第10話 残された日記帳
どうにか親父の言っていた彼の兄の娘が経営するアパートを見つけることができた。外装は汚い。手入れは行き届いてはいない。使い古されている感がすごい。
なんだこのおんぼろアパート……? 廃墟と見間違えてしまう。
柵からアパートを眺めていると、女性の叫び声が聞こえてきた。
恐ろしいほどの断末魔だ。まるで誰かに刺されたときのような叫び。
その声は一階にある一号室、つまりは大家さんの部屋から聞こえてきた。
もしかしたら殺人鬼に襲われて命を狙われているのかもしれない。
大家さんは一応俺の従姉で、親父の兄の娘で――とにかく助ける!!
俺は柵を飛び越え、一号室へと近づく。ドアを蹴り破り中へと入った。
そして、広がっていた光景に言葉を失う。
荒らされた形跡はない。犯人はいない。何より、大家さんは生きていた。
ゲームのコントローラーを握りながら横たわるジャージの女性。
彼女が泊まっていた部屋はまるでゲーム機の宝箱だった。
のちに、殺人鬼の件が俺の早とちりで全てが誤解であったことを知る。
その後、俺は彼女に自己紹介をして、彼女もまた自己紹介をしてきた。
ここまでは普通の流れだった。しかし、彼女の一言で流れが変わる。
比良目メメさんは言う「君は漁師学校に入学するのだろ?」と。
それはクソ親父が勝手に決めたこと。俺は誰よりも魚が嫌いなんだ。
そんな魚嫌いな俺が漁師学校に入学する? ……ありえ……ない。
だからこそ俺は、ハッキリと正直に「東京に帰ります」と伝えた。
すると、比良目さんは辛そうな表情をしながら、俯いてしまった。
その意味深な発言が気になったが……俺はしょせん部外者だ。
島の問題なんて関係ない。スパルタ教育なんて知ったことではない。
だがしかし、比良目さんの悲し気な眼差しの理由が気になる。
俺は床に座り、頭を掻いた。っはぁー。少しだけならいいか。
「あの、比良目さん」
「なにかな?」
「話だけでも、聞かせてくれませんか?」
「でも、部外者である君には関係ない話でしょ?」
「まぁ、そうなんですけど。そんな意味深な表情をされたら気になって夜も眠れません。清奈の発言も気になるので……。だから、教えてくれませんか? 望んで島を出ているのなら、の『のなら』の部分を」
「そうだね。どこから話せばいいのだろうか。少し考えていいかな?」
「あ、どうぞどうぞ」
彼女はコップに入った紅茶を飲み、一息ついた。顔をあげ、天井を見つめる。
どんな話が語られるのか、俺は彼女の方を見ながらただただ待っていた。
やがて比良目さんが「そうだね」と言うと、彼女はゆっくりと語り出す。
「この島には有名な漁師学校があるんだよ。それでね、昔は沢山の生徒が通い――あ、もちろん今も沢山の生徒が通ってんだけど、今と昔とでは雰囲気が違うんだよね」
「スパルタ教育と何か関係あるのですか?」
「あれ? その通りだよ。君はそれを誰から聞いた?」
「この島の高校に通う生徒からです」
「そうなんだ。まぁ、そういうことだよ。ここ数年で学校の方針が変わった。過剰なスパルタ教育の導入により多くの生徒が夢を諦めて未来を断たれた。挫折した生徒は三つに分かれたんだよ。漁師学校に残った組、引きこもりになった組、本土へ逃げた組。本土へ逃げた生徒たちは心が壊れた状態でこの島を後にした……。あ、因みに僕は引きこもり組だよ」
「あ、はい、それは何となく見れば分かります。つまり、比良目さんは卒業生なのですか?」
「いいや、僕は中退だよ。僕も……折れた人間なんだ……」
「そ、そうなんですか……」
スパルタ教育とは言うが、どれほどのレベルなのか気になる。
脱ゆとり教育的な? 教材や勉強量が増えたとか?
さすがにそれで中退する生徒が続出するっておかしいだろ。
もともとやる気がなかった奴等なのかもしれない。
「つまり、ここにいた入居者も一人残らず都会へと逃げたと?」
「その通り。だから今は僕一人なのさ。ここの大家さんをやっているけど、残念ながら人がいないから収入はゼロ。あ、それはそうと外装が汚かったでしょ?」
「はい」
「だって手入れしてないもーん。てへっ」
「……」
シリアスな流れからのふざけた発言。この人は掴めない人だな。
ヒラメだけに……。あ、今のは忘れてくれ。なんでもない。
それよりも収入ゼロの人間がどうして大量のゲーム機を?
「どうしたのさ、僕の部屋を見合して? あ、それ?」
「はい」
「実はね、僕のお父さんが結構お金を稼いでいる人なんだよ。だから僕が働く必要なんてどこにもなーい。父にとって娘は何歳になっても可愛い存在なのだ! 僕が本気でおねだりすれば、彼は毎月お金を振り込んでくれる」
真面目に働く管理人さんかと思ったら、ただのすねかじりじゃねーか!!
このゲームもその服も、全部親父の金で買った物かよ……。
「ですが、比良目さんの親父さんがそんなに稼いでいる人なら、アナタがわざわざ廃墟同然のアパートの管理人として働く必要なんてどこにもないんじゃ?」
「まぁねー。僕もそう思うんだよね。働かなくてもいいじゃ~んって、でもお父さんが言うんだよ『働け!!』って。だから僕は毎週お父さんに嘘を吐いたんだ。ごめん、就職活動をしたけど……今度の会社も面接で落ちちゃった、って」
「面接も、会社も、全部嘘なんだよな?」
「当然さ。履歴書なんて人生で一度も書いたことないよ」
このヒラメ女、俺が今まであってきた人間の中で相当最低な部類に入る。
もしかしたら、俺の親父と同じレベルの屑かもしれない。
やはりあのクソ親父の親族か……。まともなヤツじゃなくて当然だな。
「それで嘘を吐き続けた結果、このアパートの管理人をやれと言われた」
自業自得だな。
「その日から僕はマジメに働いた。生徒に笑顔を向ける優しい管理人を目指して」
「当時はキラキラと輝いていた。それが今では?」
「僕はニート、入居者はゼロ人、アパートもボロボロで廃墟呼ばわり。アハハ」
「笑いごとではない気がするのですが」
「しょうがないじゃーん。ここに泊まってくれる生徒がいなんだからー」
「たしかにそうですけど」
「でも、僕は一人でも平気さ。一日中ゲームをやっていても文句を言う相手はいない。晩ご飯は常に一人、夜更かしもお風呂もすべてが自由」
「……」
「なんだいその目は? 文句でもあるのかい?」
「いやぁ、ありませんけど……」
彼女はとても可哀そうな人。こんな人にだけはなりたくはない。
で、話は聞かせてもらった。聞かせてもらった上で俺は関与しない。
スパルタ教育だがスパイダー教育だか知らんが興味は一切ない。
「お話、ありがとうございます。でも、やはり俺は東京に帰りますよ。もともと俺は東京出身なので。それにあそこが俺の帰る場所なので」
「そうか。でも、それは無理だよ」
「え、なんで無理なのですか? まさか、親父の俺を捕まえろと命令でもされているのですか? そう簡単には捕まりませんよ!」
「違うよ。まず、君が今日中にこの島から出られない理由は時間だよ。残念ながらもう本土行きの飛行機や船はもうないんだよ」
「マジですかぁー……?」
「超マジマジ。もうマジすぎてヤバイくらいに」
「……」
「まぁ、三宅島に来たんだ。そんな急いで帰る必要なんてないと思うよ」
「……確かに」
「つまり君は、一泊だけでもここに泊まらなければいけない」
「そのようですね」
「泊まるにはお金がかかる。これは当然のことだ」
「……」
遠回しな言い方ではあるが、何が言いたいかは大体理解できた。
要するに金をよこせと言うことだろう。仕方がいないな……。
「いくらですか?」
「んー、一万円? は取りすぎか。五千円。いや、三千円くらいでいいかなー?」
ハッキリとした金額が出ないまま、彼女はん~と考え込んでしまった。
「比良目さんって本当に大家さんなんですよね?」
「バカにしたなー? 今はこうだけど、昔はしっかりとした管理人だったんだ。当時の金額と同じ金額を取る訳にはいかないから、妥当な金額を考えているんだよ」
「へぇー」
「とりあえず、晩御飯込みのお値段だから、三千円くらいでいいかな」
「まぁ、それくらいなら」
俺はリュックへと手を伸ばし――あることに気が付いた。
そう言えば、親父が俺のリュックに詰め込んだ物の中に財布は?
ありません。あぁ、もぉおお、なんでだよあのクソ親父。
「すいません比良目さん」
「何かね?」
「実はなんですけど」
「なんだい?」
「俺、財布もってないんです。親父がリュックに入れていなかったようで」
「お金がないなら泊められないな~。でも安心して、季節は四月だよ。野宿しても死なないね!」
「嫌だなー野宿。俺は都会育ちなのに……」
「因みに大輔おじさんはリュックに何を入れたんだい?」
「たしか、ナイフと鏡とか言っていた気がします」
「なるほど、サバイバルに必要不可欠な道具貝だね。君の親父さんを貶す訳ではないけど、あの人は三宅島をなんだと思っているんだろうね」
「俺にも分からない。親父の考えていることなんて一切分かりませんよ」
ゴミ親父のことを考えながら、リュックの中身をちゃぶ台にぶちまけた。
ガチでナイフと鏡しか入っていないのか……。やはり充電器は――ない。
なんでスマホの充電器がないんだよ。俺は一番必要なアイテムだろ。
「……」
心の中で怒る。本当を怒りしかない。ねぇ、比良目さんもそう思うでしょ?
「……」
「比良目さん?」
「僕はね、今、驚きを隠せない……」
眠そうにしていた大家さんの表情が一変する。
目を見開き、キラキラと輝かせた。
うわっまぶしっ!? 彼女の目は光物かよ。
「このナイフは、カリフォルニアで生まれた限定フィレナイフ! 御年84歳のフィッシャー・ジョーが作ったとされる伝説のモデルじゃないか!」
好きなことになると途端に饒舌になる人種。比良目さんはオタクなのか。
「ら、らららららラーイ君!」
焦るあまり俺の名前がまるで藤崎マーケットのように呼ばれていた。
「すすすす、少し触ってもいいかい?」
「少しと言わず、思う存分どんどん触ってください」
ただのナイフにしか見えるが、彼女の反応は少しばかり異常だった。
相当レアなアイテムなのだろうか。なんか伝説がどうとか。
そんな貴重な品を俺は無造作にちゃぶ台にぶちまけてしまったのか。
まぁ、いいか。別にナイフに興味はないからな。
どうでもいい顔をしている俺とは裏腹に、比良目さんの目は燃えていた。
「おぉー! おぉおお! おーーー!! これは半端ない!?」
あらゆる角度からナイフを見ていた。見れば見るほど目が輝いている。
「わずか5つしか作られなかったライトモデル。しかもシリアルコード1番!? 最初のヤツとかありえない! 嘘、嘘でしょ。待って。偽物と言う可能性も――」
彼女はベッドの下からPCを取り出して起動させる。
こんなに俊敏に動く比良目さんは初めて見た。
「それって、そんなにレアなものなんですか?」
「当たり前だろ! これが本物なら相当なレア物だよ。何せフィッシャー・ジューの作るナイフは、殆どが身内の間でしか取引されていないからね。インターネットで探しても多くが偽物なんだよ。仮に本物が出回ったとしてもそれは何千万なんだよ!」
「何千万!?」
嘘だろ。どどどうしよう。俺は何千万を雑に扱っていたのか。
俺も、ネットで詳細を検索する比良目さんの隣へと移動した。
「これはね、ブラックバスを捌くためだけに作らたナイフなの」
フィレナイフのことは俺も知っている。魚を捌くために作られたナイフだ。塩水に触れていても錆びにくいことで有名。ブレードには柔軟性があり、細身でもある。魚の骨は切れにくく、身だけを切ることができる。こうすることで骨だけが綺麗に取り出せるのだ。全て、あの憎き親父から教わった知識である。
「それで、それは……ほ、本物なんですか?」
彼女は画面に映る写真と本物を交互に見ながら入念に確認していた。
「驚愕だね。フィッシャー・ジョーの身内の情報はネットにも乗っている。しかし、彼が誰にコレをあげたかは誰も知らないんだ。君の親父さんがもっていたってことは……やはや、君の親父さんは相当すごい人だね……」
彼女は口をポカーンと開けたまま、ゆっくりとナイフを置いた。
「しかもこれ……ジョーの直筆のサインが入っている。何千万なんてくだらない。これはもはや売り物のレベルを超えているよ。僕は、こんなすごい物を素手で触っていたのか……。見れただけで満足だ。ドキドキしずぎて失禁しそうだ……」
「あげますよ」
「……え?」
「あげますよ」
その言葉に彼女は白目をむいた。比良目さんの口から魂が飛び出す。
俺はそれを掴み、口の中へと戻した。あくまでもこれはイメージだ。
再び魂が体の中へと入った彼女の目に光が戻る。
「なんだ夢か。そうだよな、くれるなんて夢のような」
「あげますよ」
「ハウッ!?」
彼女は座ったまま気絶していた。俺はどう反応すればいいのか。
とりあえず、比良目さんの肩を叩いて起こすことにした。
「なんだ夢か」
「いやいや、もうこのくだりやめません? あげるって言っているじゃないですか」
「君は今、あげる、と言ったかい?」
「はい。元はと言えば財布をリュックに入れてくれなかった親父が悪いので」
「そそそそ、そうかもしれないが。そんな貴重な物はもらえないよ!」
「ですが、お金がないと泊めてもらえないのですよね」
「たしかに僕はそう言ったが……そんな高価な物をもらっても、それ相応のサービスはできない……。こうなれば、僕は体でサービスするしかないね!!」
彼女はジャージのジップを勢いよく下へと下げた。
下は体操着――じゃなぁあああああああああい!?
俺は両手で顔を覆い、全力で彼女から目を背けた。
「な、ななな、なんでジャージの下が全裸なんですか!?」
「だってー。TKBが擦れる感触がやみつきで。快感的な?」
「そんな性癖は知らんよ! もぉおお隠してください! 目のやり場に困ります。いいですよ無償であげます。それはプレゼントってことで。俺は野宿するので!」
「野宿なんてしたら風邪をひくぞ。そういう時は人肌で温め合うのか!」
ダメだこの人。高級品を前に頭が完全に飛んでしまってやがる。
「とにかく落ち着いてくださいぁあああああああい!」
強く思った。止まってくれと願う。その思うが外へと出た。
俺の声は反響して壁から壁へ、その音は比良目さんの耳にも届く。
彼女はキョトンッとした表情で、その場で動きを止めた。
今の技は、あの時と同じだ。あじなんとかって技だよな。
自分でもどうやったかは分からないが、この際どうでもいい。
とにかく比良目さんが正気を取り戻してくれてよかった。
彼女は「ジャージ」と呟き、チャックを閉めなおす。
「すまない。少し取り乱した」
「少し?」
「いや、かなり取り乱したな。あと、野宿はしなくていいよ」
「ですが、俺はお金なんて」
「いらないよ。冷静に考えてみれば、従弟がはるばる都会から遊びに来たのに、わざわざお金を取る人間がどこにいるんだい。それより、本当にいいのかい? このナイフは特別な物なんだろ?」
「いらないのですか?」
「ほしい」
即答である。
「ジョーは僕の憧れなんだよ。子供の頃から尊敬していた」
「しつこいですね。あげますよ」
「……ありがとう。心から感謝するよ」
彼女はフィレナイフを抱きしめ、子供のような笑顔を浮かべた。親父が適当にリュックに入れたナイフが人を笑顔にできるなんて、たまにはいいことするな。
「じゃあ、俺はシャワーでも浴びてくるんで。どこへ行けばいいですか?」
「えっとねー、シャワーはそれぞれの部屋についてるんだ。君が今日泊まる部屋は、この部屋を出て、階段を上って、そこにある部屋。ちなみにこの上の部屋だよ」
「分かりました。ありがとうございます」
俺は大家さんに頭を下げた。
「あと、晩ご飯の準備が出来たら呼びに行くから、それまでは部屋でゆっくりしてなよ。慣れない地って言うのは疲れるものだからね」
「はい。そうさせていただきます。それでは、お邪魔しました」
コップの水を飲み干し、俺は立ちあがる。玄関へと続く廊下を歩く。
ドアは……なかった。そういえば、俺が蹴り飛ばしたんだった。
弁償代は親父に請求すればいいか。それくらいはしていいと思う。
その後、俺はドアのない玄関を通り、外へと出た。階段を上り、201号室へとたどり着く。ここまで来たのだが、なんだか部屋の中を見たくないな。
アパートの外装は汚い。ならば、中も汚いのではないだろうか……。
「んー」
恐れてはいる。だが、このまま廊下で立っている訳にはいかない。
ズボンの中には砂が入り、擦り傷も気になる。シャワーを浴びたい。
大家さんの部屋はキレイだったし、もしかしたらキレイかも。
覚悟を決め、ドアノブを捻った。ドアが――開く。
「つーか、鍵かけてねーのかよ……って、うわっ!?」
中は驚くほど整理整頓されており、俺の予想を大きく超えてきていた。
長年誰も住んでいなかったとは思えないほど綺麗だな。
俺は靴を脱ぎ、玄関を上がった。そしてあることに気づく。
壁にはポスターがかけられていたが、それは引き裂かれていた。
廊下を歩き、居間の方へと向かう。床には綿が散乱している。
ベッドの上にはボロボロになった状態のピンク色の枕。
引き裂かれたポスター、壊れた枕、散乱する綿……。
ここに住んでいた人間が大暴れでもして荒らしたのか。
「……ん?」
居間を見回すと、壊れた枕以外に気になるモノがあった。
それは、部屋の隅に置かれた勉強机の上に置かれたノート。
ここに住んでいた住人の日記帳的な何かだと思われる。
仮に日記帳だった場合、人のを勝手に見るのはいけない。
そんな趣味はないのだが……見たい。どうしても見たい。
俺は居間を見回す。誰もいない。大家さんもいない。
誰も見ていなければ、少しくらいはいいかなー。
それに日記帳の色はピンクだ。絶対、美少女の所有物。
可愛い女の子の夢に満ちた文章が見たい。
ゴクリッ。
再び周囲を見回す。誰も見ていないことを確認した。
準備は整った。俺はそっとノートを手に取った。
「可愛い女の子のノート……ん?」
笑みを浮かべながらノートを手に取ったが、表紙を見た途端、俺の顔から笑顔が消えた。書かれていた名前があまりにも意外がったので真剣な物へと変わる。
このノートの所有者は俺のよく知る人物で、唯一の友達の名前だ……。
ありえない。いや、ありえる? 様々な言葉が脳内を交差する。
同姓同名である可能性は? 確かにあるが、あの子の名前は特徴的だ。
そう、ノートの書かれてい名前は――
「
俺が通っていた。いや、通っている高校・東京都東雲市東雲高校の生徒だ。
彼女は高校一年生の時、変な時期に転入してきた。周りの生徒は『どうしてこんな時期に?』と尋ねるが、彼女は毎回エヘヘ~と笑みを浮かべるだけだった。
結果的に、彼女は自分がどこから転校してきたの言うことはなかった。
なので、彼女が去年までこの島の高校に通っていた可能性は十分にある。
俺は唯一の友達のことを知っているようで、実は何も知らない。
緊張感が漂い始める中、俺は彼女のつけていた日記帳へと手を伸ばす。
そして、そこに
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