第136話 絡みつく過去 その1

 俺の幸せな記憶は……リザと過ごした幼少期に集中している。


 村でリザと遊び、お互いがお互いのことを信用しあっていた。


 その時に決まって遊び場になっていたのが……村の外れにある小屋だった。


 そして、リザは何か嫌なことや、悲しいこと……俺と喧嘩した時なんかはよくこの小屋に篭っていた。


 それというのも、そういう時、リザは何も言わずにどこかに行ってしまって、村中で捜索するというハメになってしまっていたので、俺だけはリザがどこに行ったか把握するようにしていたのである。


 そして、今……エルナがいなくなった。もう村の中に探す場所は……そこしか残っていない。


「……だけど、エルナがあそこにいるっていうことは」


 そもそも、あの場所はリザしか知らないはずの場所なのである。しかし……もし、エルナがそこいるとすると矛盾が生じる。


 一体どうしてエルナがあの場所に行けるのか。


 もし、いるとするとエルナは一体どうやってあの場所の存在を知ったのか……俺は段々と不安になってきた。


 足早に、村の外れの小屋を目指した。見ると、いつの間にか幻の世界は夕暮れとなっていた。


 幻の世界でも時間が立つことがあるのかと思うと、なんだか益々不思議な気分になってくる。


 自分が居るのが現実なのか、幻なのか……益々わかりにくくなってくる。


「……違う。これは幻だ」


 俺は自分に言い聞かせるようにしながら、そうして、ようやく村外れの小屋に着くことが出来た。


 小屋はかなり古びており……基本的に誰も立ち入らないような場所だった。実際幻の世界でもその通りの外見だった。


 しかし、やはりそれを知っているのもリザだけなのである……だとすると、エルナは……


 俺はゴクリと生唾を飲み込んだままで小屋の中にゆっくりと入っていった。


 小屋の中は雑然としていて、様々な荷物が無造作に置かれている。


「……エルナ? いるのか?」


 俺が呼びかけても、声は返ってこない。その代わり、小屋のどこからか……すすり泣くような声が聞こえてくる。


「……エルナ?」


 声は返ってこないが……すすり泣く声は近づいてきた。


 ……すすり泣きの声は……間違いなくエルナの声だった。


 しかし……なぜだか酷くは不安そうな……とてもいつもの気丈なエルナの声調子ではなかった。


 と、俺が小屋の奥に進んでいくと……見つけた。見ると、大きな木箱の影に隠れて、うずくまるようにしてエルナが泣いていた。


「エルナ……何やってんだ? 心配したぞ」


 俺がそう言うと、エルナは顔をあげて俺を見る。すると、一層顔をくしゃくしゃにしていきなり俺に抱きついていた。


「ロスペル! どこに行ってたの!?」


「え……お、おい……」


 意味がわからないままに俺は抱きついてきたエルナを引き離す。エルナは相変わらず泣きじゃくっている。


「どこに行ってた、って……お前を探して――」


「何言っているの!? 戦争に行ったまま帰ってこなくて……私、とっても寂しかったんだから!」


 ……どういうことだ? 俺が相対しているのは……間違いなく、エルナだ。


 しかし、この物言い……そして、この言葉調子は……


「お前は……誰だ?」


 俺がそう言うとエルナはキョトンとした顔で俺を見て、またしても悲しそうな顔……というよりも怒ったような顔で俺を見た。


 その表情は……かつて、この小屋で何度も出会ったことのある俺のかつて愛した女性そっくりの表情で……


「酷いよ……私は……アナタの妻になる予定のリザ……リザ・クレスターニでしょ?」

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