第1話「知らない街角」

 揺れる。大地が、そして家全体が振動して震える。

 布団の中で目覚めた多田ただあこは、とっさに毛布を頭からかぶった。家主の稲垣いながき氏の手によるいただき物のかけじくがタンスから落ちてきたが、ケガというケガはなかった。



(ふうう。震度しんど五か六くらいかな。近くに川があったよね、このへん、津波つなみとかだいじょうぶかな? あ、ガラス窓、開けなきゃ)



 おびえて震えるあこの耳に、なにか助けを求めるような不思議な声が聞こえてきた。

 思い切って布団から目を出すと、その声は一階の部屋の窓の外からしているらしい。



『かっぱー、かっぱっぱー、かぱー』



 何とも間の抜けた、アヒルのような、しいて言えばトランペットにミュートしょうおんきをつけた感じの音色だった。それがかっぱかっぱと言っている。一体なんなのだろう?

 越してきたばかりのあこは知らない。

 急いでしたくをしているあこの耳に『かっぱっぱー』という泣き声がリフレインする。

 それはどこか物悲しく、こちらまで泣きたくなるような、胸にきゅっとくる声だった。



(なんだろう、この気持ち。なぜだか苦しくなる)



 もう一度窓の外を見れば、とうに空は白々と明けて、もくもくとした雲が青空を縁取るように広がっている。



「おはようございます稲垣さん。もう行きます。おひつとおなべにご飯とお味噌汁、あと冷蔵庫におしんこがありますからー!」



 はきはきとした調子で、二階にいる家主、あこの未成年後見人みせいねんこうけいにんに告げると、奥の方から悲鳴が聞こえた。



「七時より早く起こしてくれるなと、あれほど……」



 二階から降りてきて、だらしなく着崩したゴルチエのスーツ姿の稲垣氏に、あこは一瞥いちべつしてからすまなそうに、



「ごめんなさい、今日は用事があるので……」


「なんだよ、男かー?」


「いえ! すみません」



 言って家を飛び出した。

 あながちハズレでもなかった。

 今日はバレンタイン。五年になってから転校してきたあこにとって、クラスの女子と話題を共有するための、外せないイベントだ。

 もちろんまだ告白するような相手はいない。が、クラスの女子と手作りのチョコを味見しあう、放課後ともチョコパーティーに呼ばれている。

 あこは、家から三十秒で着く、向かいのスーパーの前の階段を登り、高架こうか道路へ出る。今日はなにか高架下こうかした美波川みなみがわから泥臭い匂いがした。



(あのかっぱっぱーっていうのも、このへんじゃよくあることなのかも、クラスの子に聞いてみようっと)



 明るく前向きなのはあこの美徳だった。そしてそんなあこを放っておかない男子がいた。



「多田、今日も来るのか? うちの神社」


「おはよう、田中たなかくん。もちろん行くよ!」



 田中勇也たなか ゆうや。同じクラスの人気者。本人が気がつかないところで隣の席が高倍率で取り合われたり、休み時間にはクラスの女子全員が率先し、話しかける理由をつくったり、順番を争ったりしていた。

 そんな勇也とは高架道路のはじっこで待ち合わせ。一緒にお稲荷さんをお参りする。



「しかしなあ、うちのもん以外のやつがこの稲荷神社を知ってるなんて、つくづくうれしいよ。ヘンだけど」



 あこが両腕を広げたくらいの、こぢんまりとしたお宮だった。鳥居とりいもさいせんばこも古びていたが、よく手入れされているのがわかる。

 あこはそんな稲荷神社が大好きだった。してきてからすぐに見つけてお参りをした。

 朝の清々すがすがしい風に、頭上の木立がざわめきをたてた。

 かねを鳴らし、心ばかりのさい銭を投げると、柏手かしわでを打つ。そんなあこの目に、いたずらっぽいくりくりっとしたまなざしが向けられる。

 あこはほんのり微笑ほほえみ返してからちょっと唇をしめした。



「うん、八幡様はちまんさまも有名どころだけれど、この町に住む、この町の守り神様だから」


「そんなえらいもんかねえ」



 言葉とはうらはらに、勇也の声はやはりうれしそうだった。

 あこはそんな勇也を見て、一瞬、不思議そうにしてからくすりと笑った。



「なあんだ、やっぱり気がついてなかったの」


「え?」


「イナリーだよ」


「イナリーってなんだよ」


「おしえなーい。でも、私には見えるの!」



 言い切るほどに不思議な感触を得る。そう、なぜだか昔から、あこには光にぞくする者の姿が見えた。



「今日も一日頑張ってきます! イナリー」



 笑顔で神社を後にするあこの後ろをついて歩きながら、勇也が相変わらず文句を言う。



「だから、イナリーってなんなんだって……」


内緒ないしょ



 と言って鳥居をくぐった後、意味ありげに、小さな境内けいだいを見返る。そこに収められたご本尊ほんぞんはめったなことでは開かれない。普段誰にも開けられないはずのおみやから、かすかな光がもれているのを、他に誰が知っていたろうか? 光はそっと手を振る。

 あこはそのご本尊にイナリーと名づけていた。だれに説明するでもない、あこだけの秘密だった。


     ×   ×   ×


 ここ印南町いなみちょうに住む小学生児童は、学区内の学校が、美波川の下流にある商業街しょうぎょうがいを突っ切ったところにあるため、交通安全上、また教育上よろしくないという大人の観念により、ひとつ駅向こうの隣町の西第一小学校にしだいいちしょうがっこうに通うことになっていた。



「田中さーん」



 高架道路のわきで待っていたのは、あからさまに年下の少女である。三人がかりでもじもじとラッピングされた袋を勇也に差し出してくる。



「これ、わたしたちでつくりました……!」


「あ、クラブの後輩だ。多田、悪い」


「もう……」


(別にことわりを入れなくてもいいのに……)



 先を歩きながら、あこはちくっと胸が痛んだ。



(なんだろう、このうしろめたさのような感じ……)



 勇也が後から追いついてきて、がさっとラッピングのリボンをほどいた。



「おっ、食いもんだ。学校へ着くまでにあけちまおう。ほい! 多田」



 あこは差し出された黒いものの意味が分からなかった。今日はバレンタインデーで、勇也が手にしているものは、たった今彼が学校の後輩からもらった推定すいていチョコレート(手作り)。



「くれるの?」


「ああ」



 意味が分からない。男子が女子に、女子からもらった推定手作りの、バレンタインデーのおくりものをあげてしまう神経が、あこには理解不能だった。



「いいの?」


「いいったら。早くしないと、次が来る」



 勇也の言った通り、それから三件くらい同様の出来事があった。勇也は満腹して、



「あー、もう当分、チョコはいらないや」



 両手いっぱいにチョコやらクッキーやらをいただいてしまったあこは、恐ろしさに震えた。

 今朝家を出た時は、まさかこんなことになるとは思いもしなかった。

 たとえば、一件目のときに、早くかばんにしまってしまえとどやしつけたならば、わりと素直な性質の勇也はプレゼントをしまったかもしれない。

 それでもし自分が、がましいと本人に思われようと、クラスの女子全員を敵に回すことより簡単なことなのだ。

 しかし、自分はそうしなかった。結果勇也の満腹中枢まんぷくちゅうすうはチョコでいっぱいになってしまったではないか。これではクラスの勇也ファンの女子に申し訳が立たない。

 しかも、中には洋酒入りのボンボンまである。



「ん……にが。これ、お酒?」



 あこは口から用水溝ようすいこうにべっと出す。もしやと思い、見てみれば、勇也の頬は真っ赤だった。

 つい、駆け寄って彼の背中をさすった。他にどうすればいいのかわからない。

 心なしか勇也の足元がおぼつかなげだ。どんなチョコレートをよこしたのだと、逆にちょっぴりせつない。

 きっと勇也のことを自分よりずっと大人だと思いこんで、あるいはお父さんにあげるつもりだったお酒入りのチョコを間違えてあげてしまったのだ。そうに違いない。 

 ここで彼が酔っぱらって事故にでもあったら、自分の責任だ。放っておけない。強く、そう思った。



(どうしよう。こんな時は……お水?)



 高架下へ下りれば、自販機がある。あこはお小遣いをにぎりしめながら、どうしようか迷っていた。



(イナリー助けて!)



 勇也をここにこうしておくわけにはいかない。

 あこが涙ぐみそうになっていると、突如とつじょ頭の上から聞き覚えのある声がした。



『かぱー。かっっぱ!』



 そして、どじゃーと泥水が局地的きょくちてきに降ってきたのであった。勇也の頭からつま先までどろんこだ。



「きゃああ! 田中くん!」


『かっぱー、かっぱっぱー!』



 ふと足元を見ると、なんとも人懐っこそうなつぶらな瞳をしたピンクの妖怪ようかいが、こちらを見上げていた。妖怪といっても超有名な、頭に皿のある河童だ。



「あなたがこんなマネを……!」



 怒鳴りそうになってやめた。どう見ても人間ではなく、普通の生き物でさえない。そんな相手があこに見えるとしたら、それは……



(光の眷属けんぞく、だ……この子、ちっちゃいけど、それなりに力を持った……ううん、この子、立派な神様なんだ)



 あこは改めておがむように礼をとる。

 どうしてこんなことになったのか、まるっきりわからないが、ここは話を聞いてみようと思った……矢先!

 ピンクの河童がいきなり消えた。

 それもあこがもらった(というより勇也が押しつけた)食べ物も一緒に。



(おなかが空いてたのかな……)



 そしてぽつんと額から鼻、頬にかけて天から雨粒が落ちてきた。

 しかし雨雲は見当たらない。どういうことだろうか?

 急な天気雨てんきあめはしとしと、降ってきて、あこはてのひらをかざしながら残念そうにこぼした。



「せめて泥が落せるくらい、たくさん降ったらいいのにね……」


「うひゃ、なんだよこりゃ。どしゃぶりか?」


「気がついたの? なら、天の助け、ううん、お恵みかもね」



 さ、行こう。言って手を引くと勇也は素直についてくる。まだ頭がフラフラとしているようで、どこかむうっとした顔つきだ。

 あこは勇也を連れて高架下の自販機でミネラルウォーターを買って飲ませた。



「ん……ありがとう。本当はかぶるほど欲しいけど」



 彼は将来お酒を飲んだら、こんな顔をするのだろうか? 自分以外にこんな無防備な姿、本当は見せてほしくはないのだけれど……。 

 こんな勇也もありかな、と思ったり、かわいいなと感じるのはやはり秘密にしておこう。



「手作りって、わりと危険、かも……」



 学校に行ってなにをどう、説明すれば理解してもらえるだろう。お酒の入ったチョコボンボンを登校中に食べたなんて、正直に言って下手をうてば、今後バレンタイン自体、学校で禁止されてしまうかもしれない。

 そんなことになったら、恋する少年少女たちに大迷惑がかかることになる。なにしろ、年に一度きりのイベントがまるまる一つ、学校から消えてしまうのだ。

 ぐるぐる考えながら、歩道を歩いて、ふと、西第一小学校前、とあるバスが音もなくすうっとバス停に入るのを見た。

 あれだ!

 あこは、必死の思いで運転手にアピールし、二人分の子供料金を払って乗り込んだ。

 一つにはこんな状態の勇也を連れて歩くのはしんどい。二つ目には、なるべく人目につかないで学校のだれかに助けを求めたい。そして突然のこの雨だ。彼女の選択は誤っていない……はずだった。

 だが、車両は構わず住宅街へ向かっていく。



「あれ? どうして第一小前を通り過ぎちゃうの?」



 あせって、運転手に救いを求めると、なんとこのバスはこのまま住宅街の北の方を通って、車庫へと向かうそうだ。

 なにもかもが初めてで、なにがなんだかわからない。

 西第一小学校前って言ったら、学校の前に着くんじゃないの? 車庫なんてそんな……きっとずっと遠くなのだ。どうやって今来た道を戻って、無事学校へたどりついたらいいのだろうか?

 パニックになりかけながら、必死で声を上げた。



「すみません、あ、あの! お腹痛いんです!」



 どうりで人気のないバスだと思った。運転手は、大丈夫かいと言って側溝そっこうわきに停車してくれた。バスはそのままアスファルトの青ずんだ道のりをゆっくり走り去った。

 あこは礼を言いつつも、自分たちが見知らぬ土地へ来てしまったことを悟って、ため息した。

 あたりは静まり返った住宅街である。あこたちの住む印南町とは反対の隣町だった。引っ越してきたばかりのあこが、心細くないわけがない。

 ぽつん、と二人でしゃがみこんでしまった。

 街路には赤い実をつけた千両や万両といった観葉植物が植えられていて、どこも玄関先にはきれいな花の鉢植えや寄せ植えが並べてあった。あたりにはゴミ一つない。

 一番近くの家には、素焼きふうの鉢が、かえるの姿をして玄関で、どでんと構えていた。ちょうど背中にシクラメンの小さな紫の花が咲いている。



「おうちにかえる、か……」



 思わずくすっと笑って、両手をにぎりしめ、決死の覚悟でその家のブザーを鳴らそうとした。わけを話して学校に遅刻の電話を入れてもらうのだ。そうだ、その手があった!

 と、そのとき。

 静かな音をたてて、大きなドアが開いた。



「気をつけるのよ」


「はーい、いってきまーす」



 出てきたのは、隣のクラスのわりと目立つ娘だった。手に大き目の紙袋を持っている。



「ん? 隣の転校生じゃない。おはよう。なにしてんの?」



 思ったより気さくな態度にひかれるように、あこはわけを話した。

 勇也がバレンタインデーのプレゼントをあけながら登校していたこと、そして勇也の様子がおかしくなってしまったこと。途中で乗ったバスでここまで来てしまったこと。



「大変だ! じゃあ、一緒に学校、へは行けないし――うちで休んでいったら? しんどいんでしょ? ママー」



 彼女はドアへと寄ると、中へ声をかけようとする。

 あこはとっさにその腕をとった。

 勇也が買い食い……じゃないけれど、登校中に食べ物を食べ歩いていたこと、そして不可抗力ふかこうりょくとはいえ、お酒を口にしてしまったことは黙っていてほしかった。



「そうね。少なくともそんなチョコをあげる小学生は問題視されるかも。でもその男の子は別に悪くないんでしょ?」



 そう言われて力が出た。二人はキッチンで休ませてもらうことにしたのだった。

 あこは勇也の鼻先をちょんとつついて、



「大体、不注意なのよ。田中くん、田中勇也くん!」



 ほとほと感心するような笑顔で、勇也はあこを見ている。顔の赤みは随分ずいぶんと引いた。



「ねえ、あこー……チョコほしー」


「んっ? な、なによ。当分いらないって言っていたじゃない。それに、私もう持ってないよ?」



 勇也がくれた甘い甘いチョコは、河童と一緒に消えたのだ。あの、



『かっぱー、かっぱっぱー』



 という、意味不明になごんでしまう鳴き声と共に。



「んんー? じゃなくてー、俺あこからバレンタインのチョコほしー……」


「えっ? た、田中くん?」


「だめかなー、くれないよなー……きっと」



 多田という苗字みょうじ呼びから、あこへと変わっている。そんな勇也は見たことがない。



「別に……そんなことは、ないん、だけ……ど」



 しまった。義理チョコくらい、用意しておけばよかった。後悔しつつも、やはり自分があげたチョコをあんなふうに誰かに横流よこながしされるのは、想像するだけでせつなかった。

 そのとき、ミネラルウォーターのびんを持った、隣りのクラスの女子の明るいお母様がキッチンに入って来た。



「だいじょうぶ? あなたずいぶんモテるのねえ」


「え? あ、あの! 私はそんな!」


「まだなにも言ってなくてよ?」



 くすくすと笑われて、耳まで真っ赤になるあこ。自意識過剰じいしきかじょうと言われているようで、恥ずかしかった。



「あの、すみません! 学校には言わないでください」


「なにが? ああ、あなたがこんなカッコイイ男の子にモテモテだってこと?」


「い、いえ。そうじゃなくてですね……」



 勇気をしぼりだすように言ったのに、軽妙けいみょうにかわされてしまった。こんな高級そうな住宅街に住む小学生のお母様とは、みんなこうなのだろうか?



「モテモテで困るのは、田中くんの方なんです……」



 あこは仕方なく事情の半分を話した。河童と泥んこのことは黙っておいたが、それしか方法がない。



「そう……でも、そういうことなら、やっぱり学校へ一度話しておくべきだわ。来年も同じことが起きたら大変でしょう?」



 もっともな話だった。



「で、でも。せっかくバレンタイン、楽しみにしている娘がいるのに、そんなの不公平だと思うんです。たった一回のあやまちで……」


「でもね、考えてみて。あなた登校難民とうこうなんみんになりかけ、いいえ、もうすでになっているでしょう。ここまで大事になってる以上は、ね」



 言い聞かされてうなずきそうになるが、違う。大変な思いをしたのは確かだが、大事なのはその、チョコをくれた女の子の気持ちなのだ。それがそんな大仰に取りざたされたら、ホワイトデーを待つまでもなく(まあ、勇也は律儀に返す気があるのか、わからないけれど)玉砕するのだ。わかってほしい。



「ロマンねえ……」



 言いつのると、あっけにとられたような、そんな返事が返ってきた。



「いいわ、田中くんもあこちゃんも、元気になったら下の子たちと学校へ行きなさい。時間はまだ早いから、だいじょうぶね」


「は、はい! ありがとうございます!」


「熱は……ないようね」



 すっと勇也の額にさしのばされた手の白さにはっとさせられる。そうだ、勇也はモテる。今は仲良くしてくれるけれど、きっと将来、大人になったらこういうきれいなおうちの娘を選ぶ。そして結婚して幸せに暮らすんだ。

 元気になるどころか落ちこんでいくあこに、勇也がまた笑いかける。

 外の雨はとっくに止んでいた。


     ×   ×   ×


 春先の日差ひざしはうららかとは言い難い。

 今朝がたは北海道で雪が降ったとニュースで報じられた。



「北海道なんて、修学旅行以来、足を向けたこともないわ」



 キッチンに隣接りんせつしているリビングにいた若いお母様は、そのままぷちんとTVを切った。今は電子レンジの掃除をしている。

 どうやら、決戦は近いらしいと、なんだかわくわくするような気持ちになる。



(みんな頑張って!)



 そう、応援したい気持ちだった。



(私は、一生無理かもしれないけれど……)



 思考をそこでやめてしまうあこは、自分で怖がりだと思う。受け入れてくれている存在と、別れの日がくるのはつらい。だから、わざとほんのちょっとだけみんなのの外に身をおいて、自分で一線を引いているのかもしれなかった。



(どうしよう、イナリー。私、優柔不断ゆうじゅうふだんだよね)



 物心ついてからの記憶がそうさせるのだ。あながち彼女自身のせいとも言い切れまい。

 それにしても。

 明るい南向きの窓から庭が見える。そこの石畳に薄桃色うすももいろのぷよぷよとした影がうっすらみえる。



(なんだろう。花かな? 梅? もも? なんだかよくわからないけれど、もしかして生き物?)



 よく注視すると、ピンクの生き物らしきものが、はっとこちらに気づいて、うれしそうに寄ってきた。ところがばちん、とガラスにぶちあたってひっくり返る。どうやら実体のようだった。



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