第141話 急転

 そして、俺とエルナは元いた家に戻ってきた。


 しかし……


「……姫様は?」


 リゼが……いないのである。


「……おいおい。ここにいろって言ったよな?」


 俺がそう言っている間にもエルナは顔色を真っ青にして辺りを見回している。


「姫様! どこですか!?」


 俺はそんなエルナとは違い、落ち着いていた。


 リゼは……頭の良いやつだ。こんな不気味な町を、一人でうろつくほど、愚かじゃない。


 そうなると、答えは簡単である。リゼは……自分からいなくなったのではないということ。


 と、俺は家の中の机の上に、小さな紙切れ……というよりも、見覚えのある紙切れを見つける。


 俺はそれを手に取り、文面を見る。


「……エルナ」


「なんだ!? 姫様がいないんだぞ! お前も探せ!」


 俺は返事はせず、エルナにも紙切れを見えるようにする。エルナは顔面蒼白のままで俺の方に来る。


「これは……なんだ?」


「……ウルスラだな」


 俺はそう言って、文面に視線を戻す。


『親愛なるロスペル、エクスナー少尉。安心してくれ。姫様は安全に、我々が預かった。なるべく早めに師匠のいる島に来てくれ』


 ……なるほど。ご丁寧な誘拐犯からの手紙のようだった。


「……あの魔女め! 姫様をどうする気だ……!」


 忌々しそうにエルナがそう言う。


 ウルスラの目的……


 アイツは、リゼのことを自分の実験材料として見ていない……「安全に」という言葉も怪しいものである。


「エルナ。朝まで待つつもりだったが……行くぞ」


 俺がそう言うとエルナは少し驚いていたが、すぐに頷いた。


「あら~? もしかして、船が必要ですか~?」


 俺たちのすぐ背後から間延びした声が聞こえてくる。俺とエルナは同時に振り向いた。


「……ディーネ」


 そこは青いローブを来た少女……ディーネが立っていた。


「なっ……お、お前も……どうしてここに……」


 エルナは少し恐怖していた……どうやら、やはりエルナはディーネを何か別の「モノ」と勘違いしているようである。


「うふふ~。どうしてもと言うのなら~、孤島までの船……私が出してあげますよ~?」


 そう言って、胡散臭そうな笑顔を浮かべるディーネ。


「……お前の言葉、信用できると思うのか?」


 すると、ディーネは少し目を丸くしていたが、すぐに元の胡散臭い笑顔に表情を戻す。


「はい~。お二人には、私も~、とても楽しませてもらいましたから~」

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