第137話 絡みつく過去 その2
なんだ……エルナは何を言っている……
リザ……違う。リザじゃない。
リザは、俺が……
「どうしたの? ロスペル? 顔色が……」
心配そうな顔でエルナはそう言う。そうだ。コイツはエルナだ……今までずっと旅を一緒にしてきた。
「……エルナ。やめてくれ。俺は……」
「ロスペル……大丈夫。戦争から帰ってきて、疲れているんだよね? 少し経てば私が誰だったか、思い出してくれるよね?」
優しくそう言うエルナ……エルナ? エルナ……本当にコイツはエルナなのか?
エルナは……俺にこんな風に優しくなかった。こんな風に俺に優しくしてくれたのは……リザだった。
小屋の窓の外からはオレンジ色の光が差し込んでいる……もうすぐ山の向こうに夕日も沈んでしまうだろう。
「……違う。これは、幻で――」
「本当に、幻なんですか~?」
ふいに間延びした声が聞こえてきた。見ると、そこには青いローブを来た少女……
「お前……」
そこにいたのは……ディーネだった。嬉しそうな笑顔で俺を見ている。
「え……ロスペル……この子……誰?」
エルナが不安そうにそう言う。いきなりどこからともなく現れたディーネは確かに不思議な存在だった。
「……少し黙っていてくれ」
俺がそう言うとエルナは不安そう顔で小さく頷いた。
「……お前が言ったんだぞ? これが幻だって」
「ええ~。実際、幻ですよ~? ですが、この世界を拒否する必要があるんですか~?」
ディーネはそう言ってニヤニヤとした、魔女特有の不気味な笑みを浮かべる。
「この世界は……アナタが望んだ世界ですよ~? アナタの幼馴染が生きていて~、村の中でもアナタは除け者にされていない……今のアナタの状況より良いじゃないですか~?」
「違う! コイツは……リザじゃない! エルナだ!」
「うふふ~。関係ありませんよ~。その女性は、アナタの幼馴染を演じることを、苦痛だと思っていない……それどころか、元の自分ではない、別の人間になりたがっていた……だから、自分をアナタの幼馴染だと言い張っているんじゃないですか~」
そう言われて俺はエルナを見る……エルナは心配そうに俺のことを見ていた。
「ロスペル……ね? 私は平気だから……また、一緒にやり直そう」
……そのセリフは……俺がリザに求めていたセリフだった。
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