第139話 還ってきた二人

「よかったです……二人共、無事で……」


 不安そうな顔でリゼはそう言った。


「すいません、姫様……私はどうにも記憶がないもので……」


「……それでは、エルナは、ロスペル様がいなければ……帰ってこられなかったのでしょうか?」


 あどけない表情でそういう人形の姫様。そう言われてしまうと、エルナはバツが悪そうな顔で俺を見る。


「……そういうことに、なるかもしれません」


「うふふ……では、エルナ。ロスペル様に御礼を言わなければいけませんね」


 ニッコリと微笑みながら、リザはそう言う。


 段々分かってきたが……リゼは単純に「優しいだけ」のお姫様ではないようである。


 そう言われてやむを得ないという感じで、エルナは嫌そうな顔で俺を見る。


「……ロスペル。助かった」


 とても御礼を言っているとは思えない鋭い目つきだったが……俺は小さく頷いた。


「それで……今日はどうするんですか? もう夜です……さすがに今から港を出るのは危険ですよね?」


 リゼが不安そうにそう言う。それに関しては……俺も同意見だった。


「そうですね……一先ず、この家の中で休みましょう」


「ですが……ディーネさんはいつ帰ってくるのでしょう?」


 リゼがそう言った途端、エルナがビクンと背筋を伸ばした。


「姫様……姫様はディーネとここまで来たのですか?」


 恐る恐る、エルナはリゼにそう訊ねる。


「え? エルナは会いませんでしたか? ロスペル様はお会いになりましたよね?」


「え? あ、ああ……まぁ……」


 俺はそう言ってから、チラリとエルナを見る。エルナは涙目で悔しそうに俺の事を見ていた。


「……ゴホン。姫様……その……あの魔女は、どうにも信用できません。それに、この町は危険です。間違ってもあの魔女を探しにいくような真似はなさらぬように」


「え……でも――」


「姫様!」


 と、いつもリゼに従順なエルナが声を荒げて制止する……よほど「そういう話」が苦手のようだった。


「あ……そ、そうですね……エルナがそこまで言うなら……」


 リゼも少し唖然としている。そして、エルナは俺の方をキッと睨みつける。


「……ですが……周囲を警戒する必要はあります。少しロスペルと周囲を警戒してきます。無人の町とはいえ、賊が出ないとも限りませんから」


 そういって、エルナは立ち上がり、俺についてくるように指示する。


「え……また行ってしまうのですか?」


 リゼが不安そうに俺を見る。俺は苦笑いでリゼを見る。


「……お前の従者にも苦手なものがあるってこと、知っておいた方が良いぞ」


「ロスペル!」


 背後から聞こえた怒鳴り声で、俺は慌ててエルナの方へ走っていったのだった。

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