第138話 絡みつく過去 その3
心が激しく揺さぶられる……これでいいのか?
俺は思わずエルナ……エルナ? 違う。
彼女は……リザだ。
目の前にいるのはリザ……ようやくそう認識できた。
そして、俺はリザにそのまま近づいていってしまう。
「リザ……俺は……」
俺がそう言うとリザは俺の手をとって優しい目で俺を見てくれる。
「大丈夫……今度はずっと……一緒にいてあげるから」
そういって、オレンジ色の光がリザの顔を……髪を照らす。
綺麗な黒い髪……黒?
リザの髪は綺麗な黒だった……本当か?
……違う。忘れるわけがない。リザの髪は……黒ではない。
それと同時に俺は思い出した。
魔人形作成の時に頭部に縫い込んだ黄金色の髪の毛のことを。
俺が魔人形を作成した時に……殺してしまった少女のことを。
「……フッ。やれやれ……まったく……ウルスラが可愛く思えてくるくらい、アンタはクソみたいな魔女だな」
俺はそう言ってディーネの方に振り返った。
最初ディーネはキョトンとしていたが、すぐに悔しそうに顔を歪める。
「……後一歩の所で気づきましたか~。ざ~んねん。つまらないですね~」
すると、ディーネはまたしても霧のように消え去った。
まるでそれこそ、最初からそこにいなかったかのように、跡形もなく消え去った。
ディーネが消えるとともに……俺がいたはずの小屋の風景も、一瞬にして、元の霧の町に戻ったのだった。
「……戻ったか」
町は……既に霧に包まれていなかった。俺がリザと別れた時と同じように、死んだような町のままだった。
俺の傍らにはエルナが倒れている。俺はエルナの肩を叩く。
「エルナ。起きろ」
「う……うぅ……ロスペル……」
少しつらそうにしながら、エルナは目を覚ます。
「大丈夫か? 自分が誰か分かるか?」
俺がそう言うとエルナは怪訝そう顔をして、俺のことを見る。
「……私はエルナ・エクスナー……当たり前だろう。そもそもお前こそ……どこに行っていたのだ?」
そのセリフを聞いて、俺はホッとした。
どうやら、記憶は混濁していないらしい。
「……何も覚えてないのか?」
「何? ……そうだな。なんだか頭に霧がかかったような……そんな感覚だ……はっ! それよりも姫様は!?」
慌てた様子でエルナはそう言って俺に詰め寄る。
「大丈夫だ。安全な場所にいる」
俺がそういうとエルナは安心したようだった。
しかし……記憶をそもそもエルナは覚えていないらしい。最も、覚えていると覚えていたらで、少し面倒なことになりそうだのだが。
「そ……そうか……しかし……妙な町だな。ここは」
エルナはそう言って、周囲を見回す。
俺はディーネが言っていたことを思い出す。ディーネが言っていたことが全て本当ならば……この町には誰も住んでいない。
それならば……俺はどうやって船を出したのだろうか。
そして、あの不気味な魔女、ディーネはどこに行ったのか……
「おい、ロスペル。姫様の所に案内しろ」
そんなことを考えていると、エルナが俺にそう言ってきた。
実際、早くリゼの元に戻らなければいけない……俺はリゼと別れた家の方に向かうことにした。
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