヒヤしてる」
「私や
「あんなの、能力だけで言ったら人間じゃないよ。もはや化け物の域だ。
「―――さぁ、着きましたね」
「いつ見ても大きな屋敷だなぁ」
僕の家の倍以上はあるであろう大きな屋敷。所々ボロくなっていて、見た目だけでいうと幽霊屋敷と言う方がしっくりくる。なにしろ住んでいた人が居なくなってからも随分放置されたままだったらしく、そうしていつの間にか猫たちの住処になっていたそうだ。全然管理がされていないので、屋敷の中もかなり散らかっているのだが、この屋敷のノイズは99:23:59:59のままだ。少なくとも百日は取り壊されも、崩れもしないようだな。
「門が開いたまま……やっぱり
「まさか猫に埋もれてたりしないだろうな……」
開いていた門を押し、庭へと入る。石畳の通路を通り、玄関口まで歩く。ところどころ色の禿げた扉のノブを回し、中へと入る。
目に飛び込んできたのはいくつも重なり合ったノイズだった。
34:23:45:12:37:36:91:87:93:24:67:36:73:90:38:61:93:84:00:92:37:02:09:17:19:34:10:10:11:19:28:40:03:33:50:27:36:49:35:52:21:08:36:16:23:04:16:35:01:47:40:27:91:01:40:
34:38。
ノイズが重なりすぎて正確に読み取れない。日数と時間がめちゃくちゃにごちゃまぜになって視神経に伝わる。思わず僕は目を閉じる。目の前で花火の爆発を見てしまったように、目がすごくチカチカする。ああくそ。番長猫屋敷には何百という猫が住んでいるが、まさか玄関にここまで山盛りにいるとは思わなかった。
「うわぁ……猫さんが山盛り……もしかして、この下敷きになってたりしますかね?」
「うぅ……わからないけど、僕は見れないから、
「あっ、わかりました」
ごそごそと
「いたいた。
「うー……その声は
山盛りの猫の中から現れた、ハチワレの猫。
僕のもう一人の共犯者、
呪われた体質を持つ、盲目の喋る猫。
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