グラム共和国編② 〜戸籍を作ろう!!〜

「ん、んー!! 」

 ステラは大きく伸びをしてベットから上半身だけを起き上がらせた。

「よう目覚めたか? 」

 レオが手に待った2つのマグカップの片方をステラに渡す。

「ありがと」

 ステラは礼を言いマグカップを受け取り一口啜る。


 結局、昨日2人が中央都市の正門をくぐった時には日が暮れており都市会館には明日行こうということになり宿屋で休むことにしたのだった。


「さて、ステラ起きてすぐ悪いけどさっさと都市会館に行くぞ。昨日の正門と似てあそこも混むから早く済ませるに限る」

 レオはそう言うとさっさと準備を進める。ステラも言われた通り準備をしようとしたがあることに気づく。


(あれ? もしかして私今ズボン履いてない?)

 そう今のところ布団のおかげで下半身は隠れているためレオにはバレていないがそうズボンを履いていなかったのだ。

(確か昨日布団入るときまでは履いてたから……)


 自分の用意がほとんど終わったレオは未だ用意を始めないでベットの上でもぞもぞするステラの方をあきれた様子で向く。

「おいステラ早く行くぞって言ったのになんでまだ布団入ってるんだ? 早くしないと混むんだぞ」

 そう言いながらステラの方に近く。


(ちょっとやばっレオが近づいてきてる。いつものレオならこのあと絶対にをする)


「ほらステラいつまでも布団に入ってるな」

 レオはステラのベットの布団を掴む。

「あ、ちょっと待ってレオ……」

「問答無用!! 」

 レオはそう言って勢いよくステラから布団を剥いだ。

 そうステラがズボンを履いてないことに気づくことなく勢いよく。


 布団を剥いだ結果部屋に沈黙が流れる。

「あー、そのすまん。まさか履いてな……て待て!! こんなところで祝福ギフトを使うな」

 ステラが空間から剣を出現させ手にとるのをみてレオは慌てて布団を離し部屋の外に出ようと扉の方へ回れ右をする。

「……レオの、レオのバカー!! 」

 レオはステラの叫び声を背に命からがら部屋から抜け出した。



───────────────────




 その後2人は仲良くとはいかないが並んで都市会館に向かっていた。

「なあステラはさっきは本当に悪かった。しっかり確認するべきだったよ」

 レオはこれで何度目かの謝罪をステラにする。

 ステラは相変わらず怒った様子でそっぽを向いていた。

 2人がそんな感じに歩いているうちに都市会館が見えてきた。

「ほらステラ都市会館が見えてきたぞ」

 レオは前方に見えてきた建物を指差しステラに話を振るもステラはそっぽを向いて言葉を返そうとはしない。

 そんなステラの様子にレオはため息をつき

「あーもうわかったよ。ステラこのあと何でもするから許してくれよ」

 レオのこの言葉にステラはピクリと反応する。そしてゆっくりとレオの方は顔を向ける。

「……本当に? 」

 ステラは上目遣いでレオに聞く。

 レオはそんなステラに少しドキッとしつつも顔は冷静を保ち

「ああ俺にできることなら何でも任せろ」

 と答える。

「じゃあわかったわ。許してあげるレオ。だけどその言葉忘れないでね」

 ステラはいたずらっぽくそう笑うと都市会館へ駆けて行く。

 レオはそんなステラの様子を見て『なんでもは失敗だったかなー』と頬を引きつらせ苦笑した。




───────────────────



 都市会館にはそこそこ人がいた。だが昨日のように何時間も待つほどの人の量ではなかった。

「この調子なら少し待てば手続きが出来そうだな」

 ステラはこの風景が珍しいのか辺りを見回していた。

「ライナードにはこういう役所みたいなところはなかったのか? 」

 レオは小声でステラに尋ねる。ステラは少し考え込み。

「基本ライナード王国はまつりごとや役所仕事は全部お城でやってたから一般でこういう風にやってるのは珍しいの」

 ステラはそう答える。

 そんなステラを連れてレオは1つの受付に向かう。

「グラム共和国、中央都市へようこそ。本日のご用件は何ですか? 」

 レオとステラが受付の前に立つと愛想の良さそうなお姉さんが用件を聞く。

「ああ今日はこいつの戸籍を作りに来たんだ」


「そうなんですか分かりました。ただいま資料をとってきますので少々お待ちください」

 受付のお姉さんはそう言いにっこり笑うと奥へ資料を取りに下がった。

「そういえばレオ、戸籍作りの手続きってどうやるの? 」

「ん? そういえば教えてなかったっけか」

 ステラは頷く。

「簡単なもんだよ。専用の資料に戸籍を作る本人が署名。そしてそれの見届け人として第三者の署名。それで終わりだ」


「え? それだけ案外簡単なのね」

 ステラはあまりにも簡単な手順に驚いた様子だった。

「まあ戸籍を作る人間なんてこの街に入る前にも言ったけど元奴隷やスラム出身、それにお前のような戦争孤児が大半なんだよ。まあ例外で流れ者ドリフターとかもいるけど基本金を持ってない連中だ。だから無理に金をとったりはしないんだよ」

 レオの説明に納得したのかステラは何度か頷く。そして1つ疑問に思ったことをレオに聞く。

「あ、でも第三者の署名が必要ってなるけど私はレオがいるから問題ないけど他の人の場合はどうなるの? 」

「あーそれに関してもここの職員が署名してくれるから特に問題はないんだよ」

「それはすごい良心的ね。でもそうなると誰でも簡単に偽名が作れちゃうんじゃないの?」

 ステラの疑問はもっともだがステラは1つ忘れてる。

「俺らは何をくぐってここに来た? 」

 レオのその言葉にステラは何かを思い出し納得した。

「なるほどここの街に入るのに通行許可証が必要なのはそういうこともあってのことなのね」

 すぐに答えまで導き出したステラにレオはさすがだなという笑みを浮かべる。

 2人がそうこう話している内に資料を持って受付のお姉さんが戻って来た。

「はいそれでは、戸籍を作る方はこちらの紙にこのペンを使って姓と名を書いてください」

 ステラは渡されたペンを受け取り指示に従って紙に姓と名を書く。

「それでは第三者からの署名はあなた様が書くでよろしいでしょうか? 」

 レオは頷きペンを受け取り署名を書く。


「はい、それではこれで正式にあなたの戸籍が作られましたステラ・フリューゲルさん。このあとは中央都市の観光をするのですか?それとももうでるのですか? 」

 お姉さんに聞かれレオは少し考え込むがステラが

「はい少し観光していく予定です」

 と答える。

「そうですかでは是非楽しんでいってくださいね」

 姉さんはニッコリと微笑み2人を送り出した。



「なあステラ本当に観光するのか? 」

 都市会館を出てレオは恐る恐るステラに尋ねる。

「本当よ。嫌なの? じゃあさっきの言葉は嘘なのね」

「いや、嘘ではないぞ。だが俺たち2人は一応もう死んだ身だ。だからあんまりこういう大きな街に長居するのは良くないんだが……」

 こう言われステラは少し膨れっ面になる。

「もし襲われてもレオが助けてくれるんでしょだから問題ないわ」

 ステラのどうしても観光をしたい様子を見てレオは諦め

「わかったよ。だけど長くて3日だからな」

 と条件をつけ渋々了承することにした。

「ありがとレオ」

 ステラは嬉しそうに微笑み、大通りを歩き始めた。





────────────────────



「なるほどあれがレオナード・アインテイル」

 傭兵ラピスは宿屋の中で自身の祝福ギフトを発動していた。

「本当は肉眼で見ておきたいけど今は日中だし、この街高い建物が限られてくるからなぁ」

 と1人ボヤいていた。

「にしても本当にこの祝福ギフトは当たりものだよね」

 彼女は目を閉じる。そしてしばらくしてからまた目を開ける。

「たとえ私自身が建物の中にいたとしても相手との間に障害物があったとしても相手の行動をことができるんだから」

 ラピスが現在使っている祝福ギフト距離なき視界スコープ、半径30キロ以内の対象を視認し続けることができる祝福ギフト。これには物理的な障害や距離は関係なく対象のことを思い浮かべるだけで視認することが可能。だがその間自分の近くがおろそかになりがちになるためあくまで監視などに使うのがメインである。

「にしても、会館を出たってことはもう用事は済んじゃったってことかな? そうなると妨害をしなきゃいけなくなるけど……ん? これは観光する感じかな? なら問題なさそうかな」

 彼女はそれがわかると祝福ギフトを解きベットに横になる。とりあえず今日はこの街を出ることはなさそうだから問題はないがあと5日どうしたものかと思考を巡らせながら彼女は浅めの眠りについた。



────────────────────


 ステラとレオの2人が都市会館を出て観光を始めてから結構な時間が経った。日が落ち始め辺りがオレンジ色に染まり始めていた。

「あー楽しかったわー!! でもこれでもまだまだ全然回れてないなんてほんと色々あるわねこの街」

 ステラはすごく満足した笑みを浮かべていた。

「あー、そうだな。確かに色々な店があったな……」

 ステラとは対象的にレオはグッタリとしていた。

「レオ、たったあれだけでそんな疲れてるの? 」

 ステラはグッタリしてるレオの顔を覗き込む。

「おいおい勘弁してくれよステラ。露店巡りだけでも相当回ったってのにそのあと服屋や甘味処とほんとに色々回ったのにあれだけとか言わないでくれ」

 レオはステラの覗き込んでくる顔から逃げるように顔を逸らす。

「むー、私はあんなに楽しかったのにレオは楽しくなかったの? 」

「……楽しかったっちゃ楽しかったぞ」

 ステラの悲しそうな顔を見てレオは絞り出すように答える。だが自分自身らしくないと思ったのか

「だけどさすがに限度ってものがあるだろ」

 と言葉を続けた。

 そんな風に2人で話していることに夢中になっていたらいつの間にか人通りの少ない路地に入っていた。

「大通りとは違ってここら辺は静かね」

 ステラは路地をキョロキョロと眺めながら感想を述べる。

「大きな街だとよくあることだな。ああいう賑やかな場所に人が集まりやすくなる分こういう場所は人通りが少なくなるんだ」

 レオはふと立ち止まる。ステラも不思議そうにしながらも立ち止まった。

「だからというべきか、暗くなるとこういう輩が出てくるんだよな」

 レオはやれやれといった調子で進路の先を見ると二人組の男が歩いてくる。

「おいおいあんまり金持ってなさそうなおっさんだな」

「いーやよく見ろよ隣の娘さんは可愛らしいぜ」

 二人の男はレオとステラを交互に見て下品な笑みを浮かべている。

 片方の男はガッチリとしたガタイに後ろに大剣をさしている。

 もう片方は細身だが鍛えてはいるのかそこそこ筋肉はついている。隣の男とは違って大剣のような大きな武器は持っていないが両腰にナイフを数本さしている。

 そして二人とも同じようなネックレスをしている。

「おいあんたら傭兵だろ。なんなら悪いことは言わないが下がった方がいいぜ」

 レオは一歩前に出てステラを背に庇うように男たちの間に立つ。

「おいおいおっさんがなんか言ってるぜ相棒」

 細身の男が下品な笑い声をあげながら隣の男に相槌を求める。

「そうだなこいつ俺らが傭兵と知りながらわざわざ忠告なんてするんだな」

 厳つい男もレオをバカにするような言葉をはく。

「はー、忠告したところで聞くような傭兵は本当に利口なやつだけか」

 レオはため息をつきガッカリしたような目で男たちを見る。

 そんな目で見られた男たちは黙ってるわけがなく。

「おう? 喧嘩売ってんのか? おっさんのくせに粋がってんじゃねーよ」

「相棒、こんなおっさんさっさとやっちまって後ろの可愛子ちゃんと遊ぼうぜ」

 男たちはそんなことを言うや早くレオに殴りかかる。

「あんたら傭兵なんだから少しは相手との力量を測るぐらいした方がいいぞ」

 レオは心底呆れた様子で厳つい男の拳を受け止める。そしてそのまま押し返す。押し返されたことによって体勢を崩した男は尻餅をつく。相方のそんな様子を見た細身の男はレオと相方を交互に見る。

「今のでわかっただろ。どうする? このままボロボロになるまでやるか? 」

 レオの脅し文句で何かを悟ったのか細身の男は相方の両脇に腕を回し引きずるような形でその場を後にした。



「ねぇレオなんであの男の人たちが傭兵ってわかったの? 」

 ステラはさっきの男たちとの会話でふと疑問に思ったことを口にする。

「そこらへんはまだ教えてなかったけか。さっきの男たち同じような首飾りをつけてただろ」

 ステラは少し上を向きさっきの男たちの身なりを思い出していた。

「うん、確かにつけてた。男の人なのにネックレスなんてーって思ってたからよく覚えてるよ」

 ステラの答えに苦笑しつつレオは説明を続けた。

「この街に入るには俺たちみたいに通常は共和国圏内の村からの許可証が必要なんだが例外が2つある」

 レオが何かわかるか? と視線で聞くがステラは首を横に振る。

「1つは他国の偉い人間。これはまあ講和交渉やら貿易やらで話し合いをするのにあんな行列に並ばさせて時間を使うわけにはいかないからな」

 ステラはなるほどと頷く。

「で、もう1つは傭兵だ。だけど傭兵はさっきのバカ共みたいにマナーを知らない奴らもいたりするからな。だから街の人たちにもわかりやすいようにああやって首飾りを常時着用する必要がある」

「もし外したらどうなるの? 」

 ステラはもっともな疑問を聞く。

「ああその場合はすぐに門を守っていた衛兵のような奴らに囲まれることになる。だからこの街にいる間はずっとあれをつける必要があるんだよ傭兵は。しかも傭兵だとNGって店もいくつかあるからなだから今回はちゃんと正規の手順で入ったんだ」

「なるほどーそうなのね」

「だからステラ、もしこの街を1人で行動したりすることになるなら一応あの首飾りをしたやつらには気をつけろよ」

 レオはそう言いいつの間にかたどり着いていた宿屋の扉を開ける。

「ええわかったわ」

 ステラもその後に続いた。

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