第一魚 ようこそ三宅島!
第5話 半神と呼ばれた存在
先ほどまで俺は小型飛行機の中にいた。なのに今は外に放り出されて急降下だ。
上空7000メートルの高さから落ちていく。気絶していない自分が誇らしい。
あのクソ親父の後先考えないゴミみたいな自己中心的な行動に巻き込まれた。
彼は俺を放り出すとき、パラシュートとスマホ、ナイフと鏡を俺に持たせた。
だからなんだよって話だ。俺はスカイダイビングの超絶初心者なんだよ。
「こんなの……どうすればいいんだよ」
パラシュートの知識なんてものは何もない。使い方なんて調べようと思ったことすらも。あ、でも、テレビのバラエティー番組で観たことがあるかもしれないな。
なんだっけ、紐みたいなのがあって、それを引っ張るんだったような。
強い風が全身を刺すように包み込む。それでも俺は強風に抗った。
体勢を整える。全身に触れ、生きるために紐と思われる何かを探した。
「あった!」
三角形の物が先端について紐を掴むことに成功した。これを引けばいいんだな――
「って、な!?」
視界が急激に白くなった。一瞬だけ驚いたが、すぐに冷静さを取り戻す。
もしかして、雲の中に突入したのか。紐探しに夢中で気づかなかった。
雲の中に入ったと言う事は、ここは上空3000メートルだと推測される。
大丈夫だ。パラシュートが無事に開いてくれれば、何も恐れることはない。
俺の計算では地上に着地し、情報を収集し、親父を探し、一発殴る。
完璧な計画だな。俺をこんな振り回したあのゴミ親父を俺は許さない。
決め顔を浮かべ、俺は思いっきりパラシュートの紐を引っ張る。
「ふっ!?」
パラシュートが開く。物凄い重力が体にかかり、全身の血が下へと引っ張られたような感覚に陥る。吐き気。目まい。痛み。あらゆる物が俺に襲い掛かってきた。
少し甘く見ていたのかもしれない。まさか、こんなになるとは思わなかった。
無事の開いたのに……。一難去ってまた一難だ。俺の体に変化が起きる。
「……」
なんだか意識が
途中まで大丈夫だと思っていたが、やはり体にかかる負担が大きいのか。
そりゃそうだよな。俺はスカイダイビング初心者。訓練も何もしていない。
薄れゆく視界の中、どうにか呼吸をしようと努力する。冷たい空気だ。
冷たいと言っても、上の方よりかは暖かいような感じがする。
意識が途切れ――
「ない!?」
雲を抜けた瞬間、途切れそうになっていた意識が物の数秒で戻ってきた。
なんとなく予想はできていた。それでも心のどこかで自分を否定していた。
しかし、目の前に広がる光景。俺の不安が確信へと変わる。
親父を恨んでいる暇はんてない。まずは自分の命を考えなければ。
雲の下に広がっていた光景。
「……島だ」
都会の『と』の字もない島。海で囲まてた丸い島が見えた。あそこが目的地なのか? 結局、親父はあそこがどこなのか俺に教えてくれることはなかった。
だが、俺の名推理によればあそこは無人島だ。サバイバルゲームなんだよ。
なんで俺を無人島に送り込むのかは不明。父の考えることなんて昔から理解に欠けることばかりだ。今更考えても無駄。考えるだけ時間がもったいない。
あの男は台風のような男だ。来たと思えば場を嵐、すぐに去っていく。
「……それより、ナニコレ」
パラシュートが強風にあおられ、180度の方向へと進み始めた。
先ほどまで俺は島の方を向いていたのだが、今は……海の方を向いている。
ここでいい情報を伝えよう。残念ながら俺は――泳げない。うん。そう。
自慢ではないが俺は海が嫌いだ。子供の頃は一人で砂場で遊んでいた。
因みにプールも嫌いだ。水泳の授業は毎回気分が悪いですと嘘を吐いて休んでいた。逃げ続けた結果、泳ぐことができない青年が育ってしまった。
数秒前まで人生において泳ぐ技術なんて必要ないと思っていたが俺は間違っていたようだ。悔い改めるよ。泳ぎって必要なんだな……。
「なぁあああああああああああああああああああんでぇええええ!」
俺は叫んだ。ヤバイヤバイヤバイ! このままじゃマジで海のドボンだよ。
なんだよこれ、なんで海の方へと向かうんだよ。このくそパラシュートが!!
パラシュートの紐を掴む。右に引いたり、左に引いたりした。頼むから動けよ。
横に移動することはあっても180度回転することはできなかった。
右に行こうが左に行こうが、海は海なんだよ。俺は島に行きたいんだ!!
これはなんていうか、とても深刻な事態だ。
俺が海を嫌う理由は『魚が嫌い』と言う理由の他に、アレルギーがあるんだよ。
小さかった頃、父の連れられてサーファーズパラダイスへと連れていかれたことがある。そのとき俺はクソ親父の掴まれ、無造作に海の中へと放り投げこまれた。
体が海水に触れた瞬間、俺の体は硬直し、
動くことはできず、沈んでいくのみ。水の中では息ができない。苦しかった。
今でも覚えている。溺れる俺を助けた人間は、親父ではなくライフセーバーのお姉さんだった。助けられた俺のことを親父は『ワハハ』と笑っていた。
彼からすれば面白いのだろうが、俺は正直死を悟っていたよ。
だから今の状況はとてもまずいんだよ。今回はあの時とは違う。
父もライフセーバーもいない。海の沈んだ俺を助けてくれる人間はいない。
「だから頼む! せめて砂浜に降り立ってくれぇえええええええええええ!」
その時は刻一刻と迫る。一度放たれたパラシュートは上空ではとまれない。
海に落ちれば俺の体は確実に硬直する。そうなれば溺死は免れない。
お願いだ。頼む、強風でも神でもなんでもいいから俺を助けてくれよ。
瞳を閉じ、紐を強く握った。もう神頼みだ。俺にはもう何もできない。
こんなことになるなら、パラシュートについて勉強しておけばよかった。
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…………………
……………
………
「……」
何が起きたのか分からない。俺は生きているのだろうか?
思考があると言うことは、生きていることを証明している。
手を動かした。広がったのはザラザラな砂特有の感触だ。
口の中には大量の砂が入っている。
俺は顔面から砂浜にでも落ちたのだろうか。
「助かった」
瞳を閉じた後、俺はどうなったのか分からない。あまり覚えてはいない。
助けてぇーと誓ったところまでは覚えている。どちらにしろ良かった。
命があればなんでもできる。生きていることに感謝だな。
上体を起こす。まずは口の中に入った砂を吐き出した。
目にもかなり痛い。瞳を閉じて八の字を描く。痛みが引いていく。
鼻にも砂が入っていやがる。相当強い衝撃だったんだな。
ポタリッと赤い血が砂浜に落ちた。確認のため額に触れる。
どうやらオデコにはかすり傷ができていた。ただの軽傷だな。
「……あぁ、最悪な体験をしたな……」
自分の心配はこれくらいにして、今度は次のステップだ。情報収集。
辺りを見回す。そこは文字通り砂浜だった。
後方には海が見える。あと少し着地点がずれていたら死んでいた。
前方には森が広がっている。無人島の広い森林だと思われる。
いや、待てよ。まだ無人島と決めつけるには早いかもしれない。
思い出せ、親父はここへ来る前、誰かと話していた。
あっ、でも、あれか。俺はその人物の声を聴いていない。
あの一連の電話は、全て親父の演技、自作自演かもしれない。
あぁーもうイヤだ。なんで俺がこんな目に合うんだよ。
「マジで無人島だったらどうすんだよ。イノシシでも狩って食えってことかよ」
そもそもイノシシすらもいなかったらどうしよう。果実でも探すか?
バカげている。俺は都会っ子だ。サバイバルなんて無理なんだよ……。
落胆する。動く気力もない。仰向けになり、砂浜に倒れ込んだ。
空を見上げる。40パーセントほどが雲で覆われている空だ。
「……」
俺の体にはまだパラシュートがくっついていた。動きづらい。
あそこから落ちてきたのか。すごいな俺。超人なのではないだろうか。
頭の中を空にする。
流れゆく雲をただただ見つめる。俺はまるで眠りについたタニシだ。
動かず。動こうともせず。何も考えず。何もせず。
「……」
そろそろ動くか。ここで呆然としていても時間が無駄になるだけだ。
上体を起こし、俺はパラシュートを自分の体から取り外した。
立ち上がり、服についた砂をはらい、ポケット中の砂を外へと出す。
「さんざんな目に遭ったな。マジでゴミクソなんだけど……」
最悪だ。
だが、いつまでもキレている場合ではない。まずは考えよう。
ここが無人島なのか? そうではないのか? そこが最も重要だ。
上空から急降下しているとき、この島の全体像が見えた。
記憶が正しければ、島には民家もあり、海辺には船があったと思われる。
車が走っていたかまでは確認することはできなかったが、とにかく人が住んでいる――もしくは住んでいたという可能性は無きにしも非ずだ。
「そういえば……」
親父は電話の相手のことを『与太っち』と呼んでいたな。
つまりここが廃島だとしても与太っちと呼ばれる男だけはいるかもしれない。
その男は何者なんだ? 知らん。サバイバルのプロか何かだろう。
とにかく今はその与太っちと呼ばれる男を探すとしよう。
彼に会うことができれば、何かしらの説明が貰えるかもしれない。
「と言うか、説明がもらえないと困るんだがな」
そうと決まれば後は実行に移すのみ。行動しなければ何も始まらない。
うん、と頷き、俺はぶちまけられていたパラシュートを引き寄せた。
引き寄せたのはいいものの、これをどうするかはまだ決めてはいない。
「一度使われたパラシュートは元の状態に戻せないしなぁ」
砂浜に捨てるのは人間としてダメだ。じゃあ、持っていくしかないのか。
見た目によさずパラシュートは重い。持ち歩くのは大変だ。
何か車みたいな乗り物でもあれば簡単に運べるのだが……。
「あ、そうだ。スマホだ」
確かカバンの中にスマホが入っているはずだ。親父に電話すればいいんだ。
希望を胸に抱き、俺は背負っていたリュックを砂浜におろす。
ジップを開き、中へと手を突っ込む。そしてスマホを取り出した。
「……あ」
取り出したのだが俺の希望はいともたやすく打ち砕かれてしまった。
電源ボタンを押しても画面は暗いままだ。まさか……壊れた?
強い衝撃を加えた記憶は――あ、あるわ。落下したときかも。
はたまた電池が切れているのかも。
充電すればいいのではないだろうか、と思ったが充電器がない。
あのクソ親父はスマホだけをカバンの中に入れていたのだ。
なんだよこれ。唯一のテクノロジーもダメなのかよ。
GPSでも使えれば、位置情報が把握できると思ったのに。
リュックの中にはナイフと鏡が入っていたが今の状況では使えない。
絶望的な状況だ。ゆくあても、ゆく方向も分からない。
いきなり八方ふさがりかよ……。ん……? ん? なんだこれ。
尻のポケットに手を突っ込むと、紙のような何かが入っていた。
とりあえず取り出し、広げてみることにした。紙の正体は――
「地図?」
とてもシンプルな手書きの地図だ。円が書かれており、三つの点がある。
中心のある点の横には『中心』と書かれており、海辺の方と思われる点には『砂浜』と書かれていた。そして三つ目の点には『目的地』と書かれている。
この地図はおそらくあのクソ親父が書いたものだろう。画力は小学生だ。
まぁ、どちらにしろ、目的地がハッキリと分かって助かった。
とにかく俺は中心に向かって歩けばいいって話だろ。
「中心……」
中心に向かうと言う事は目の前に広がる森を越えなければいけないと言う事だ。
海と比べると森は別に嫌いと言うわけではない。ただ、虫が多そうだ。
蚊に刺されるのは嫌だ。毛虫に触れるのも嫌だ。カマキリとか怖い。
森は何がいるか分からない。昆虫たちが必ずしも平和的だとは限らない。
毒針を持つ蜂とかムカデとか毒蛇とかもいるかもしれない……。
遠回りするしかないようだ。海のそって歩けば別のルートがあるはず。
パラシュートを肩に担ぎ、俺は歩き出した。すでに疲れたんだが。
「ん?」
歩き出した矢先、俺は足を止めていた。日本語が聞こえたからだ。
耳を澄ませると、風に乗って女性の声が運ばれてくる。
美しい声。落ち着いた女性の声だ。森の方から聞こえてきた。
「誰だろうか」
俺の目的地はあくまでも島の中心だ。一秒でも早くここから出るためにも寄り道をしている場合ではない。だがしかし、女の子の声の正体は確かに気になる。
もしかしたら何か知っている人かもしれない。もしかしたら与太っちかも。
与太と言う名前から男だと思っていたが、もしかしたら女の人かもしれない。
あらゆる可能性が頭の中に浮上した。そして俺がたどり着いた答えは一つ。
「確かめるしかないようだな……」
森の中には確実に誰かがいる。会話ができれば情報が収集できる。
でも、もし危ない部族だったらどうしよう。
俺は捕まり、夕ご飯のおかずにされてしまう。
ナニソレ怖い。
だが、恐れることはない。カバンの中にはナイフが入っている。
危なくなったらそれを護身用にして戦えばいいんだ。
声の主が優しい人だと信じ、俺は大きな一歩を踏み出した。
森木森木森木森 ↓ 森木森木森木森
森の足を踏み入れた。バキッと言う音に驚き、俺は後方へと下がる。
何を踏んだんだ!? と確認すると、それはただの枝だった。
不安を抱えているせいで、ただの枝にすらも恐ろしい物に聞こえる。
どうでもいい枝のことはさておき、問題は声の主だ。
視界の数十メートル先にはひっそりと佇む女性の背中が見える。
声が高く、髪も長いので、例外ではない場合、女の子だと思われる。
俺は木の後ろに隠れ、ひとまず様子を見て見ることにした。
彼女が着ていた服は制服だ。この島にある高校の制服だと思われる。
これが意味することは一つ、この島は無人島ではない。
ならば、これはあれか森に入って自然と触れ合う授業か何かか?
「……」
始めはそう思っていたが、すぐに俺の推測が間違いであることを知る。
どんなに周囲を見回しても生徒の姿は見えない。気配すらもない。
あの女子生徒は今、一人で森の中にいる。それだけならいいのだが――
「私こと、
「……」
女の子が森の中で一人でいる。ここまでは別に不思議なことではない。
もしかしたらカブトムシかクワガタが好きな系女子なのかも。
しかし問題がある。その問題があるせいで、声をかけることができない。
彼女は独り言で喋っている。見えない何かでも見えているのだろうか。
幽霊? UMA? チュパカブラかも……。あわわわ、恐ろしい。
なんだあの女。それに彼女はなんと言った? 『半神』がどうとか。
ハンシンってなんだ? プロ野球球団・阪神タイガースのことか?
親父の再婚相手はカープ女子、謎の美少女は阪神ファン。
なんだか今日はなぜか野球ファンに遭遇する日だな……。
「私は半分が神なんだぞ。全知全能を二で割ったような存在だ。クレナイ、君は頭が固いな。暴力以外の解決方法があると思うかね?」
あ、ハンシンってそっちか。なるほど……いやいやいや、納得できねーよ。
なんだあの女。自分のことを全知全能とか言っちゃう痛いヤツなのか。
しかも暴力が最高だと? 価値観が他人と異なりぶっ飛んでやがる。
確信的に、間違いなく、百パーセント、彼女はいい人ではない。
今すぐ逃げなきゃ。ここにいることがバレれば間違いなくボコられる。
なのだが、そう簡単にはいかない。ここで動くのはあまり得策ではない。
仮に変に動いて枝を踏んでしまったら、その音で居場所が知られてしまう。
今は我慢の時だ。できるだけ気配を消して木の後ろに隠れてよう。
「クレナイ。聞こえているのは分かっている。魚にだって耳はあるんだぞ」
さっきから彼女が口にしている『クレナイ』とは誰のことなのだろうか?
女性の名前にも聞こえるが、それらしき人物は見当たらない。
やはり見えない友達と会話をしているのか……。ゆ、幽霊だろうか……。
「クレナイ、黙り込むのは反則だ。今すぐ返事をしないと怒るぞ。分かるだろ、人間に飼れているピラニアは定期的にエサを与えられているので肉は食べない。しかし、アマゾンに生息しているピラニアはエサがないので仕方なく水に入ってきた存在を食べる。食べなければ餓死してしまうからな。私はそれと同じだ。答えを返さないと、餓死してしまう。だから早くお前の意見を聞かせろ」
なんだアイツ。
ピラニアの話をしていたのだが、一切理解することができなかった。
そもそもピラニアと同じってどういう意味だよ。訳が分からない。
「おい、クレナイ! 喋らないと波に揺れるイソギンチャクの刑だぞ!」
女性は地面へと手を伸ばし、何かを持ち上げて上下に揺らした。
高さ40cmくらいの茶色い何か。色から推測するに木だろうか。
やがて彼女はそれを高く掲げる。そのおかげで物体の全貌が見えた。
それは驚くことに、熊を咥える木彫りの鮭だったのだ。
北海道で製造されている民芸品・木彫りの熊の逆バージョンだ。
その光景を見た俺はウルッときた。無機物に声をかける姿に親近感がわく。
長い間、友達を作らず、孤独な人生を歩んできた俺には分かる。
あの子は友達が――いない!
名推理。東京にいても謎の島にいてもボッチはいるんだな。
一人ぼっちは全国共通・世界共通なのか。
だが、だからと言って彼女と仲良くしようとは思わない。
あの子は暴力第一主義だ。そして俺は暴力を嫌う。
だってー、痛いのは嫌だし、ボコられるのも嫌だ。
何はともあれ、沢山の情報を手に入れることができた。
この島には人がいる。生徒が通う高校がある。故に無人島ではない。
今のところはこれで十分だ。だから今はさっさと逃げよう。
見つかったら厄介だからな。俺は面倒ごとは嫌いなんでね。
木の後ろから砂浜の方へと視線を向ける。地面を見てルートを計算。
できるだけ落ち葉や折れた枝が少ない道を通りたい。
計算が完了し、歩き出そうとしたが――
「…………え?」
嘘だろ。信じられない事態が起きてしまった。本当の俺は不運な男だよ。
担いでいたパラシュートが木の枝に引っかかっていた。
引っ張ろうとしても、枝に引っかかっているので簡単には取れない。
強引に引けば、枝が折れて大きな音が出てしまう。
この場合……。パラシュートを置いていくしかないのか。
あとで取りに来ればいいんだよな。今は逃げることだけを考えよう。
パラシュートを肩から降ろす。ゆっくりと地面に置いて――
バキッ
優しく置いたつもりだったのに重さからか枝が折れてしまった。
すごい音だ。あの女性の耳にも間違いなく届いている。
いや、だが、万が一聞かれていなかったら? 希望はある。
「半神である私の背後に立つとは……いい度胸だな。率直に殺すぞ」
あぁ、もうダメだ。希望なんて物はこの世界には存在しない。
俺は殺されるんだ。こんな見知らぬ地で簡単に殺されるんだ。
きっと死体は森の中に隠され、誰も俺が消えたことに気づかない。
短い人生だったな。来世はもっとハッピーな人生を歩みたいな。
こんなゴミみたいな人生に悔いなんてない。悔いなんて……。
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