第145話 魔女の棲む島 その3

 ランタンを持ったウルスラは俺とエルナを見ても動じることはない。


 どうやら……最初から俺とエルナがここに来ることをわかっていたようだ。


「……マイスター・ウルスラ」


 エルナは、今にもウルスラに飛びかからん剣幕で、ウルスラのことを睨みつけている。


 おそらく今のエルナは……ウルスラがリゼの失踪に関わっていると完全に判断しているのだろう。


「フフッ。随分と遅かったじゃないか。あの町で色々あったのかい?」


「……マイスター。そんなことはどうでもいい。姫様を……どこにやった?」


 既にエルナは短剣を取り出して、完全に臨戦状態だった。ウルスラは俺の方をチラリと見る。


「……エルナ。落ち着け。コイツの性格は分かっているだろう?」


 俺がそう云うとエルナはそれでも我慢ならないようだったが……なんとか短剣を鞘に納めた。


「ふぅ。やれやれ。エクスナー少尉……僕は仮にも君たちと旅を共にした仲間だよ? 姫様を攫うわけないじゃないか?」


 しかし、エルナは鋭い瞳でウルスラを見ている。


「……信じられない。姫様があの町に居るのを知っていたのは……アナタだけだ」


 エルナがそう云うとウルスラは大きくため息を付いてから、俺の方を見る。


「ロスペル。君の方は……いや、聞かないでも答えは決まっているか」


「ああ。俺は……お前が関わっていると思っているからな」


 俺がそう云うとウルスラは肩をすくめる。そして、俺たちに背を向けて歩き出した。


「ついておいで。師匠の家に案内するよ」


 そういって、ランタンの炎が揺れ、ウルスラの前方の道を照らす。


「……どうする?」


 エルナがそう聞いてくるが……俺の答えは既に決まっていた。


「決まっている。アイツの後を付けるしか無い。無論……ロクでもない出来事が待っているだろうがな」


 俺は歩き出した。エルナも納得がいかないようだったが……とりあえず、その後をついてくる。


 道は……ランタンの炎がなければ歩けない程に暗かった。


 しかし、俺は覚えている。この道を……この陰気臭い、孤島の雰囲気を。


「姫様は、無事だ」


 俺とエルナの先を行っていたウルスラは唐突にそう言った。


 エルナはそのまま飛びかかろうとしていたが……俺が肩を掴んでそれを制止する。


「ロスペルの言うとおり、僕は関わっている。だけど、もうこれは僕だけの問題じゃない。いや……問題じゃなくなってしまった」


 そういって、ウルスラは歩みを止める。そして、前方には小さな小屋……


「……シコラスの工房か」


 俺は思わず呟いてしまった。本当にただの小さい小屋……しかし、どこか禍々しい気配が、既に小屋の外に漏れ出しているような場所だった。


「さて、入ろうか」


「入るって……勝手に入って良いのか?」


 俺がそう云うとウルスラはニンマリと微笑む。


 その笑み……俺は間違いなく今俺とエルナは良くない状況にいることを理解する。


「ああ。問題ないさ。師匠は……今ここにはいないしね」


「……何?」


 俺がそういう間もなく、ウルスラは小屋の扉を開ける。


「さぁ、ロスペル。エクスナー少尉。入るんだ」


 半ば命令するかのように、ウルスラは俺とエルナにそう言った。


 俺とエルナは顔を見合わせるが選択できる行為は一つしかなかった。


「……間違いなく、良くないことが起こるな」


 エルナが小さな声でそう言う。


 俺もその言葉に同感しながらも、ウルスラに言われるままにシコラスの工房である小さな小屋の中に入っていったのであった。

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