第147話 魔女達の狙い その1
「……なんでお前がここにいる?」
俺がゆっくりとそう言うとクラウディアは少し不思議そうな顔で俺を見る。
「フフッ……簡単だろう? 私はね、一度気に入ったものをみすみす逃すような真似はしない……だから、ここまで来たんだ」
そう言われて俺はチラリとウルスラを見る。ウルスラは苦笑いして俺を見る。
「……なるほど。最初からこうなる予定だったわけか」
「あはは……仕方ないだろう? あの時は……クラウディアがこうでもしないとリベジスタから出してくれないって言うんだから。むしろ感謝してほしいくらいさ」
俺は何も言わずにクラウディアの方へと視線を戻す。クラウディアは相変わらずの不敵な笑みで俺とエルナを見ている。
俺は今度はエルナを見てみる。エルナは……少し不安定そうだった。クラウディアに視線を向けたままで、視線を動かそうとしない……
「……で、アンタは単にウルスラの手伝いをするためにここまできた……そういうわけか?」
「ああ。既に姫様もこの小屋の主人も、私の部下たちが舟で帝都に向けて護送している最中だ。そして、君たちもそれに続く、というわけだ」
「何? というか、シコラスもお前らが……一体何が目的だ?」
俺がそう言うとクラウディア華にも言わずに小さく微笑む。
「今ここで話すことじゃない。さぁ、ロスペル。舟に乗ってくれ」
「……断ったら?」
俺がそう言うとクラウディアは目を丸くした後で嬉しそうに、無邪気に微笑む。
「フフッ……君らしいな。しかし、それは無理な相談だ」
「……なぜだ?」
「それは、君がエルナ・エクスナーを見殺しに出来ないからだ」
そう言われたと同時に俺はエルナの方を見る。
「エルナ……お前……」
見るとエルナは短剣を取り出し……自身の首筋にその剣先を突きつけていた。
「ロスペル……私は……一体……な、何をしているんだ……?」
エルナ自身も怯え、困惑しているようである。俺は今一度クラウディアの方を見る。
「お前……まさか……」
俺はクラウディアの能力を思い出す……魅了の能力。
エルナは一度その能力の影響を受けている……もし、その能力の影響が未だに残っているとするならば……
「フフッ……いやいや。私を慕ってくれる人間というのは……付き合いも長いものでね。長い間会わなくても、意思ではなくその身体が……私のために命を賭けてくれるんだ。それこそ、私が死んでほしいと思えば喜んでそれに従ってくれる……不思議だろう?」
クラウディアはそう言ってエルナを見る。
その言葉でエルナがクラウディアの影響を受けているのは理解できたが……本気で言っているのか、それともマジで無自覚なのか……
「ロスペル」
俺が困惑していると、ウルスラが俺に声をかけてきた。
「従おう。ここで反抗するのは無意味だ」
冷静にそういうウルスラ。俺は……鋭くウルスラを睨みつけた。
「……エルナを開放してくれ」
俺がそう言うとクラウディアは俺たちに背を向ける。それと同時にエルナは剣先を喉元に突きつける行為をやめることができた。
「エルナ……大丈夫か?」
「あ、ああ……私は一体……」
不安そうにそういうエルナに手を貸してやりながら、俺たちはクラウディアの方を見る。
「フフッ……賢いな。さぁ、付いてきてくれ。船はこっちだ。ロスペル。君とは一度ゆっくり話をしたかったんだ」
そういって、嬉しそうにクラウディアは歩き出す。
俺とエルナ、そしてウルスラは静かに小屋を出て、クラウディアの後を付いていったのだった。
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