第142話 彼女を追って

「……これが、海か」


 と、俺とエルナは……ディーネに案内されて、港までやってきた。


 ディーネがいるせいか、海からは霧が発生しており、とても不気味な感じがする。


「エルナ……お前も海、見たことなかったのか?」


「……恥ずかしながらな。姫様と一緒に……見られればよかったのだがな」


 悲しそうな顔でそう言うエルナ……俺でさえリゼのことが心配なのだ。おそらくエルナの心配は耐え難いものなのであろう。


「うふふ~。大丈夫ですよ~。リゼさんは乱暴されたりはしていません~。ちゃ~んと孤島にいますから~。だって、私が船でお送りしましたからね~」


 ディーネのその言葉にエルナも俺も思わず青いローブの魔女を見てしまう。


「貴様……ということは、本当にそれこそ、短時間で姫様は……一体誰の命令で……」


 エルナは今にもディーネに飛びかからんばかりに激昂しているが……俺には誰の命令か大体想像できた。


 あの家に置かれていた紙切れ……間違いなく、リゼを攫っていったのはウルスラだ。


 しかし……ウルスラ一人でそれができるとは、到底思えない。リゼを誘拐するにしても、ウルスラ一人では無理だ……つまり、誰か協力者がいる可能性がある……俺は何となくそう考えてしまった。


「まぁまぁ~。そう焦らないで下さい~。孤島まではきちんとご案内しますから~。さぁ、舟に乗って下さい~」


 ディーネがそう言うと、港の桟橋の方に……小さな舟が付けてあった。


 俺とエルナは顔を見合わせた後で、お互いに小さくうなずき、そのまま桟橋の方に歩いていく。


 小さく……かなりボロボロの舟であったが、孤島に行く方法がこれしかないというのならば仕方がなかった。


 俺とエルナはそのまま舟に乗り、腰を下ろす。


「さぁ~。行きますよ~」


 そういって、ディーネは舟の背後に立つと、櫂を持って、舟を漕ぎ出す……舟はまるで滑るようにして少しずつ海上を移動し始めた。


 霧が……海の上を覆っている。この海上までもあの霧の町と同じような状況であることは、俺にも理解できた。


「……なぁ、ロスペル」


 と、エルナは小さな声で……俺にだけ聞こえる程度の声で語りかけてきた。


「……なんだ」


「……姫様に万が一のことがあったら……私を殺してくれ」


 いきなりそんなことを言い出すエルナ……俺は思わず面食らってしまった。


「……なぜだ?」


 俺がそう言うと、暗い海上を睨みつけながら、エルナは先を続ける。


「……私は、姫様のために生きてきた……本当にそれだけが私の存在理由だ。だから、姫様が居ない世界では……生き続ける自信がない」


 エルナは……真剣だった。それに、今までのことを考えれば……エルナが本気でそう言っているのは、俺にも理解できた。


「……大丈夫だ。今のリゼは……皮肉なことに、人間だった頃より頑丈になっている。ちょっとやそっとのことじゃ、万が一の事は起きないよ」


 俺がそう言うとエルナは少し俺のことを鋭い視線で見つめていたが、フッと優しく微笑んだ。


「……その点は、お前に感謝するべきなのかな?」


 俺とエルナがそんな会話をしている間にも、小さな舟は霧の海上を滑るようにして進んでいくのだった。

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