真相の夢
「貴様は、人の心が無いのか!」
…………あぁこれは、夢だ。
それもあの時の、軍法会議だ。
「お言葉ですが将校どの」
「ここでは裁判長と呼びなさい」
「では裁判長どの、自分はあの現状において最善を尽くし、実行できたと証言します。同じ状況になれば同じことを致しますし、実行した友軍には賛美こそすれ、処罰を与えることは、恐れながら、間違いであると進言致します」
「それで貴様は、あれが最善だと抜かすのか」
「少なくとも自分と、自分の隊は全員が無事、戦線より帰還することができました」
「自分の隊が無事だった、だから問題ないと?」
「むしろ良い仕事であったと自負しております」
「貴様、心神喪失での厳罰狙いか?」
「お言葉ですが、あの時、同時に撤退していた友軍の損害と比べれば、自分の隊が行った、いえ行わなかったことが多いに助けになったと、数字は示しております」
「それで貴様は彼らを見捨てたのか!」
「それは逆であります。そもそもこれは、仲間を殺せという命令を無視したことへの責任を問うもの、ならば見捨てることが命令なのでは?」
「……念のために確認するが、貴様は、残された彼らがあぁなること予測して、行動したのか?」
「助かる見込みは無いとは予測できました」
「なら、そうなることも計算に入れての命令不実行だったと?」
「当然です」
「ふざけるな! 貴様は今! 三千の友軍が殺された罪を認めたのだぞ! にもかかわらずなんでそんなつらかったができるんだ!」
「しかし彼らは助けられませんでした」
「当然だろ! 彼らは全員が負傷兵! 自力で移動どころか抵抗もできない彼らを貴様は置き去りした! 助けず見殺しにしたんだ!」
「繰り返しますが誰一人として助けられませんでした。自力移動は当然、ー輸送路は満杯、残って防衛など論外、どうやって助けろと?」
「それが命令だ。彼らを楽にしろ。殺してやれ」
「そんな悠長なことを、無抵抗の相手でも殺すのに披露します。ましてや形成不利からの一斉撤退、心身ともに疲弊してる中で味方殺しは部下に悪影響しかありません」
「それで放置、結果が全員の嬲り殺しだ。残された遺体から相当長い時間生かされて続けてたのは確かだ。それについて言うことは?」
「あります。それこそあの状況で必要なことだったのです」
「……何?」
「敵軍から見れば撤退する我が軍はすぐにでも追撃したかったはずです。無人の前線基地など最小人数残して後続に任せて進軍したかったことでしょう。ですがあそこで三千人が嬲り殺されることで時間が稼げました。だから助かったのです」
「……貴様、人の心が無いのか!」
ループし始めた。
これがあの戦場での俺の罪だ、そうだ。
納得などできるわけがない。今でもしてない。
最善だったし、結果は良好、何より使えないゴミの処理に手間をかけてるから撤退なんてする羽目になるんだ。
言ってやりたいことは今でもあるが、これは夢、目覚めの時だ。
………………意識が覚醒する。
途端に全身への重圧、息苦しさ、耳の痛み、ゴキブリ女の下だった。
こんなのに押しつぶされて死ぬとか、笑えない。
うつ伏せの状態から手を突き、体をこじ開ける。でかいとは言え、所詮は人、動かせないほどの重量ではなかった。
それでもたっぷり苦労しながら、這いずり、引き抜き、なんとか抜け出す。
披露、ダメージ、四つん這いの状態、それでも顔を上げ、現状確認する。
遠くに転がる武器、後ろに動かないゴキブリ女、蟻はまだ見えず、すぐ側にプシュチナが立っていた。
……プシュチナ、幽霊のような、虚ろな眼差し、左手は右の肘と脇で挟んで、右手には逆手で、スティレットを持っていた。
握りと刃渡りはナイフのもので、だが刃はなく、なのに先端は釘が錐のように鋭く尖ってる。
失くしたと思っていた最初の武器、小さな手にはデカすぎる武器、弱った身には重すぎるのか、持つ手が震えているが、確かに構えられていた。
……潮時、なのはガキでもわかる。
手負い、それに中央の塔は目前、どうせ殺しあう関係、なら潮時、殺すならちょうどいい。
「……ちが、います」
念のためトドメを、という考えはガキにしてはと褒めてやりたいが、躊躇だが迷いだかで手が止まり、こうして俺を立たせているのは、やはりガキだ。
「違うんですこれは」
俺とプシュチナには明確な体格差、死んでるゴキブリ女と違って、子供を縊り殺す手間で済む。だけどもスティレットはそこそこ脅威、ここまで来て更なる手負いは避けたい。
「ちが、本当に、これは誤解で、その」
さて、どうやって殺すか。
ガチャ、とスティレットが捨てられた。
捨てたプシュチナ、踵を返して走り出す。
向かうは入ってきたドア、戻る方向、振り返りもしない全力の逃亡だった。
見事な逃げっぷり、これまで見せてた動きは演技だったのだろう。
やはり脅威、なら殺すべきだ。
…………だが、疲れた。
疲労とダメージが追いかける気力を奪い、見つめてる先、ドアからプシュチナは出て行き消えていった。
いいさ。ほっといても、どこかの変態の足止めにでもなるだろう。
今はとにかく、休みたかった。
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