第6章 動き出す流れ
第143話 魔女の棲む島 その1
霧が漂う海上を、ディーネが操舵する舟はまるで滑るようにして走っていった。
そして……段々と海の向こうに黒い影が見えてきた。
「あれか……」
エルナが小さな声で呟く。俺は……見覚えがあったので何も言わなかった。
それはそうだ。少なくとも数年……俺はあの島で魔人形作りに没頭していたのだ。ある意味では故郷のような感覚すらある。
「……あそこにシコラスがいるはずだ」
シコラス……俺に魔人形の作成方法を教えた魔女……正直、今舟を操舵しているディーネも相当の曲者だったが……アイツのニヤケ顔を思い出すと、アレほどの奴はいないと俺は確信する。
「そろそろですね~。いやぁ……それにしても本当に行くんですか~?」
と、いきなりそれまで黙っていたディーネが、相変わらずの調子で俺とエルナにそんな事を言ってきた。
「……どういう意味だ?」
俺がそう訊ねると、ディーネはニコニコしながら俺を見る。
「こんなことを言うのもなんですけど~、あの島に行っても、アナタ達の求めるものは得られませんよ~。たぶん」
ニコニコしながらそんなことをいうディーネ。俺もエルナも何も言わずにただ奴のことを見ていた。
「それより~、街に戻りませんか~? 辛い現実より、楽しい幻の方が、私は良いと思うんですが~」
……なるほど。最後の勧誘というわけか。俺はやれやれと肩をすくめる。
「……悪いが、俺は別にお前が作り出した幻の世界……楽しいとは思えなかったんだがな」
俺がそう言うとディーネは少し不満そうに頬を膨らませる。
「そうですか~……でも、ロスペルさん。アナタ……このままだともっと辛い思いをしますよ~? それでも、幻の世界を拒否するんですか~?」
「……くどいな。俺はもう十分辛い思いをしてきたよ。これ以上は……ないね」
俺はそう言ったが……ディーネはまるで俺を心の中を見透かすような視線で俺を見る。
「そうですかね~……きっと、後悔しますよ~」
それだけ言うと、ディーネはそれ以上は喋らなかった。俺もエルナも何も言わなかった。
ただ、孤島の影だけが、まるで巨大な獣のように、俺とエルナの方に近づいてきていたのだった。
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