殺す場



 ……戦場の、いや戦争の基本は殺せるやつから殺す、だ。


 武器を集め守りを固めてやる気満々なところへ突っ込むのは無謀、狙うべきは弱者だ。はぐれた小隊に補給部隊、何より優先すべきは非武装で護衛もいない民間人だ。


 それは日常生活でも同じ、やるべきことはいくつもあるなら、先ずは簡単なものから済ませるのが効率化の第一歩だ。


 ……この場合は取り囲む雑魚どもだろう。


 殺せるやつから殺す。


 なので一人目、ぐらりと倒れたくどい顔の男の首からロングソードを引き抜く。


 途端に溢れる血、衝撃か出血か痛みか、くどい顔は声もあげずに動かなくなった。


 それと同様、囲んでた残り七人も、俺を見るだけで呆然と、武器を構えることすらしなかった。


 こんなの、あの改造槍女との戦いに割って入る度胸もなさそうだが、不確定要素は嫌いだ。それにどうせ殺すなら今殺してもいいだろう。


 次の男へと突っ込む。


「おいちょっと待て!」


 慌てた声の次の男、油べったり黒髪に丸顔、個性の乏しい顔で武器は右手の鉈、だが俺に向けるは何も持たない左手だった。


 問題ない。殺せる。


 バツリ。


 下より掬い上げる軌道のロングソード、甘い踏み込みだったがそれでも個性の乏しい男の左腕を肘の手前あたりで斬り飛ばせた。


「あぎゃあああああ!!!」


 絶叫、鉈を捨て右手で無くなった左手の肘を押さえ、止血を試みながら、大きく見開いた目でマジマジと切断面を見つめる。


 その動作は速かったのに、二撃目狙う俺には一切目を向けず、結局は振り下ろしたロングソードに対しては無防備だった。


 ガパァ。


 頭蓋をかち割った音、真っ正面に垂直に、振り落とされた俺の斬撃は、右の眉まで入って脳を露出させるまでに至った。


「うぉ! マジかよマジかよ!」


 倒れた個性の乏しい男の背後の向こう、次の男は赤いトサカ髪、持っていた大きなハサミを投げ捨て、俺へ背を向けて逃げ出していた。


「待て待て待て待て待て!!!」


 足を縺れさせながら逃げる男、その先には壁と水樽しかないが、生かしておいて徳はない。


 べったり男の鉈を拾い上げ、その背中へ。回転しながら真っ直ぐ飛んで、背中の右側、肋骨のすぐ下あたりに突き刺さった。死んだかどうかは知らないが、派手に転んで動かなくはなった。


「お、お助け!」


 ガバリと伏せた次の男、両手を突き、額を床へ擦り付け、跪く。武器は無し、に見えたが実際は突いた右手に黄色の輝き、真鍮製の拳当て、ブラスナックルをはめていた。


「俺はお前に手を出さない! むしろ協力する! なんでもする! だからな! な!」


 無様で汚い命乞い、戦場でも滅多に見られないものだが、見逃された敵よりは多く見てきた光景だった。


 ロングソードを逆さに、切っ先を首の後ろに向け、体重かけて一気に突き立てた。


 ビクンビクン。


 体を痙攣させて跪き男は無駄な命乞いを辞めた。


「貴様! 何をやっているか!」


 命令口調で向かってくる次の男、俺の倍は歳くってるだろう。だが貫禄といったものは皆無だ。いわゆる坊ちゃん刈りの金髪で、太い眉を吊り上げ、気難しそうな顔を真っ赤に突進してきた。


「無駄に仲間を減らしおって! どうやってあの女を倒すつもりだ貴様! これでワシらはもうおしまいなんだぞ! わかってるのか貴様!」


 ドタドタと、明らかに素人、それも走らなくなって相当な年月を経たと感じさせるへっぴり走りだ。


 武器は釘を打つような頭の小さなハンマー、それを両手に持ち突っ込んでくる。だけども四十肩か、ヘソの高さで左右に振り回していた。


 これなら簡単に殺せる。


 思い、突き立てたロングソードに手をかけ、引き抜こうと引き上げるも、跪き男も付いてきた。


 抜けない。深く刺さしすぎた。


「貴様! この落ち度! 死んで償えばっかモンガー!」


 動きはアレなのに引き抜く隙はくれない坊ちゃん男、迫りくるに、仕方なくロングソードを諦め回避に、一歩二歩の後退で難なく坊ちゃん男のハンマーから逃れられた。


 それだけの運動、なのに数回で振りはヘロヘロに、持つ手は震え、息は上がってる。もう体力を使い果たしたようだ。


 こんなんでどうやってここまで登れて来たか疑問だが、殺すに越したことはない。


 拳を握り、振られてできた隙で一気に踏み込み、殴りつける。


「が! が! が!」


 面白いように拳が顔面を叩き、赤い顔がより赤くなっていく。


 ……殴る方も痛いんだ、と誰かが言っていたが、それは半分くらいは正しい。


 実際、こうして顔を殴る拳は痛いが、それ以上に顔を殴る喜びが湧き上がり、気持ちよくなってくる。


 だからか、少し殴りすぎた。


 もはや坊ちゃん男はハンマーを取りこぼし、顔はもうどこを見てるか不明で、足も立ってるのがやっとのようだった。


 もういい。


 片刃のナイフを逆手で引き抜き、走らせ、首を搔き切る。


 バックリな傷、だが出血は少ない。代わりに漏れ出るは息、傷口に手を伸ばそうにももはやそこまで上がらない両腕、ふらつきながら数歩歩いて、やっと倒れた。


「ひべ!」


 別の声、見れば、別の男の首が撥ねられたところだった。


 飛んで落ちて転がって、残った体も倒れたら、残ったのは俺と改造槍女の二入だけだった。


 いつの間にか他も女に殺された後だった。

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