第二章 グラム共和国編
グラム共和国編① 〜中央都市へ〜
レオとステラの2人が村に戻る頃には村は歓喜の声に包まれていた。
「さっきまであんなに怯えてた人たちが嘘みたいね」
ステラは村人の様子を見て呆れたように感想を述べる。
「まぁそう言うなよ。普通はワームが出たらこんぐらいの村すぐに潰されちまうんだからさ」
そんな会話をしている2人の下に村人が3人ほど近づいて来た。
「ん? あんたらは」
その3人のうち2人は見覚えのある人物だった。
「助かったよ旅の人。あんたらのおかげで俺らの村は救われたよ」
最初に村で助けを呼び回ってい男がそう言いレオ達に礼を言う。
それに続きレオに話しかけられた青年とあと1人は見覚えのない老人も続いて感謝を述べた。
「そうそうあんたに頼まれてたグラムの中央都市への許可証を持って来たぜ」
青年がそう言うと隣の老人が懐から1枚の紙を取り出した。レオはそれを受け取り中身を確認する。
「よし、これで中央都市の面倒くさい関所を抜けられる。ありがとな」
「いえいえ礼を言うのはこちらの方です旅の方。あなた達があの魔獣を討伐して下さらなかったらこの村は今頃あの魔獣の餌食になっておりました。そう考えるとあなた方へのお礼がそれだけでいいのかと思うのですが……」
「ああ別に問題はない。俺らは元からこれが欲しいからあいつを討伐したのであってそれ以上求める気はないぜ」
レオは受け取った許可証をヒラヒラと振りながら飄々と答えた。それに続いてステラも一歩前に出る。
「そうですよ。私たちは力を持っている。だから戦った。それが力を持つものの義務だから」
「そうですか……ならせめてこのあと村の広間でちょっとした宴をやりますので遠慮なく食事などをお楽しみください」
村長たちはそう言って宴の準備をするため下がっていった。
そのあと村の広間で宴が始まった。レオとステラはそこで存分に食事をとり村人たちと共に騒ぎ夜を明かした。
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「ああ痛てて」
レオは頭を抱え痛みに悶えていた。
「飲み過ぎよレオ。昨日結局何杯飲んだの?」
ステラは呆れた顔でレオに水を渡す。レオはそれを受け取り一気に飲む。それで少し痛みは引いたのか顔色が少し良くなった。
「確か樽1つ分は飲んだんじゃねえのかな? 村の男たちと一緒にだいぶ飲んでたから正確な数はわからね」
レオはそう言いまだ二日酔いの頭痛が引かないためこめかみをおさえる。
「ほんと呆れた。宴が始まる前に明日には出るから騒ぐのはそこそこにしとけよって言ってた大人は誰よ」
ステラは村の人からもらった果実をポーチから取り出し口に運ぶ。
「悪いな。そう言っといてこのざまなのは」
レオが素直に謝るとステラはそっぽを向いて
「ふん、ま、まあ反省してるなら別にいいわ」
とポーチから自分が食べてた果実と同じ物を取り出しレオに渡す。レオはそれを口に運ぶ。
「じゃあレオ行こ。次の街に」
ステラは笑顔でそう言うと村の門に小走りで向かう。
「わかったよ。じゃあ行くか」
そんな楽しそうなステラの様子を見てレオは微笑み彼女を追いかける。
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大きなトランクを持った少女は薄暗い路地を歩いていた。
「さすが総人口300万と言われるほどの大国の首都なだけある。こんな感じの人のいない路地が少ないな」
少女は辺りを観察しながら歩みを進める。
「あんな風に人が多いと暗殺はほぼ無理。やっぱり足止めをメインであわよくば暗殺って考えがいいな」
少女は一人つぶやきながら歩いて行く。少女が向かう先は本人にしかわからない。
そして少女が通ったであろう道には正確に眉間を撃ち抜かれた死体が3つ転がっていた。
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レオとステラが村を出て1日が過ぎた。相変わらず2人は魔獣に絡まれたりちょっとした喧嘩をしたり旅人を狙った盗賊に襲われたりとドタバタした旅路を進んでいた。
「なんていうか、たった2日ぐらいの距離なのに1週間ぐらい歩いたと思えるぐらい濃い旅路だったわ」
ステラはげっそりとした顔をしていた。
「まあ確かに昨日はなかなかだったな。まさかあんな大量の魔獣に出くわすとは思わなかったぜ」
レオは肩に背負っている巾着の1つを見る。
「ねえねえレオ、あの魔獣の皮や牙をその巾着に入れてたけどどうするの? 」
ステラはレオの背負う巾着を物珍しげに眺めながら聞いた。
「ん? ライナード王国では魔獣の牙や皮を買い取る店とかなかったのか? 」
レオの問いにステラは首を横に振る。
「そうか、大抵の国では魔獣の牙や皮を資源として買い取ってくれる店があるんだよ。だから傭兵とかは小遣い稼ぎで討伐した魔獣の使えそうな素材を巾着に入れて持って帰ったらするんだよ」
「へぇーなるほど、じゃあ今度から私も持って帰るからやり方教えてねレオ」
「おいおい一応元姫さんが傭兵の小遣い稼ぎを真似しちゃダメだろ」
レオは頭をかきながら思わず苦笑いをした。
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「そーいえばレオ、結局これから行くグラム共和国の中央都市でしか取れないものってなんなの? 」
ステラは不意に質問する。
「ん? まだ説明してなかったか? 」
レオの問いかけにステラは頷く。
「じゃあついでだしグラム共和国の特色と一緒に説明してやるよ」
——グラム共和国 人口300万人ほどの大国。人間のみが暮らしてる訳ではなく様々な亜人もくらす多種族国家。政府は中央都市と呼ばれる場所にありその政府が中心となり統治している。中央都市の町並みは基本石造りの家が多く正門から政府につながる大通りが一本ある。そして数少ない奴隷制度を撤廃した国でもある——
「で、俺たちってよりはステラは今、ステラ・フリューゲルとしての正式な戸籍がない。だから政府の隣にある都市会館で戸籍を作ろうと思っているんだ」
「てことは、私のためにグラム共和国に行くってこと? 」
「ああその通りだ。戸籍がないと旅するのには色々と不便だからな」
レオがステラの質問に答えるとステラは俯き少し歩くペースが下がった。そして少し前を歩くレオの服の裾を掴む。掴んでる力はさほど強くないがレオは重みを感じた。
「あー悪いなステラ」
レオは立ち止まり振り返る。
ステラは俯いていた顔を上げる。
「大丈夫だよレオ。これは私が決めたこと。私があなたに依頼したことだものだから謝らないで」
ステラの両目は今にも溢れそうなほどの涙が溜まっていた。だがレオはその表情よりもその言葉を信じる。
「わかったよステラ。お前がそう言うなら俺はもうこの件では謝らない。だからお前ももうそんな顔するのはこれで最後にしろ」
レオの口調は少し厳しいもののその顔は優しい笑みを浮かべていた。
そしてレオはステラの頭を優しく撫でた。
ステラはしばらくの間レオの撫でる手に身を委ねていた。
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「むーさっきはレオに恥ずかしいところを見られた」
ステラは頬を膨らまし不貞腐れていた。
「まぁたまにはいいんじゃないか。久々に可愛らしいお前を見たぞ」
レオは笑いながらステラと並び歩く。
「う、うるさい!! どうせ私は普段はそこまで可愛くないですよーだ」
ステラはますます不機嫌になりそっぽを向く。
2人がそんな会話をしているうちにグラム共和国中央都市へ入るための正門が見えてきた。
「うわーすごい人が並んでるわね」
ステラの言う通り正門へ続く道にはすごい行列ができていた。
「うーん、これぐらいの人の数だと正門に着くまで2時間ぐらいかかりそうだな」
レオとステラは行列の最後尾につく。
「今から2時間だと日が暮れる前には正門に着くんじゃない? 」
ステラは太陽の位置を見て分析する。
「ああそうだな。まぁギリギリ日暮れには中央都市に入れるだろ」
レオは行列の向こうにある正門を眺める。
それから2人は中央都市に入ったら何をするかプランを立てて時間を潰した。
「あと少しねレオ」
レオとステラの前にはあと二組なっていた。
「結構時間かかったな。あと30分ぐらいで日が暮れるなこれは」
レオは太陽の位置を見て予想した。
「ほんとね話せるだけの内容を話した気がするわ」
ステラは少し遠い目をしていた。
そしていよいよ2人の番が来た。
「通行許可証をみせてくれ」
門兵が2人の通行許可証の提示を求めた。
レオはコートの内ポケットから2つぶんの許可証を出し門兵に渡す。
門兵はそれを受けとるとすぐに目を通す。
それからしばらくして
「うむ、よろしい。お前ら2人は観光か? 」
門兵は許可証に押印をしながらレオに聞く。
「ああ観光も目的の1つだが、メインはこいつの戸籍作りだ」
レオは親指でステラを指し答える。
「そうか、もしかしてバルレーベンとライナードの戦争孤児か? 」
「その通りだ。帝国寄りの村でこいつだけが生き延びてるのを見つけてな。なかなか酷い有様だったよ。多分あの壊滅の具合からして帝国がやったんだろうな。ライナードの戦い方だったらああはならねぇ」
レオの言葉に門兵の顔は少し暗くなる。
「そうかそれは辛かっただろうな。まぁ新しいスタートを切る意味でもグラム共和国で少しリフレッシュしてくといい」
門兵はそう言い押印した許可証を返す。
レオはそれを受け取りコートの内ポケットに戻し門兵に一礼して正門をくぐる。
そして2人はお互い無言でしばらく歩き門からだいぶ離れた位置でステラが立ち止まる。
「ねぇレオ、なんであんな嘘をついたの」
ステラはレオを問い詰める。
「戸籍を作りたいってやつの理由は大抵元奴隷だったとかスラム出身とかそういう理由になる。だけどその2つとも正直お前には当てはまらない少なくとも元奴隷の場合は付添人なんていないもんだし、スラム出身の場合はお前のように綺麗な容姿のやつはどっかの男に買われる。だから1番戦争孤児が理由としてつけやすい。実際あの門兵は俺らのことを疑ってたぜ」
レオの返答を聞きステラは眉間にしわを寄せる。
「なんで疑ってるの? まさか……」
「さすがにそれはない。が、まぁ少なくとも俺とお前は兄妹って言うには似てないし夫婦って言うにはお前が若すぎる。だからあの門兵は怪しみ俺らが来た理由を聞いたんだろう」
レオの推理にステラは驚く。
「ステラ、こういう機微に疎いと後々損をするのは自分だ。俺が一緒にいてやれる時はカバーできるが何かが起きてお前だけになるかも知れない。だからこれから少し意識してみろ。相手に自分がどう思われてるか周りが自分をどう見ているかをな」
レオはそれだけ言うと歩き出す。
ステラは今レオに言われたことを頭の中で反芻した。
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「やぁラピスさんこんばんは」
少女、ラピスの前に依頼主である青年が現れた。
「お前この前帝国にいたはずなのにどうやってここに来た? 」
ラピスは目の前にいる青年がここにいることに心底驚いている。
無理もない今ラピスと呼ばれる少女がいるのはグラム共和国中央都市。ラピスが言っていることが事実ならば帝国とグラム共和国中央都市までの距離は直線にしても3000キロ近くある。だが、途中に険しい山脈があるため徒歩以外はどうしても回り道をしなければならないため通常ならば片道10日以上の距離である。
「おやすごいですねラピスさん本当に僕の正確な位置がわかるんですか」
青年は相変わらず笑みを顔に貼り付けている。
「で、どうやって来たかでしたっけ? まぁそれは秘密ですよ。知られたら色々とマズイですからね。あーでも僕が帝国にいたってことは知られちゃったんでしたっけ? そーなるとどうしよう困ったな」
青年の笑みは変わらないため困った様子に見えないがそれでも困っているのか首をかしげる。
「まぁラピスさんの
青年はウィンクをしてラピスに遠回しに忠告する。
ラピス自身もこの青年の事情にこれ以上深入りすればマズイことに薄々勘付いていたため頷き了承した。
「では、そろそろ本題に入りましょうか。ラピスさんのご指摘通り僕がわざわざ帝国からここまであなたに会いに来た理由はあなたに情報をお伝えしに来るためなんですよ」
「情報? 」
「ええ情報です。今回彼がここに来た目的という情報をね」
青年の笑みが悪い笑みへ変わっていく。
「彼は今回、連れの女の子の戸籍を作るためにこの都市に来たみたいなんですよ。だから彼は絶対にあそこに行きますよ」
「戸籍……ってことは都市会館」
「ピンポーン大正解!! ラピスさんも昔はお世話になったんですもんね知ってて当たり前ですね」
「ま、伝えることは伝えたんで僕はこれで、それではラピスさん一週間後に依頼達成の報告をお待ちしております」
青年はそれだけ言うとラピスに背を向け路地の闇に消えていった。
「あいつ私が暗殺を半ば諦めていることを見抜きやがった。……ムカつく」
ラピスは青年が消えた闇をしばらく睨みつけていた。
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