第146話 魔女の棲む島 その4

「……変わらないな」


 俺は小屋の中に入って思わずそう言ってしまった。


 実際、俺が小屋を去った最後に見た光景と、今俺の目の前に広がっている光景は全くといっていいほど、変わらないものだった。


 何に使うかよくわからない道具、そして、辺り一面に散乱している木材やガラス玉……


「ここで……魔人形を作っているのか?」


 エルナが気味悪そうにそう言う。


「……いや。シコラスは作っていなかった。ここらへんの汚い残骸は……俺の作業跡だな」


「そう。ここで君は、魔人形を作った。愛しい恋人……自らが殺めた人間を、人形としてよみがえらせるために」


 ウルスラはわざと俺に記憶を蘇らせようとするかのようにそう言った。俺はチラリとウルスラの方を見る。


「……ああ、そうだな。で、お前の話に戻ろうか」


「僕の話? 一体何の事だい?」


「とぼけるな。言ったじゃないか。シコラスはどこに行ったんだ?」


 ウルスラが言いかけたとおりに確かにシコラスの姿はどこにも見えない。ウルスラは無表情のままで俺とエルナを見る。


「……ロスペル。いいかい? 言った通りなんだ。もう、僕だけの問題じゃない。君が姫様を魔人形にしたという事実は、多くの人間を巻き込んでいる……だからこそ、師匠はここにはいないんだ」


「どういうことだ? それと何の関係がある?」


 面倒くさそうに表情を曇らせるウルスラ。それから、俺達の背後から扉が開く音がした。


「……誰か来たぞ」


「ああ。最初からこの島に……僕と共にやってきていた人物だね」


「……まさか、ミラか?」


 俺はウルスラの置き手紙を思い出す。しかし、ウルスラは自嘲気味に微笑んでから首を横に振る。


「いや……彼女とはこの島まで来たんだが……もうこの島にはいない」


「いない……つまり、出ていったのか?」


「ああ……姫様と一緒にね」


 そういった途端、エルナが短剣を引き抜いた。


「マイスター……貴様……!」


 エルナは今にも飛びかからん勢いでウルスラを睨みつけている。しかし、ウルスラはそれに動じることはない。


「落ち着け、エルナ」


「落ち着いていられるか! 姫様は今、わけのわからんやつと一緒にいるんだぞ? お前は不安じゃないのか?」


「……大丈夫だ。ウルスラの話を信じるならば……コイツやミラはリゼに何かすることはできない……今コイツは……いや、コイツ等魔女は……リゼを中心に動いているみたいだからな」


「その通り。中々の考察力だな。ロスペル・アッカルド」


 と、俺とエルナの背後から聞き覚えのある声……聞いていると、なんだか妙に虫唾が走る声が聞こえてきた。


「……なるほど。リゼが町からいなくなったのも……ウルスラが俺たちより先にこの島に来られていたのも……お前のおかげ、ってわけか」


「フフッ……ああ。その通りだ。嬉しいよ。また君たち二人に会うことが出来るなんてね」


 ズール帝国の軍服を着こなし、帽子を目深に被り、マントを羽織った長い金髪の女性……不敵な笑みを称える女性がそこに立っていた。


「……クラウディア」


 再び俺たちの前に現れた「兵侍らす魔女」は、相変わらずの尊大な態度で俺たちの前に現れたのだった。

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