第2話

 ぼくはジャズバーに行った。そしたら、自動販売機と牛が先に来ていた。ぼくはバーテンダーに最近の地図の製作はどうなっているのか聞いたが、測量ロボットが全自動で滞りなく地図データを更新しつづけているらしい。蟻に建設される新しい都市もちゃんと地図に載るそうだ。それはよかったなとぼくは思った。

 牛がいう。

「女とビールがここで手に入る」

 なるほど。ぼくもビールを飲んだ。しかし、いつまで立っても人間の女はやって来ず、雌牛がやたらとやってきては「もおおおう」と鳴いていた。牛は雌牛と次々と交尾をして、ジャズバーはなんか野性的なサファリパークと化していた。

「牛のくせにビールなんて飲みやがって」

 ぼくがぶつくさいうと、自動販売機がいった。

「ビールはすべての動物に約束された飲み物だぞ。おまえの父親のカエルも、母親の甲殻類もビールを飲んださ」

 ぼくは浴びるようにビールを飲み、牛が次々と交尾している隣で甲殻類の雌を口説いてみたが、あまりぼくと性行為をする気分ではないという。

 ぼくは怪物とビールを飲み、オリンピック建設委員会の悪口を言い合った。なぜか、この未来でも、四年ごとにオリンピックを開催しなければならないという信念をもつ怪物が大勢おり、牛や豚と一緒に百メートル走をやっていた。ぼくはそのオリンピック会場の建設費用がもったいないと文句をいい、まあ、全生物を賄うだけの生産能力が現代の地球にはあったが、いちおう文句をいい、もっと政治家はけしからんということで怪物と意気投合した。

 まあ、政治家は怪物であり、国会議事堂で遊んでるだけなのだが、このジャズバーで同席した怪物は政治家の怪物が嫌いなようだった。まあ、ぼくの人生にはほとんど関係ないこととはいえ、実はいまだに政治家の議決で蟻の建設する都市の計画が決まっているということにぼくが気づいたら、それはただでは済まなかっただろう。この巨大な地球という惑星で、自分がちゃんと選挙権をもった人間であることにぼくはついに最後まで気づかなかった。

 そして、交尾している牛を置きざりにして、ぼくは町へと繰り出した。

 ぼくは自動販売機にいった。

「人類はすべて改造されて怪物になったんだよ。だから、人間が生き残ってるとしたら、劣った醜い人間のいる場所だと思うんだよ。つまり、囚人病院だよ」

「囚人病院で醜い女を探してどうしようっていうんだ、おまえは」

「それは、まあ、いいじゃないか」

 そして、ぼくたちは囚人病院っぽいものを探してたどり着いた。そこは精神病院だった。ここも人が隔離されているのだ。

 看護士が大声で文句をいった。

「ここは病院であって、囚人病院じゃありません。治療のために療養している人はいても、閉じ込められているわけではありません」

 ぼくは、

「はいはいそうですか」

 といって通り過ぎた。怪物たちがここに集まっていて、『精神分析ごっこ』をやっていたから、ぼくはちょっと面倒くさいことになったと思った。

「牛が追いつく前に中に入ろう」

「どうやって入るんだね」

 自動販売機はそういうので、ぼくは一計を案じた。

 それはこうだ。

 ぼくはマシンガンを上に向けてダダダダダダッとぶっ放し、

「おれたちは過激派だ。この病院を占拠した」

 と宣言した。

「過激派だってよ」

「過激派はおっかねえな」

「過激派なら、マスクとかかぶってもらわないとな」

「そうだ。過激派なら、それらしくしてもらわないと困るぞ」

 と怪物たちが文句をいうから、ぼくは斧を振り上げて、受付の台をぶった切った。

「見たか。ぼくたちは過激派だからよ」

「わかった。過激派なら仕方ない。政治運動家のデモは当然の権利だ」

 そして、ぼくは受付から事務所内に入り、鍵をとってエレベータに乗った。

「この病院でお医者さんごっこをしている連中は誰なんだ」

「そういう趣味の怪物たちだろう」

 そして、隔離病棟の中に入ると、醜い女の子がいた。醜い女の子っていっても、ぼくには充分かわいらしく思えたし、怪物たちの美的基準がおかしいのだ。

「おい、おれたちはこの病院を占拠した過激派だからよ。おまえは人質だ」

 そう醜い女の子にいうと、女の子は、

「えええ、あたしは病気だから、出ていかないよ」

 といった。

「でも、過激派だから」

「過激派っぽいことして」

 ぼくはマシンガンをダダダダダッと天井に向かって撃った。

「過激派だろお」

「そうだね。過激派だね」

 そして、ぼくは女の子と交尾した。

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